現世 39
オリジナル日本古代史です。突っ込まずに読んでいただけると助かります。
天照大御神が天岩戸からお出ましになった後、弟神である素戔嗚尊は罪を問われ、根の国に追放になることが決まった。追放に際し、素戔嗚尊は高天原の宝物殿の中から、八咫鏡を無断で持ち出した。一応、残されていた手紙には、高天原の、姉である天照大御神の思い出の品として頂きたい、と書かれていたが、それが発覚したのが、邇邇芸命の降臨直前であった事から、高天原は騒然となった。その場にいなくても、騒ぎを起こす才能に恵まれた弟神に、姉神の天照大御神は、邇邇芸命に八咫鏡の回収を命じる。素戔嗚尊は姉からの心を込めた返却を願う手紙に感動したものの、地上での権力の象徴となる八咫鏡を素直に差し出すことが出来ない。
実際、根の国に暮らす素戔嗚尊の元に八咫鏡は既に無く、豊蘆原の瑞穂の国を治めている娘婿・大国主命に譲っていた。そして、大国主命は、結婚にあたり出された素戔嗚尊の数々の試練を助けてくれた因幡の白兎に礼として八咫鏡を与えた後であった。
無い物を譲り渡すことは出来ない。しかし、盗んだ、と主張されれば、勝手に持ち出したのも事実。
そこで、素戔嗚尊は八咫鏡の代わりに、八岐大蛇を退治した時に手に入れた天叢雲の剣を邇邇芸命に差し出した。
「?三種の神器に元々、天叢雲剣は含まれていますよね。」
ここまで、照姫が話をした時に、武流は口を挟んだ。
「ふむ、伝承・神話の類は、それぞれの立場によって、都合よく解釈されるものじゃからの。少なくとも、妾達はこの話を真実として伝えてきておる。」
邇邇芸命はその取引に応じ、天叢雲剣を持って、根の国を去った。しかし、八咫鏡を諦めたわけでは無く、天照大御神によって、命じられた国譲りを全面に押し出し、豊蘆原の瑞穂の国の大国主命を問い詰め、因幡の白兎から八咫鏡を取り返す事に成功した。その対価に大国主命は出雲に巨大な神殿を建てる許可と、この世の目に見えない世界を司る権利を得た。
「八咫鏡は伊勢神宮に祀られ、その後、源平の時代に失われたのだったか?まあ、古の伊勢一族が其方と同じぐらい優秀なれば、源平の戦いの折、みすみす、神器を海の藻屑とするはずがない、と思うのじゃがの。」
意味深に武流をみる照姫は、何かを確信している様に微笑むが、武流とて、暗部の一人に過ぎない。伊勢一族の秘密の全てを知っている訳でも無く、何を意図して振られた話なのか、首を傾げる。
「貴女の話は矛盾に満ちている。第一、貴女の見ている鏡、それが八咫鏡と言うのなら、出雲衆が神器を回収した、と言う事なのでしょう?私に何を探させたいのです?」
「これは、八咫鏡の半身じゃ。因幡の白兎は大国主命より八咫鏡を譲り受ける際、自分には過ぎた物、とその鏡を二つに分け、片方のみを得たのじゃ。残りの半身は大国主命が肌身に付けておった。これがそれよ。邇邇芸命より八咫鏡の返却を望まれた時、天叢雲剣を受け取っておきながら、八咫鏡まで欲するその手前勝手な言い分に、賢き因幡の白兎は素直に八咫鏡を譲ることを良しとせず、自分の持つ半身のさらにその身の半身を邇邇芸命に渡した。
つまり、其方らが神器と言っておった八咫鏡は本物の四分の一に過ぎないのじゃ。
それでも、天照大御神を映した鏡には神の御業が映っておる。四分の一でも倭を治めるには十分な力となったであろう。
まあ、今となっては、騙しただの、強欲だの言うてもしようもない。お互いの立場も分かる。大国主命にも邇邇芸命にも、治めるべき国と己の矜持があったのじゃ。
さて、これですっきりしたかえ?其方に探しだして欲しいのは、行方不明になった因幡の白兎の持つ四分の一の八咫鏡ぞ。」
話を終えた照姫は、よく考えてたも、と言うと帳を下ろさせた。
考え込む武流と、蒼白な天正親子が残された。




