現世 13
「彼は、全然気が付いていないみたいだけど、転移に必要なエネルギーは、僕と彼と半々だったと思うんだ。」
噂の異世界人は、今後は、小間の茶室で過ごすことになる。彼の存在自体が、この世界と春日たちが連れ去られた異世界を繋ぐ糸の強化に働くことがわかったからだ。武流は一族の総帥に直談判して、有無を言わせず、身柄の移送許可をもぎ取ってきていた。茶室では座敷牢の様に、閉じ込めておくことが難しい分、彼自身を拘束する必要がある。巫術での拘束が、異世界からの力の流れに影響を与えないとは断言できないため、拘束は肉体的なものになってしまうが・・・。
「彼の協力が得られれば、もっと楽に界の行き来が可能になると思う。」
「協力を得る?」
ハッと馬鹿にしたような音が武流の口から漏れた。
「それはどういう意味だ?僕としては、強制的に力を奪い取っても良いと思っているけど。」
「落ち着いてって。多分だけど、あの召喚魔法陣は、こっちの世界から神子を連れ去る為のもの何だよ。だから、違うものをこっちから送ろうとした、今日みたいなのは、転移エネルギーに無駄が生じるんだ。効率が悪い、って言った方がわかる?」
大和は、武流の絶対記憶から書き起こした召喚魔法陣の書かれた紙を取り出す。
「この模様みたいなのに意味があるんだよ。それがわかれば、もっと、低燃費で界を繋ぐ事が出来る。」
「その為の‘協力‘?」
しぶしぶではあるが、武流も認めざるを得ない。自分が召喚には役立たずである以上、実際に力を使う大和の言葉に従うまでだ。
「それに彼にとっても、自分が帰れる可能性が高くなるんだし、いい話だと思うんだよね。」
「縛り付けて転がせておけば良い。」
冷たく言い放つと、武流は「ちょっと出てくる。」と言って、立ち去った。大和の体を気遣い、とても嫌そうに。
『ああ、道理で機嫌が悪い訳だ。』
大和には武流がこれから会うであろう人物の予想がついてしまう。
武流の恋人が行方不明になってまだ四日目だというのに、何度も呼び出しの電話が鳴っていた。電話、だ。メールですらない。こちらの都合を全く考えないその自己中の行動に、武流ではなくても、イライラが募る。しかし、相手は、敵のこの世界での協力者。相手の手の内を知る為にも、コンタクトを取っておいて損は無い相手である。
武流が私情を捨てて、情報収集に赴く以上、自分も見習おう。
大和はゆっくり長い呼吸を繰り返し、瞑想状態に入った。大和の意識は小間の茶室、その縁側に降り立った雀の中にあった。監視カメラが無い為、異世界人を見張るのは人力に頼らざるを得ない。大和の能力の一つ、憑依を使って、異世界人を監視する。
『召喚陣の紋様の意味を調べなきゃ。筆記用具置いといたら勝手に魔法陣描いてくれたりしないかなぁ。』
知りたいことを知る為には、いつまでも、コミュニケーションを断っているわけにはいかず、大和は深くため息をついた。




