現世 55
ヘリコプターの操縦は流石に武流も取得していない。絶対記憶を持つ武流なら、数日の研修でマスターすることも可能だろうが、そうすると、武流は鍾乳洞内に降りられない。仕方なく、今回は、伊勢の暗部に協力を仰ぐことにした。元々、春日の奪還は伊勢一族の最重要事項ではあるが、大和と武流は独自に動いている。大和の一族での立ち位置と異世界から呼び寄せたギュンターの扱いで一族の有力者たちと対立した為だ。暗部でありながら、私情で動く武流の事も老人たちは面白くない。妨害までは流石にしないが、頼まなければ何もしてはくれない。
この穴の近くは段違いに元始の力が濃い、と言う三人に従い、この近くにベースキャンプを移す事にした。
武流は、伊勢の本拠地に一度戻る。出雲衆の裏切りに合わなければ、元々、一旦戻って、装備を整えるつもりでいたし、出雲衆との間に起こった出来事を一番正確に報告出来るのも武流しかいないからだ。
元始の力の強いこの地にいる限り、ギュンター王子は魔法の練習に魔力切れはなさそうだ。大和の巫力も自動で補給できることから、大和はギュンター王子の魔法の訓練の補助と鍾乳洞内探索の為、この地に残る事を主張した。
八咫鏡・照姫は、この黄泉平坂鍾乳洞のある島に外界の干渉を受け無いよう隠形をかける。これで、思う存分、探索が出来るはずだ。
武流は大和を残して行く事に最後まで抵抗していたが、島の秘密保持には照姫の力が必要で、ギュンターを放置するのは論外。自分がギュンターと残れば、何をしでかすかわからない自信がある、となれば、答えは一択だった。
「なるべく早くに戻って来る。頼むから、無茶はしてくれるな。」
何度も振り返りながら山を下る武流に思わず、笑ってしまう。
〈武流兄が戻って来るまで、ギィは風魔法のレベルアップ。照姫は、ドローンに乗って、鍾乳洞内の調査、ね。〉
「其方はどうするのじゃ。」
〈どうするって、僕は鍾乳洞内の地図を作りながら、二人のサポートだね。だって、照姫は、自分じゃドローンを動かせないんだし、ギィも一人じゃ何をどうすれば良いのか、わからないでしょ。取り敢えず、照姫は、この間の続き、このブロッコリーみたいな石筍の右側の道から、行ってみようか。ギィは風魔法を飛ばすんじゃなくて、その場に留めるイメージ作りからかな。〉
そうして、翌日から、大和たちはそれぞれのやるべき事にむけて動き出した。
〈ヘリコプターって言うのはこれ、で、こうやってパラシュートを背中に背負って、飛び降りる訳。途中でパラシュートを開くと、落ちる速度がぐっと遅くなる、で、この左右の紐を操って、ある程度自分の降りたいところへおりるようにコントロールするんだ。〉
大和はギュンター王子に、これからやろうとしている鍾乳洞内への降下作戦をPCの動画サイトで、探し出して、説明していた。
〈で、ギィに頼みたいのは、僕たちは特殊部隊じゃないから、そんなピンポイントに降りたいところへ降りられる訳じゃないからね、降下途中での軌道修正を風魔法でして欲しいんだ。〉
〈何となく理解した。俺の知っている風の魔法とは、別物と考えた方が良さそうだ。〉
こんな状況でなければ、ヤマトと二人、新しい魔法を作ることにワクワクしていたかもしれない。けれど、はっきりと、信じていない、信じられる筈が無い、とヤマトに言われた心の傷は深く、ギュンター第二王子は、つい、ヤマトの言葉に対し、裏側に込められた意味を考えてしまうのだった。




