現世 23
その手記は驚くべき内容だった。
瀕死の状態でこの地に戻って来た先代巫女は、最期の力を振り絞って、様々な物を残した。その中に、懐に入れていたまじない札の紋様がある。巫女が帰り着いた時、紋様は役割を果たしたかのように消え失せ、まじない札はただの木の板になっていた。彼女は記憶にある紋様を描き起こし残した。もし、万が一、あの呪いを顧みず、召喚を行う愚か者がいた時、こちらに帰ってくるための手掛かりとして。
「何故!何故今まで、こんな重要なヒントが見過ごされていた!」
思わず、武流が大声を出した。
「・・・ごめん、武流兄。」
そうして気づく。自分は伊勢一族の影でありながら、こんな資料があった事にすら気が付いていなかったのだ。誰かを責める資格など無い。
「その通りだよ、もっと早くにわかっていれば、色々対策が取れた。」
しかし、大和はその批判を素直に受け入れた。
先代巫女が色々と書き残していたことは知っていた。辞書を手に入れたのも、歴代随一と言われる春日を守る為だった。辞書だけで満足せず、もっと、色々調べるべきだったのだ。
先代巫女が戻ってこれた理由やそれまでの巫女達がどうやって書簡を送ってきていたのか。その仕組みが分かっていれば、例え、春日が神隠しにあったとしても、直ぐに連れ帰る事が出来たはずだ。
「すまない、大和。僕は、何もしてこなかったのだから、批判する資格は無い。」
「仕方ないよ、僕だってそう思うもの。」
しばらく、二人の間に沈黙が流れた。
もう一台のPCから、解析終了のチャイムが鳴った。
「取り敢えず、そのまじない札の紋様を解析しよ。」
気を取り直すように大和が言い、二人は、次の手記を読み解くようにPCを再設定し、自分たちは自分たちのPCに向き直った。
まじない札の金文は、我望帰。自分は帰りたい、と言う、神隠しにあった巫女達の悲痛な願いの籠った三文字だった。
たった三文字に込められた願いに胸が痛くなる。
「これで、帰ってこれたんだね。」
「帰る、を行く、に変えたら、送れるか?」
「うーん。闇雲に送るよりは可能性は高いかも。だけど、多分、この方法は使えない。”妖に食べられる”って言うのが絶対条件なんじゃないかな。島にいる妖の口の中がこの世界との通路なんだと思う。そうじゃなきゃ、こっちの世界に異世界の物が大量に流れ着いていないと変でしょ。でも、妖に食べられる、必要があるなら、強い願い=巫力の込められた巫女達の流した物、が美味しい餌と認識されて食べられるなら、流れ着く物が限られる説明が出来る。」
少しずつ、謎は解けていく。しかし、一つの疑問が解決するとまたすぐ次の問題が現れる。追いかけて追いかけて、いつかはちゃんと正解にたどり着くのだろうか?




