異世界 11
「あらあら。」
毛布とクッション、汚れを拭う為のタオル等を持って、ミランダ女官長が戻って来た時、召喚された神子とその友人は、元いた場所を動くことなく、その場で抱き合って眠っていた。先程と違っていたのは、その少し前に立つ騎士と、彼女らに掛けられた騎士の上着。そして、空のバスケット。
「緊張と疲れが限界だったのでしょう。食べた後、いつの間にか、眠っていました。無理矢理、食べさせた訳では無いですよ。彼女のお腹の虫が鳴って、ですね。」
「わかりますよ。泣きながら食べたのでしょう。涙の跡が残ってますもの。」
「情けないです。いたいげな少女を追い詰めてしまった。」
「泣くことは大切です。気持ちは閉じ込めていると苦しいですから。女性をうまく泣かせてあげられたなら、貴方様は立派な紳士ですわ。お気持ちは彼女に通じたのでしょう。」
「!?女官長殿、わ、私は、別に、」
「はい、はい。立派な白騎士様は、向こうを向いていてください。お身体をお拭きしますので。」
真っ赤になってぐるんと竜巻でも起こしそうな勢いで背中をむけた白騎士隊二席の騎士に、可愛らしい事、と内心で微笑む。
そろそろ引退を考える年齢のミランダ女官長は、息子以下孫以上の年齢の騎士アインバッハ伯令息をからかいながら、黒髪の少女の泣きぬれた顔を手早く温かいタオルで拭った。神子の清拭もさっと行い、食事の摂れない彼女には魔力の籠った聖水を口に含ませた。第一王子より下賜された聖水は、傷を癒し、体力を回復する。
「ほ、本当にこの場所で寝かせるのですか?」
クラウスに手伝ってもらいながら、毛布とクッションを敷き詰め、彼女たちの体に負担のかからない体勢を取らせる。
「目が覚めて、場所を移されていれば、何をされたのかとお疑いになるかもしれないでしょう。これ以上、この方々の不信を煽るのは良策ではありません。」
「そうですね。流石は、ミランダ。」
「ヨハン王子殿下。」
クラウスとミランダ女官長はその場に跪く。
いつの間に現れたのか、ヨハン・シュトラーゼ・サイ・フォン・ジュラ第一王子が、その場に立っていた。
「神子様の様子はどうですか?」
「目覚める気配はございません。」
「魔具は外せないのですか?」
「申し訳ございません。彼女が神子様を抱えて離さないので、試みていないのです。」
クラウスのその答えに困ったように眉を上げるヨハン王子。「甘いね。」
「殿下。」
なだめるような女官長の呼びかけに、ヨハンは、仕方ない、と肩をすくめる。そして自分もクッションにもたれかかった。
「で、殿下?」
「何です?神子様がこのような所で眠られるのです、私がベッドで眠れるわけがないでしょう。と言う訳です。寝ずの番を頼みます、クラウス。」
面白そうに口の端を持ち上げて、第一王子は目を閉じる。
「貴方様は、もう少しご自分のお立場を理解してください。第一王子殿下。」
はぁぁ、と深い深いため息を吐くクラウス白騎士隊二席に、ミランダ女官長は同情の笑みを浮かべた。




