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両想いになったばかりの親友を巻き込んで異世界に召喚されました。彼女の超遠距離恋愛はどうなりますか?  作者: ゆうき けい


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異世界 35

橘花は、一人っ子だ。これまで、現実で、小さな子供たちと一緒に過ごしたことなど無い。このプラハ=ハウゼン孤児院に来た当初、どう接して良いかわからない子供達は怖かった。それが今やどうだろう。

「キッカー、おはよう!」

「おはよ、ごはん、すぐ。かお、あらた?」

「まだー。キッカ、着替え、手伝ってー。」

「はーい。」

孤児院の長テーブルに、朝食のパンを小さな籠に取り分けていた橘花の元に、起きてきた子供たちがやって来る。中には、枕元においた今日着る服を抱えて着替えの手伝いをねだる子もいて、彼女はすっかり子供たちの人気者だった。


カタンコトンと音を立てて、車いすをおしてクラウスが食堂に現れる。

〈おはよう、春ちゃん。〉

親友は未だ目を覚まさないが、病気でもないのに、ずっとベッドに寝たきりにさせておくのも、どうか、と、橘花が起きる時に、車椅子に乗せている。にぎやかな子供たちの声が少しでも春日の刺激となり、覚醒につながらないか、と考えての事だ。

心なしか、彼女の表情が柔らかくなったような気がするのだ。


「おはようございます。キッカ。」

白騎士隊二席のクラウス・フォン・アインバッハは、橘花とここ孤児院で暮らしている。シンプルな襟なしのシャツとゆったりとしたトラウザーは、騎士の私服ではなく、孤児院の職員のお仕着せだ。橘花とミランダ元女官長も、グレーのワンピースに清潔なエプロン姿だ。クラウスはヨハン王子の命を受け、今は、白騎士の任務を外れ、春日の専従護衛を努めている。

「おはよ、くらうす、さま。」


プラハ=ハウゼンの孤児院院長は、アインバッハ伯爵家の人間を孤児院内に寝泊まりさせ、食事を共にする事に抵抗していたが、彼より身分の高い神子を預かる事になり、一瞬、意識を飛ばしてる間に、レイバンによって、部屋を用意されてしまった。子供たちの嬉しそうな顔と辺境伯とヨハン王子連名の直筆の手紙のダブル攻撃に撃沈した、とも言う。


現在、3歳から10歳までの12名の孤児が暮らすプラハ=ハウゼン孤児院で、橘花達が暮らし始めて、一週間になる。ヨハン王子は、領都に着いた翌々日には、ヘレナ達青騎士だけでなく、レイバンら赤騎士と辺境伯の騎士も連れて、北の海峡、ニーラカーナの視察に出掛け、未だ帰ってきていない。

春日と橘花は、孤児院に残された。

何をするでもなく、無為に日々を過ごすわけにもいかず、橘花は孤児院の手伝いをしている。手伝いと言っても、一緒になって遊んでいるだけの様な気がしない訳でも無い。元々、掃除や洗濯は子供たちの仕事でもあり、食事は毎朝、大鍋でスープが届けられる。家事一般を電化製品を使っていた橘花は、たらいで洗い物をするのは初体験である。辛うじて干す・片付けるが出来る程度。幸い、箒は学校の掃除当番で使っていたが、料理は殆どしたことが無い。


それでも、子供たちの食事を見守り、後片付けを手伝い、着替えやお昼寝の補助をする橘花に、孤児院院長は感謝している。一緒に遊んでくれるだけで、その他の雑務が捗るのだ。また、子供たちと一緒に読み書きを勉強するのは、橘花にとっても非常に有意義だった。

12歳を過ぎると孤児たちは院を出て行かなくてはいけない。その時に、文字が読める、書ける、簡単な計算が出来る、と言うのはアドバンテージになる。なるのだが、如何せん、子供と言うのは大人しく机に座って勉強する事が苦手である。院長にとって、やんちゃ盛りの子供たちの勉強をみるのは一苦労だったのだ。


しかし、橘花が来てからは、彼女と一緒に勉強するのが、子供たちにとって、一種の遊びになっているようだ。子供たちと一緒に真剣に字を書く、難しい発音に何度もチャレンジする、そんな橘花と共に子供達も真剣に石板に向かっていた。辺境伯家から、届いた何冊もの絵本もモチベーションを高めるのに役立っている。孤児院にあったのは、昔からあるボロボロな絵本だったから、ヨハン王子の子供の頃に使っていた絵本、と言って届けられたそれは、ほぼ新品でとても立派な物だった。

一冊の絵本を顔を突き合わせて読んでいる子供達を見守る院長にとって、橘花は権力に押し付けられた単なる厄介者ではなくなっていた。



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