異世界 41
ニーラカーナ・亀の魔物が再度動くことを警戒し、ヨハン王子は更に2日、海峡の砦で過ごした。魔法の鳥で飛ばした緊急の知らせに、当日夜には、辺境伯もこの地にやって来ている。極限の緊張状態の中、春日と橘花もこの地に留め置かれていた。白兎だったカーバンクルは結界に接する様に置かれた檻の中で大人しくしていた。ヨハン王子は海峡に張られた結界を引き延ばして、カーバンクルの檻をさらに強化しており、三重の逃亡防止策を敷いている。
魔物の島は、沈黙を通していた。
三日目の朝、ヨハンと辺境伯は、通常の3倍の兵士を砦に残し、一旦領都まで引き上げる事となった。周辺各国の魔物の被害状況も集まってきており、今回のニーラカーナ騒動の真実は国王へ直接報告すべき事と考えられたからだ。加えて、青騎士隊隊長とは言え、ヨハンは第一王子。しかも、今、王位継承権者である王妃の息子第二王子ギュンターは不在である。その長期にわたる不在は、まことしやかに流れる噂と共に、王国民に王家に対する不信を植え付け始めていた。
曰く、”この突然の魔物の暴走は、功を焦った平凡王子が、神子を害したためだ”と。
噂の出どころは神殿関係者から、と言うのが、王城の見解だ。更迭された神官長の関与が全く伏せられたギュンター王子にのみ向けられる悪意。王妃はヨハンが犯人だと叫んでいたらしいが、王都に不在とは言え、魔物討伐の最前線で戦う国一番の魔法師を糾弾する愚行は、今のジュラ王国にはあり得無い。現に、この噂をちらつかせ、魔法師達で構成される青騎士隊を無償で貸し出せと言ってくる国もあるのだ。
自分の国の魔物は自分の国で始末しろ、を外交的な婉曲表現で伝え、その代わりに魔物の島・ニーラカーナはわが国で引き受ける、と最大戦力を手放せない理由を伝える。外務大臣の苦労は胃薬が手放せない程だ。加えて、神子召喚の真実を知りたがる者も多く、来ているなら結界の再構築を、まだなら召喚を、とうるさい。幸い、召喚された神子も、召喚魔法陣の起動に必要な王族も、今現在、王都には不在の為、真実はのらりくらりと躱され、対応は鋭意検討中、の一言でなんとか収まっている。
しかし、これ以上魔物の被害が広がるようなら、再度、神子召喚を行う必要がある、と国策の中心にいる高位貴族達は考える。春日に課せられた魔具が外せないのであれば、仕方が無い。結局、先代神子が望んだ、神子に頼らない魔物退治など、不可能なのだ。神子召喚に必要な選ばれた血脈を維持する為の王族なのだ、現国王が血を流す事すら時と場合によっては必要。そこには攫われてくる異世界の神子の尊厳は全く考慮されず、王族に対する畏敬の念も含まれてはいなかった。
そんな王都の状況は部下の青騎士達や実際に現場を飛び回って魔物を倒している赤騎士隊隊長イザークを通して、ヨハンは正確に把握している。
ニーラカーナが再び動いた時の備えとして、本来なら、この地に留まりたいが、そう言う訳にもいかないようだ。但し、神子である春日は、このまま、この地に残していく。自らの身を守れぬ彼女たちを、国の内外を問わず、思惑が絡み合う王都に置くことは出来ない。護衛をどうするかが、頭の痛い問題だった。




