異世界 58
「結局、キッカに復讐は似合わないって、こと。」
そう言ったレイバンの言葉には、先程の侮蔑は無かった。
しょうがないなぁ、とふにゃりと笑う。
その笑顔にホッとして、橘花は眠ったままの親友を見た。
きっと春日なら100倍返し、とか言ってきっちりやり返すのだろう、と思う。あっちこっちの顔色を窺って、結局、流されしまう橘花を春日はどう思うだろうか。
〈情けないと思ったら、早く、目を覚まして、私を叱って、春ちゃん。〉
日本語で呟いたが、センの翻訳効果で、その場にいた全員には伝わっている事を、橘花はすっかり忘れていた。
王都に神子のふりをして行くとして、本物の神子・春日はどうするのだろう。身代わりを引き受けるに当たって、橘花の懸念はそれだ。
ヨハン王子の考えでは、王都に行くのは橘花のみ。本物の神子・春日はこのまま北の辺境伯領で隠れていてもらう予定だった。
しかし、当然、橘花に春日と離れる選択肢はない。
王都には行く、会議にも主席する、しかし、春日も一緒。
それが、橘花の返事だ。
イザークは、とりあえず、この返答を王都のヨハン王子に送り、返事を待つことにした。
返事は直ぐに返って来た。
橘花の要求は受け入れられたが、代わりに、これまでより厳重に護衛を付けるのが条件になっていた。
「黒騎士隊?」
「ああ、どうやら、歴代の神子様の髪色にちなんで、専属の騎士隊を作るらしい。白騎士はどうやったって、王族を一番に考えるよう教育されているからな。各騎士隊から三人、騎士を推薦するよう指示があった。そいつらが決まるまで、ここで待機だ。」
「はいはーい。赤騎士隊からは当然、俺っスよね。」
レイバンが両腕を上げて立候補する。
「お前はダメだ。」
それに対し、イザークは表情を厳しくし、一蹴した。
「!?何で!俺は、」
「お前が一番よくわかっているだろう。」
そのセリフと同時にぐしゃりと潰された革手袋をはめた右腕。カーバンクルに食いちぎられ、失われた右腕を風の魔法で誤魔化している。その張りぼての右腕をイザークは容赦なく引き抜いた。ぶらん、と空しく袖が落ちた。
橘花の瞳にみるみるうちに涙が盛り上がった。
「何するんだよ、隊長。」
レイバンの低いうなり声をものともせず、イザークは、ぽいと革手袋を放った。
「左腕一本でこれまでと同じように戦えると言うのなら、考えてやる。」
「ふざけるな!もっと強くなってみせるさ!」
「いいだろう。しかし、時間は無いぞ。赤騎士隊は勝ち抜き戦をして上位三名を黒騎士に推薦することにしたからな。トーナメントは一週間後、場所は不死山麓だ。」
「上等だ!」
吐き捨てるようにイザークに言い、レイバンは橘花に向き直る。
「泣くなよ、キッカ。俺は、大丈夫だ。絶対、勝ち抜いて、お前の騎士になるから。腕が無い事なんて、ハンデでも何でもないから。」
橘花の頬に手を当て、彼女の右耳のピアスに触れる。
「向こうの世界にいるキッカの恋人に負けてない事を、証明してみせるよ。」
レイバンはそのまま、キッカの額にキスを一つ落とすと、その場を後にした。
「隊長、俺、暫く外回り専用にして下さい。トーナメントには参加するんで。それまで、キッカたちの護衛、頼みます。」




