異世界 18
「おう、ヨハン王子、来てくれたのか、ありがたい。」
日に焼けた褐色の肌をした大柄な男が、巨大なハルバードを肩に担いでこちらを振り返った。魔物の返り血が目立たない赤い鎧を着けていてもわかる。その男の体からは魔物の死の匂いが立ち上っていた。
「これ、青騎士隊の応援は必要でしたか?」
周囲に散らばる魔物の死体を見回して、ヨハン王子・青騎士隊隊長は呆れた声で問うた。
「勿論だ。俺たち赤騎士隊は平民出身が多いからな。手柄を独り占めすると後がめんどくせえ。ヨハン王子殿下率いる魔法師部隊青騎士隊の支援があってこその勝利、ってな。」
そう言いながらも、襲い掛かろうとしていた巨大熊の魔物をハルバードの一振りで屠る。そのすぐ横に小型のワイバーンが数体バラバラと落ちてきた。
「それに、空からくる奴らは、俺たちはちょっと苦手だからな。」
ヨハン王子の手にした杖から、炎の球がいくつも放出されていた。魔物を見ずに攻撃している。【炎球】に魔物の追尾性能を付与して放っているのだ。
樹海で起こったスタンピードはそのピークを越えようとしていた。
「で?ありゃあ何だ?戦場に女連れとは、流石にヨハン王子殿下と雖も酔狂が過ぎるってもんだぜ。」
暫く軽口を叩きながらも確実に魔物を屠っていた二人だったが、そろそろ終わりが見えてきそうだ。後は部下たちに任せても問題ないと判断し、最前線の戦場から少し下がる。
赤い戦士は戦場の狂気を瞬き一つで消し去ると、くぃと顎でそちらを示した。
後方に留めてあるこの場には不釣り合いな馬車。それを警護しているのは近衛の白騎士。
「女連れ?時間が惜しくて王家の馬車を使っただけですよ。それに、我が青騎士隊には女性の騎士も多いので、戦場に女性がいてもおかしくはないでしょう?」
「そういうこと言ってんじゃねぇよ。お前、その胡散臭い顔、俺の前でするな、って何度も言ってるよな。」
くしゃりと顔を歪ませ、巨大なハルバードでトントンと自分の肩を叩く。
「大体、本当に急いでる時は、”跳んで”来るだろう。間に合ったから良いが貴族の女連れで物見遊山に戦場に来て、俺たちが全滅してたらどうするんだ?」
殺気がひたひたと彼の足元から広がって行く。それに軽く肩をすくめるだけで答えたヨハン王子は、馬車に向かって足を進めた。
「イザーク殿には紹介しておきますね。この堕落した世界を終わらせるべく、異世界から降臨された神子様とそのご友人です。」
赤騎士隊隊長、イザーク・プラハ=ハウゼンの大嫌いな胡散臭い笑顔で、ヨハン・シュトラーゼ・サイ・フォン・ジュラ第一王子は、豪華な馬車にいざなうように片手を広げた。




