異世界 25
いかに緊急事態とは言え、何の準備をせず、北の海峡まで行くわけにはいかない。北までの道のりで、こんないかにもの馬車に乗っていれば、盗賊に襲ってくれ、と言っているようなものだ。食料も足りない。
取り敢えず、ヨハン王子はその場で北の辺境伯に先ぶれの手紙を書き、王都へは、樹海のスタンピードは無事討伐を終えた報告を持たせ、青騎士を送り出した。他の瘴気だまりの確認が急務である事、自分は最大の瘴気だまりである二ーラカーナの確認に行く事、近隣諸国首脳にも結界が綻び始めていることを知らせる事、国民には伏せておく事、など、王の補佐としての提言をまとめた書簡も共に持たせてある。そして、神子は眠っている状態でも、自分の周囲の瘴気は浄化している事がわかったから、北の海峡にも同行させる事の許可を求める書簡も付けた。
連れ出した時には、こんな効果を期待していたわけでは無い。自分の不在中に、神子を神殿に取り込まれるのを避けるためだった。
しかし、蓋を開けてみれば、嬉しい誤算だった。
眠れる神子は、その存在だけで、魔物を弱体化した。この素晴らしい能力を王宮などに留め置くなど、宝の持ち腐れ以外の何物でもない。
ヨハン王子は基本的に、ギュンター王子のやらかした神子召喚には反対だった。が、だからと言って、折角手に入った便利な道具(神子)を使わない手はない、と考えるぐらいには為政者だった。
樹海の近くの伯爵領に入ってからは、伯爵の城を仮宿にして、各方面への働きかけを書簡にしたためつつ、神子の身の振り方について考えている。国王や重鎮達には、魔具の解除は出来ない、と伝えたが、諦めるつもりは毛頭ない。王都に残した青騎士達には、引き続き、解除の方法を探させている。
それに何より、神子の友人が、全くと言ってよいほど、彼女の状態を不安に感じていないようなのが、大きい。何かしらの解決法を知っている、もしくは、試している最中、なのではないかと勘繰ってしまう程に。
その彼女たちの世話係に、侍女を何人か見繕うようミランダ女官長に頼んでいたら、なんと当の本人が、職を辞してやってきた。流石に、ヨハンも驚いたが、「もうすぐ定年でございましたし、後輩に責を譲る、良いきっかけとなりました。」とすっきりした笑顔で言われてしまえば、追い返すことも出来ない。
何より、神子の友人、キッカ、がミランダ元女官長になついているのだから、仕方が無い。
着の身着のままだった彼女らの服も、歴代の神子の衣装を参考に作られた不思議なドレスに変わっていた。




