現世 32
「それで、普通につけさせれば良いのか?」
時計を観察してた武流の問いかけに、断られることも覚悟していた大和は、一瞬、呆け、その後、慌てて頷いた。
「うん、そう。着けているだけで、その人の巫力を少しずつ、奪うから。最初の内は風邪ひいたかな、って位の軽い倦怠感があるかもしれないけど。それは、ずっと着けているうちに、慣れてわからなくなる。命に影響することは、普通は無いから。でも、もし、仕掛けに気づかれた時は、武流兄の手で壊して。そうすれば、出雲衆でも復元は無理だし、術式が暴走することもない。やばいと思ったら、時計に向かって、「時よ戻れ、お前は美しい。」って言えば良いよ。装着者とその周囲3mにいる人物の巫力を根こそぎ奪うから。」
「それは、楽しみだ。・・・だが、お前のその言葉選びのセンスはどうにかならないのか?それは、ファウストのセリフだろう?」
「ふふ、ピッタリでしょ。悪魔メフィストフェレス、すなわち僕、に、魂=巫力、を奪われるんだから。」
武流は「悪趣味な奴。」と小さく呟くと自分の左手首に時計をはめた。
「武流兄のには、色々付与してあるからね。結界は物理にも精神攻撃にも有効だよ。異物に対しても反応するから、食べ物や飲み物に何か盛られてたらアラームが鳴るからね。多分、ガスにもいける。」
「・・・お前は僕に何をさせたいんだ?」
しみじみ、自分の手首の時計を眺める。
「えー、出雲衆の本拠に行くんでしょ。あの頭がお花畑の女はともかく、統領が何もしない筈が無いから、用心に越したことはないよ。ホントはもっといろいろ付加したいけど、流石につけすぎるとバレるからね。これには隠蔽をマックスでかけてるから、わからないだろうけど。」
本当に気を付けて、と繰り返し念を押す大和に、武流は苦笑し、外していた眼鏡をかけた。
「ありがとう。常に身に着ける。あの女とペアと思うと業腹だが、最強のお守りだ。必ず、何か掴んで戻って来る。」
数日後には武流は天正真美と旅行に出かける。あの女は確実に武流を手に入れる方法を準備している筈だ。それを躱して、出雲衆から異世界の情報を引き出す、ミッションインポッシブル並みの課題だ。大和は確信しているが、出雲衆が異世界人と繋がっている事すら仮定でしかない。
最悪、武流に命の危機が迫った時には、時計に刻んだ魔法陣が発動するようにはしているが・・・。切り札と呼ぶには、不確定要素が多すぎて、武流には言えない大和だった。




