異世界 2
「無礼者!言うに事欠いて、我が国の第二王子殿下を犯罪者呼びとは、いくら神子様とは言え、許され」
「許されなかったら、何だって言うの?殺すの?今まで、攫ってきて、散々、浄化だ何だと働かせた挙句、最後には封印の鍵に使ったみたく?」
「なっ!?」
その場にいる者達全員が、改めて、春日の言葉に凍りついた。
「お前!言葉がわかるのか?」
ギョッとしたギュンター王子に春日はふふん、と得意げに胸を逸らした。
「神子様、それは誤解でございます。」
第二王子の前に出て春日を咎め、その後棒立ちとなった護衛を押しのけ、神父の様な服を着た初老の男性が恭しく頭を下げた。
「私共は、あくまでお願いする立場。神子様に何かを強制する様な事は御座いません。
」
しかし、俯いた顔の口元は歪んでいる。『協力せざるを得ない状況を作りは致しますが。』
「おい、神官長、どう言う事だ?歴代の神子は、召喚された時は言葉が通じないのでは無かったのか?それに、封印の鍵に使う?浄化後には、元の世界に帰る事も出来るのでは無かったのか?ただ、皆、我が国を気に入って、そのまま残った、と。」
オロオロする第二王子達に対して、神官長と呼ばれた、一見、サンタクロースの様な風貌の男だけが落ち着いていた。
春日は確信する。
神子召喚の本当の首謀者はこいつだ、と。だけど、召喚魔法陣に流れる魔力は第二王子の物。
取り敢えず、アンカーを打ち込まないと自分達が帰れなくなる。
サンタクロース神官長は、王子の言葉をさらりと無視した。そして、
「ギュンター殿下、神子様に贈り物があるのではございませんか?」と促した。
「おお、そうだった。」
「神子様、これは、私が神子様の為に用意した首飾りです。貴女の黒髪に、良く、似合う?」
今更、取り繕った所で、さっきまでの暴言や態度は取り消し様もないのだが、神官長に恭しく差し出された宝箱の中から、王子が取り出したのは黄金の鎖を複雑に編み込んだ繊細な首飾りだった。
しかし、それを差し出しながら、ギュンター王子は固まった。前もって用意した言葉と、神子の容姿がかなり食い違っているのだ。
「神官長?神子は黒髪黒目と伝承にあったはずだが・・・?」
召喚の儀式に使われたのは神殿の地下深く、聖なる泉の間。ここの光源は聖なる泉に遥か上空から注ぐ日の光のみ。周囲の壁が水晶で出来ているため、本来はそのわずかな光源でも日中は十分に明るいのだが、先程までは召喚の魔法陣から陽炎の様に立ち上る魔力のせいで、これまでこの場は、仄暗かった。ようやく落ち着き始めた魔力に、改めて召喚された神子を見てみれば、これまで、自分達が神子として会話をしていた少女は青い瞳にアッシュブロンドの髪をしていた。彼女が庇うように背に隠すもう一人は伝承の通りの黒髪黒目なのだが、そちらからは魔力が検知されていない。
「召喚した人間すら区別できていないなんて、いい加減ね。」
そう言ってアッシュブロンドの髪をこれみよがしに掻き上げた春日はニヤリと笑った。「私が伊勢春日、斎宮の巫女姫よ。どうでも良いから、さっさとパスポート拾ってくれない?留学出来なくなるじゃない。」
そう言って、先程投げつけた物を指差した。