異世界 12
目が覚めた時、体が強張っていた。べたべたした汗と首筋に張り付く髪の毛の感覚が気持ち悪い。
「嫌な夢。」
そう呟けば、それは夢だった、なんて無茶な事を考えて、目を開けるのがとても怖くて、ぎゅっと閉じたまま、暫く寝たふりを続ける。でも、その分、他の感覚は研ぎ澄まされて、腕の中にある柔らかな感触。肌に触れる冷ややかな空気、何人もの人の動く気配。そして、意味をなさない、音。
ううん、話し声。
覚悟を決めて、橘花は目を開けた。
「○★☆◇■」
うん、わからない。
思わず、朝から大きなため息をついてしまった。
朝?朝だよね。
自分たちが寝ていたところは、昨日、突然連れてこられた、泉の傍。一段、高く作られた舞台の様な場所に、幾重にもラグが敷かれ、沢山のクッションに囲まれていた。
「春ちゃん!」
一緒に飛ばされ、意識を失ってしまった親友のアッシュブロンドに染めた頭が目の前にあった。
正気を保っていられるのは、彼女のおかげ。
この一見自由奔放に見える親友が、実はとても用心深く、慎重な事を知る人間は少ない。
伊勢春日は由緒正しい古くから続く家の生まれで、その家は何か特殊らしい。
「優秀な私は一族の誇りで汚点なのよ。」
ケラケラと笑って、そんな矛盾した事を言っていた。
優秀な事は間違いない。学校のテストみたいな測れる優秀さは元より、人間関係においても、不用意に敵を作らず、いつの間にか、彼女の望む方向に議論を持っていくのが上手かった。
汚点、と言うのは、そんな優秀な彼女が決して一族の言いなりにならないから、なのだろう。双子の弟・大和が絡むと、特にそれが顕著になる。
この状況に対しても、きちんと(きちんと?)対応出来ていた。少なくとも、自分と違って、会話が成立していたし、守ってくれようとしていた。自分のせいで、私が巻き込まれた、みたいな事を言って、謝ってくれたけど、ひょっとしたら、私が春ちゃんを巻き込んだのかも知れない、と思う。だって、あの時、確かに、睨まれていたもの、私。
鈍い、鈍いと言われる私でも、あんなきつい視線には気が付く。武流さんと一緒にいるときに、時々、感じていた視線。
武流さん。
会いたい。
卒業祝いにもらったオニキスのピアスに触れる。
『ピアスって直に耳に触れているから、温かいのかな。このピアスがスマホみたいに武流さんと繋がっていれば良いのに。』
武流の提案でお互いに一組のピアスの片方ずつを付けている。
いきなり、知らない所に飛ばされた。目の前で、キラキラした綺麗な男の人が突然消えた。春ちゃんが、倒れた。こんなラノベみたいな事が起こってるんだから、ピアスから、武流さんの声がしたっておかしくないはず。
おかしくないはず、なんだから。
「助けて、武流さん。」
右耳のオニキスのピアスに気持ちを込めて、呼びかけた。




