異世界 16
今、国王の執務室では、宰相と神官長代理、白騎士隊隊長が揃って、対応策を検討している。そこに最後の参加者、魔法師を統括する青騎士隊隊長、ヨハン・シュトラーゼ・サイ・フォン・ジュラ王子が現れた。
「皆様、お忙しいところお待たせし申し訳ございません。両陛下におきましては、ご心労の程、お察しいたします。」
現国王の第一子でありながら、王位継承権2位、王妃の息子が不在の今、もっとも王位に近い青年は、慇懃に頭を下げた。
「さて、結論のみ申し上げます。私の力では神子様に施された魔具の解除は不可能でございます。」
青騎士隊隊長、すなわち、この時代において最も強大な魔法使いの青年の言葉に、参加者は耳を疑った。
「それでは・・・。」
「はい、陛下。ただいまの神子様の状態は、ギュンター王子殿下の命令を待つ只の傀儡、糸の切れた操り人形に他なりません。」
「そんな!?」「何と言う事だ!」「まさか、神子様にそのような無体を働こうとは!」
参加者の非難を込めた目が、ギュンター王子を生み、甘々に育てた王妃に向けられる。
「わた、わたくしは・・・。いえ、ヨハン殿、当代一の魔法使いと言われるあなたが出来ないなどと、無責任この上ありません。なんとかするのが、あなたの仕事ではありませんか!?」
「まことにもってその通りでございます。わたくしとしても慚愧に堪えません。しかし、出来ないものは出来ないのです。こうなってはギュンター王子殿下のお帰りを待つしかございますまい。」
「そ、そうだ。」「殿下はどちらに行かれたのだ?」
今、この場に集められた人間の中で、ギュンター王子が召喚の場から突然消えた事を知る者は、ヨハンの他には国王夫妻と宰相だけである。その他の人間には、第二王子の緊急会議不在は開始直後は気に留められていなかったものの、ヨハン王子の一連の発言によって、確実に第二王子への不信に変わった。最愛の息子へのヘイトが高まるのを見せつけられる王妃の心情は如何なるものか。
「ですので、魔具を作成された神官長にこの場で問いただされてはいかがでしょう?」
ヘイトコントロールは戦いの場での基本だ。王妃の瞳に憎しみが溜まるのを横目で見ながら、ヨハン王子は、さらりとその場の意識を神官長に向けた。
「何と、この件には神官長殿が関わっておられるのか?」
「ならば、是非、話をお聞かせ願いたいものだ。」
そして、見事に注目はギュンター王子から逸れた。
勿論、行方不明になったギュンター第二王子が神子の力によって異世界に逆召喚された事実を知る者は、誰もいない。当然、捜索隊は各地に派遣されてはいる。見つかった報告は上がってきていない。
引き出された神官長は、全く悪びれた様子は無く、国王や国の重鎮達の前でもこれまでと同様、尊大な態度を崩さなかった。
自分はギュンター王子に頼まれて、魔具を作った、神子召喚を行った、と主張する老人は、こうなったのは神の意志だ、と主張した。
啞然とする人々を前に、老人は言う。
「神子がいれば、魔物に怯える事は無いのです。災いが来るとわかっていて、なぜ、被害が出てからしか動かないのですか!未然に防ぐ、その為に神子を呼ぶの事何がいけないのですか?」
その時、会議室の扉が大きな音を立てて開かれた。
「申し上げます!緊急用の狼煙が上がっています。樹海方面です。魔物の暴走、スタンピードです!」




