現世 53
ギュンター王子は拘束されたまま、焚火に当たる事は許された。海水でびしょ濡れになった服は乾いても塩を吹いてべとべとと決して着心地の良い物では無かったが、それでも放置されるよりははるかにマシで、一応、弁明の機会も与えられた。
いくら偶然とは言え、ヤマトを傷つけてしまった為、元々、ギュンター王子を嫌っていた武流からの評価は底辺まで下がっている。どうして生かしておくのか、と言ったレベルだ。
当事者の大和は、全く、気にしてはおらず、逆に自分を害する能力を手にした事を喜んでいた。
一方、風の刃に切り刻まれた兎のぬいぐるみは、当然、もう、八咫鏡を隠してはおけない。
大和は、仕方なく、鏡を膝の上にのせている。
〈つまり、ここには、元始の力があるんだね。〉
「元始の力?」
〈そう、僕や照姫にとっての巫力で、出雲衆にとっての呪力で、ギィにとっての魔力。色々な名前で呼ばれるけど、純粋なエネルギーの塊。〉
「出雲衆はここの力を使って妖をつくっておった。」
鏡の中から照姫は言う。
「符をこの島の鍾乳洞内にしばらく入れておくと、符にこもる巫力が増すのじゃ。それを一番に研究しておったのが、天正の一族じゃ。あ奴らはそれを特別な力として呪力と呼んで、妖を作ったのじゃ。」
〈うーん、この島と言うか、この鍾乳洞、とても興味深いね。八咫鏡探しは別として、やっぱり、鍾乳洞中を調べたい。そうそう、洞内に入れそうな穴を見つけたんだ。二人にも明日、一緒に来てもらって良い?高さは結構高いから、どうやって降りるかが当面の課題なんだけど。〉
「おい、大和。」
全くこれまでと対応の変わらない大和に武流が渋い顔をする。
「僕は反対だ。あの穴から漏れ出る力は、ここの比ではないのだろう?そんな所に、こいつを連れて行くのは危険だ。」
びくりとギュンター王子の肩が震えた。こいつ、と呼ばれはするものの、武流は彼の方を見ようともしない。
それに対し、きょとんとした顔で大和は首を傾げた。
〈危険?何が?だって、ギィはわざとじゃないんだし。咄嗟に使った魔法が久しぶりで暴走しただけでしょ。それは、制御すれば良いことじゃない。それよりも、風や火の魔法を使える、って事の方が重要だよ。ね、ギィ。〉
大和はずっとジュラ語で話をしている。おかげでギュンターは、ある程度の話の流れを理解することが出来た。だから、ヤマトとタケルニーの間に意見の食い違いがある事、それが、自分を巡っての事であるのはわかった。
分からないのは、ヤマトの態度だ。
何故、自分を恐れないのか。いきなり、目の前で手に持っていたぬいぐるみが四散したのだ。風刃は、ヤマトの頬も切り裂いた。
〈俺を、俺の事を信じる、のか?〉
震える声で尋ねた。そして、思う。《もし、信じてくれるなら、俺は・・・。》
大和は首を傾げたままだ。
〈信じる?ギィを?うーん、それは、無理。〉
そして、きっぱりとそう告げた。
〈前にも言ったと思うけど、ギュンター王子は、春日と橘花が居なくなった元凶だからね。それを信じるほど、僕はお人好しじゃない。・・・。だけど、まあ、ギィが、本当は、コンプレックスの塊で、酷く寂しがりで、お兄さんが大好きな、こじらせた子供、って事は、知ってる。だから、一緒に鍾乳洞探検をしても良いかな、とは思う、かな?〉
「何故、疑問形なのじゃ!?」
手元の鏡から突っ込みが入った。
隣からは、武流の大きなため息が聞こえる。
〈信じていない・・・。それでも、一緒にいて良いのか?〉
〈は?別に一緒にいるぐらい、問題ないんじゃない?役に立ってくれるならもっと良いし。〉
「お主、なかなかに酷い奴じゃのぅ。」
呆れた声で、照姫に告げられ、大和は「ありがと。」とにっこり笑った。




