現世 17
魔石も無いのにひねればお湯の出るシャワーと不思議な香りの泡立つ液体で体を清めたギュンター王子は、排泄物が流れて消えていく仕組みに、用も無いのに何度もFlashボタンを押して、渦を巻いて吸い込まれていく水を見ていた。一度様子も見に来たヤマトが、その様子に軽く驚いたようだったが、何も言わずにいなくなったのを良い事に、もう何回か押してしまった。
見たことも無い透明な綺麗な水だ。
こんな綺麗な水が、ボタンを押しただけで滔々と流れてくるのだ。そのまま飲めそうな水を、排泄物を片付ける為だけに大量に流す?
異世界は野蛮な世界なのではないのか?
いつになったら尽きるのだろうと流し続けていた水だが、とりあえず、尽きそうに無いとわかり、やっとその場を離れたギュンター王子は、床に敷かれた布団のあまりの柔らかさに、顔をうずめたまま、意識を失った。
掛布団の上に倒れて眠るギュンター王子を見下ろして、大和は、大きくため息をついた。いくら珍しかったからと言って、ボディソープを空になるまで使い、浴室を泡だらけにされた。ツルツル滑って危ない事この上なかった。まさか異世界人が浴室で石鹸で滑って頭を強打、脳挫傷で死亡、なんて冗談じゃない。何とか、入浴を終わらせたものの、今度は、水洗トイレに頭を突っ込む勢いで水を流していた。
ボディソープまみれになった浴室はそれこそ何度、水を流しても、石鹸のぬめりが取れなかった。やっと、何とか清掃を終え出てきたら、元凶は幸せそうに爆睡していた。
無性に腹が立った。
「明日の朝ご飯は納豆にしてやろう。それとくさやに、なれずし。」
取り敢えず、匂いの強烈な食べ物を思い浮かべ、小さな復讐を誓い、天井に目をやる。天井から下がっている、異世界とこの世界を繋ぐ細い糸。手繰り寄せて、眠っている男の豪華な金髪に寄り合わせた。
「髪、濡れたままじゃん。あー、もう、布団も濡れてる。」
異世界の人間は風呂に入ったり、シャワーを浴びた後、タオルで水気を取ると言う事をしないのだろうか。魔法があるから、こんな事にも使っているのかもしれない。異世界転生小説によくあるご都合展開。
しかし、この世界には魔法は無い。髪はきちんとタオルで拭いて、ドライヤーで乾かすのが一般的だ。明日になれば、生乾きで眠ったツケを払う事になる。大量のシャンプーで洗った髪は、きっと汚れも心配も全て取れて、異様につやつやで、盛大にあちこち向いてはねていることだろう。
それを想像して、大和はくつりと笑った。
「どんな夢を見てるんだか。」
一瞬、このまま頭を押し付けたら窒息させられるのでは?と考えて、ぎゅっと目を閉じる。衝動は去った。
大和は茶室の電気を落とし、そっとその場を立ち去った。




