現世 24
「しかし、召喚陣の構成を考えれば考える程、鏡召喚陣が働いた理由がわからないな。」
何枚もの実験用魔法陣を見比べながら、武流が言う。
「全く考え方が違うんだよ。あれは、召喚自体を巻き戻す、と考えたんだ。春日と橘花が連れていかれた道を逆に辿って戻ってくる。その為の陣、だからね。だから、出来るだけ、時間が経っていない方が良かったし、他からの干渉なんて受けないはずだったんだけど。」
机上の空論、ってこういう事を言うんだね。
そう呟く大和が無理をしそうで、武流は努めて話題を変えようとし、いつかは言わなくてはと思っていた決意を今ここで告げる事にした。
「大和、この魔法陣の起動如何に拘わらず、僕は一度、旅に出ようと思う。」
「旅?」
「ああ、あの女から結婚をほのめかされている。」
武流は決して、本人以外の前では天正真美を名前で呼ばない。名前で呼ぶ事は、個人として認める事だと思っているからだ。それは異世界人であるギュンターにも適用されており、大和もその点は同じ考えだ。
だから、はっきり、名前を告げられなくとも、あの女が出雲衆の統領の娘、を指す事はわかった。
「それって、」
気色ばむ大和に、ギリッと奥歯をかみしめる音が届いた。
「馬鹿にしているだろう。僕をその程度の男だと思っているんだ。・・・。だが、それは良い。その見返りに出雲衆の秘儀を見せてくれるらしい。まあ、あの女の言う事だ。どこまで実現するかは分からないが、それでも、出雲衆の秘密の一端に触れる事ぐらいは出来るだろう。大和がここで、異世界との繋がりを強めるのに、僕が役に立つことはあまりなさそうだ。せいぜい、お前が無理をしないように見張るぐらいだからな。」
「それだって、大切な役目じゃないか。」
ふてくされた様に大和はこぼす。
「そうだな。だが、それは僕じゃなくても良い。だけど、あの女の相手をする事は僕じゃなきゃ無理だ。」
「武流兄・・・。」
「そんな顔をするなよ。この”神隠し”には、色々腑に落ちない点が多い。伊勢一族の二千年に渡る因縁に決着をつけるって事で、じいさんたちも巻き込んで、色々、手を回しているから。
それに、多少の荒事が合った方が、ストレス解消になるしね。」
壮絶な顔で笑う武流に、これはそのはけ口となるであろう対象者の末路はかなり悲惨なものになるだろう、と想像してしまう。しかし、同情はしない大和だった。




