現世 54
「これは、流石に無理じゃろ~。」
翌日、台風で開いた鍾乳洞の天井の大穴に再度向かった武流たちだったが、ドローンに載せられて、鍾乳洞の中に降りて行った照姫は、戻ってすぐ、開口一番にそう言った。
「ほんに壺の口の様じゃ。伝って降りられるような物は何もないぞ。」
「やっぱり、そうかー。確かにはしごやロープじゃ長さが足りないし、パラシュートを背負って飛び降りるのなら、逆に高さが足りない。パラグライダーとか考えたんだけど・・・。
で、どう?八咫鏡の欠片はありそうだった?」
「いや、それなのじゃが、気配があるような、ないような。・・・。はっきり言ってわからぬのじゃ。ほ、ほら、地底湖もあるじゃろ。ひょっとしたら、その向こう側、とか?」
「流石にこのドローンで水中は無理だよ。」
やっぱり、ここからじゃ出来る事は限られるし、歯痒いなあ、と照姫の鏡を回収して、大和は独り言ちた。
「いや、高さが足りないなら、高さを足したらどうだ?地上からじゃなく、空中からパラシュートで降りたら?」
武流のその提案は、まさに目から鱗の発想だ。ホバリングしているヘリコプターから、穴に向かって飛び降りるのだ。パラシュートが十分開く高さで。
「だけど、真下に飛び降りたとして、そう上手く、穴に降りられるかな。結構、流されるよね、きっと。・・・。あ、でも、そうか!ギィ!」
突然の大和の呼びかけに、ギュンター王子はびくり、と体を強張らせた。
「な、何?ヤマト。」
〈ギィが昨日使った風の魔法って、もっと優しく、広範囲に吹かす事、出来る?例えば、高い所から落ちる人間を浮かすことが出来る、とか。〉
〈人間を浮かす!?空を飛ぶ、と言う事か!〉
〈まあ、そんな感じ?どう?〉
グイグイ迫って来るヤマトの迫力にギュンターは、後ずさった。
〈流石に、それは・・・。大体、今の俺の魔力はもとの世界にいた時より、弱い。と言うより、この世界の魔素がはるかに薄い為、魔力が溜まらないんだ。それに、元々、俺は、繊細な魔力操作が苦手で・・・。大きな魔法は得意なんだが、細かい事は・・・。兄上が非常にお上手で・・・。〉
口ごもった答えはするっと無視された。
〈良かった。苦手なだけで、出来ないわけじゃないんだね。それなら、練習すればいいだけだから、何の問題も無いよ。むしろ、誰が、ヘリコプターの運転をするかが、〉
〈ちょっと待て、ヤマト!今の俺の話を聞いていて、何が”良かった”なんだ!?俺では、出来ない、と言っている。〉
〈えー、何言ってるのさ、ギィ。当然、出来るようになってもらうよ。春日と橘花を連れ帰るヒントがあるかもしれないって言うのに、何もしない選択肢は無いからね。〉
その二人の名前を出されると、ギュンターは黙るしかない。
〈完全に浮かせる必要は無いんだよ、落ちていく先を修正してくれればそれでいいから。〉
《簡単に言ってくれる。》
心の中でギュンターは溜息をついた。大体、ヘリコプターとかパラシュートとか、何の事か全くわからない。しかも、物を浮かせる?そんな魔法、聞いたことも無い。
何からどう取り掛かれば良いのか、途方に暮れて、無理難題を投げかけた青年を見る。
彼は既に、次の問題を解決すべく、年上の友人と頭を突き合わせて、会話をしていた。ギュンターにはまだ理解が追い付かない、この国の言葉で。




