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現世 2

御影武流には、絶対記憶がある。

今、この時程、この能力を誇らしく思った事はない。

生まれた時から、記憶力は良かった。それが、一度見たことは二度と忘れない呪いだと知ったのは、いつだっただろう。少なくとも小学生の佐倉橘花に会うまでは、確実に呪いだった。


目に入る物全てを記憶してしまう‘絶対記憶‘。忘れられない事は、辛いことなのだ、と幼い心に刻み込まれている。だから、メガネをかけて、視野をわざと狭くした。見えなければ記憶に残らないのだ。

そうやって周囲に無関心を装っていた武流に何故か懐いたのは伊勢宗家の双子だった。双子に生まれた巫女の能力は低い、と言うこれまでの迷信を覆す程、優秀な姉の春日は、歴代最強の巫女と目されている。双子でなければ、いかほどだったのか、と筋違いに嘆く一族の老人達を、鼻で笑う春日は、弟を蔑ろにする者達には容赦が無い。


双子の弟の大和は、掴みどころのない性格に育った。実の所、大和にも春日と同じ巫女の能力があるのだが、それを知っているのは、姉の春日と武流の二人だけだ。そして、武流の絶対記憶についてもこの二人にしか話してはいない。武流の最愛、春日の親友の橘花にも秘密だ。


春日と橘花の二人が召喚された時、武流は咄嗟に伊達メガネを外した。だから、彼女らの足元に浮かんだ模様と頭上から落ちた雷、それを生み出した符の紋を一瞬の出来事とは言え、しっかり記憶することが出来た。


今、武流と大和は伊勢宗家の奥之院にいて、空港で武流が記憶した召喚魔法陣を紙に書き起こしていた。茶室の板張りの天井にそれを転写するのだ。この茶室は攫われた巫女を呼び戻すためだけに建てられている。

異世界から巫女が送った書簡が届く竹林を世間から隔離する為に、この場所一帯は伊勢一族の管理する強力な結界の中にある。二千年の歴史の中で神隠しが起こる前には竹に一斉に花が咲く事が知られていた。花が咲いた竹は殆どが立ち枯れるが、生き残った竹の中にその後、光り輝く竹があり、そこに異世界からの書簡が見つかったのだ。その事から、この竹林と異世界には何かしらつながりがあると考えられた。


竹の花が咲いて神隠しが予言された時、巫女をこの地から遥か遠くの場所に移す対策が取られても、努力むなしく巫女は消えてしまう。それが避けられない事ならば、呼び戻す事を考えよう。

予兆である竹の花は、一番研究が進んだ。送られてきた書簡の素材、光り輝く竹も勿論、立ち枯れた竹も、根に至るまで、何世代にも渡り、研究され、それは、現代も続いている。今までの所、分かった事は、この竹林が世界のどこよりも異世界に近い事。世界を渡る為の力の残滓が、送られた書簡や光る竹に微量に残っていることなど、ほんのわずかに過ぎない。


しかし、今回、実際の神隠しに使われた模様が判明したことで、対策は一気に進んだ。それを鏡に写した反転画像を、光る竹から作った竹炭で描く。更に世界を渡る為のエネルギーを巫力で補う為、非常に繊細な作業と優秀な術者が要求される。

春日を取り戻すため、今、その準備が着々と進められている。


「あの符、こっちの世界の干渉だよね。」

眉間に皺を寄せて大和が図面と天井を見比べながら、小声で武流に囁いた。

「ああ。」

「武流兄、一人で暴走しないでよ。」

その低い怒りを押し殺した一言に、大和は一応注意を促す。

それに対し、爽やかな笑顔を見せながら、伊達メガネの奥の瞳は冷え切っていた。

『うっわー、こわっ。』

「で、何処のどいつなの?うちに喧嘩売ってきたのは?」

実際に周囲の気温も下がったように感じ、つい無意識に両腕をさすってしまった。


伊勢一族うち、と言うより、僕に、だろうな。」

「あの符と雷紋は、出雲衆。裏切り者は天正真実。僕の橘花を狙ったんだ。覚悟はしてもらうよ。」

ふふふ、と渇いた笑いに狂気を宿して、御影武流は、復讐を誓う。



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