異世界 3
召喚された事に気がついた時、伊勢春日の頭に一番に浮かんだ事は、橘花を巻き込んでしまった事への後悔だった。
いつか、自分が召喚される可能性は、‘伊勢一族の神隠し‘の真実を子供の頃に聞かされてから、覚悟していた。何代か前の巫女が召喚から生還してから、特に具体的に対策が立てられていたし、春日も大和と一緒に色々、考えていた。
その一つに言葉の理解がある。生還した巫女が非常に優れた人物で、これまで多くの謎に包まれていた異世界の文化を詳細に伝えてくれていたおかげで、二人の対策は随分有効なものになったと思っている。
けれど、橘花は春日の親友と言うだけで、特に巫女の能力もなければ、神子召喚についての知識もない。
本来なら、突き飛ばしてでも召喚魔法陣から追い出すべきだったのだ。出来なかったのは、単純に怖かったから。どんなに準備し覚悟していたとは言え、実際、召喚される時になって、つい、橘花を掴む手に力がこもってしまった。
結果、彼女を巻き込んだ。
なんとしても、橘花だけは守らなければならない。橘花の為に。そして、自分の為に。
『武流兄、ぜーーーーーーーーったい、怒ってる。』
橘花には甘々に甘い、又従兄だが、その実、酷薄で計算高い所がある事を、春日達姉弟は知っている。その又従兄の目の前で最愛が消えたのだ。当然、春日の召喚に巻き込まれた事は、伊勢一族の傍系である御影武流にはわかっている。
第一、武流も召喚に対する対抗策を双子と共に研究してきた頼れる仲間なのだ。
『うぅ、怒られるぅ。想像しただけで、怖すぎ。』
あの伊達メガネの奥の絶対零度の瞳で睨まれることを想像して、ブルっと春日は震えた。
それを、どう取ったのか。お互いを抱く腕に力を入れて、橘花はささやいた。
「ねぇ、春ちゃん。何が、どうなったの?武流さんは?ここはどこ?」
「大丈夫だよ、橘花。何があっても、私があんたを守るから。だから、私を信じて、ね。」
目の前の黒い煙が晴れていく。
そうして、目の前に、輝く金髪と青い瞳の言い伝えにある通りの美しい青年が何人もの人間を従えて、立っていた。
『さあ、戦闘開始よ。大和、そっちは任せたからね。』
次から週3回更新です。