異世界 4
「ぱすぽーと?」
首を傾げる第二王子に春日は壁際に跳ね飛ばされたそれを指差した。
「さっきそこの白い奴が、剣ではじいた赤い冊子。私の身分を証明するものよ。」
「ほう、これは、見事な。絵?なのか?実に写実的な。これは、貴女か?似ているような?髪の長さと色が違うが。」
その声は壁際から聞こえた。春日は目を細めてその方を見た。
「あ、兄上!?」
「やあ、ギュンター。私の青騎士隊に報告もなく、何をしているんだい?召喚魔法陣の使用には国王陛下の許可と青騎士隊隊長たる私の認可が必要だと思っていたのだけれど、いつから変わったのかな?」
言葉は穏やかだが、そこに含まれた温度は絶対零度。間違いなく強者の気配を纏わせた青年が数人の騎士を従えて、入口に立っていた。
第二王子以外の人間が一斉に青年に向かって礼を取った。
「神官長?まさか、あなたまで、加わっていようとは思わなかったよ。弁明は陛下の前で聞こうか。クラウス、拘束を。」
「はっ!」
「ヨ、ヨハン殿下!わたくしは神殿に仕える者。神殿は王家の権力の外にございます!」
サンタクロース似の神官長は、青い顔をしているものの、身分を逆手に強気に出た。
「わたくしはギュンター殿下の国を思う心に感銘を受け、今回の神子召喚をお手伝いしたまでの事。こうして、神子様も無事召喚されたことですし、何も問題は無いかと思いますぞ。」
神官長の抗議が続く中、クラウスと呼ばれた騎士とその仲間達は、次々とその場に集っていた者達を拘束していく。中には、同じ色の騎士服を着た者もいたが、抵抗せずに縛られていった。
流石にギュンター第二王子を拘束するのは憚られ、取り囲むにとどめている。
「問題は無い?これは神官長の言葉とは思えないね。神子召喚は、この国の結界が綻び瘴気が溢れ、どうしようもなくなった時の最期の手段だよ。今は、結界も正常に働いているし、瘴気の話も聞かない。異世界から神子様をお呼びする必要は無い筈だよね。」
「兄上!しかし、それでは、手遅れです!瘴気が蔓延してからでは遅いのです。神子が常にこの地にあれば、素早い対応が可能となるのです!だから、俺は、自らが罪を背負ってでも、神子召喚を行ったのです。罰すると言うのなら、俺を罰せばよい。」
「ギュンター。」
咎めるその声はあくまで優しく、幼い子供を諭す様な口調だが、微かに諦めが含まれていた。
「お前という子は。どこまでも愚かだね。自分を罰せよ、と?私や陛下が正妃の第一子であるお前を害することが出来ないと信じているのだね。確かにお前が罰せられる事はないかもしれない。同様に神官長も王家の法では裁けないかもしれない。けれど、それは、誰も罪を問われない、と言う訳ではないのだよ。お前の代わりに罰を受ける者がいる。それを考えたことはあるのかい?」
はっと、ギュンター王子は捕縛された騎士たちを見た。その中には、先ほど、自分をかばうように‘ぱすぽーと‘をたたき飛ばした近衛騎士もいた。
「ギュンター殿下!殿下はこの国の正妃様のお子です。その殿下の身代わりになるのは、騎士にとって名誉以外の何ものでもございません。」
神官長が叫ぶ。
「そうか、其方か?神官長。其方が幼い弟を惑わしたのか?其方なら知っているはずだ。神殿には王家と同じく前回召喚された神子様の記録が残っているはずだね。ならば、知っていよう。前回召喚された神子様は非常に力の強い方で、結界は500年は綻びない、と明言されている。そして、こうも言われた。”この平和の確約された500年の間に、自分たちの手で結界と瘴気を解決する方法を考えよ。もう二度と、私たちのように意に染まない召喚をされる同郷の者を出さないように。もし、この約束を反古にした場合、結界は直ちに崩壊し、瘴気の元がこの地を襲うだろう、と。」
ヨハン・シュトラーゼ・サイ・フォン・ジュラ第一王子は、厳しい表情で神子の残した言葉をそらんじてみせた。




