異世界 7
『不味い。不味いわ。やっちゃった。これ、操作系の術がかかってる。』
差し出された豪華な首飾りを手にした途端、春日の全身に悪寒が走った。気持ち悪いとは思っていたが、やはり罠だった。
『あんのブラックサンタ。上手いこと言ってあの王子を騙したみたいね。命じることが出来るのは王子じゃなくて、あんたじゃん。』
話の流れでは、ギュンター王子が命じて春日が首飾りを着けた様に見える。しかし、その前の神官長の言葉、「神子に首飾りを」に春日は反応したのだ。
高笑いを上げる第二王子を見る神官長の勝ち誇った表情。傍目には、支持する王子の勝利を喜んでいるように見えるかもしれない。しかし、その実は、自分の手にマリオネットの操り糸を手に入れた自らの勝利を喜んでいるのだ。
時間をかければ、この呪縛から抜ける事は可能だ。だが、橘花がその間、無防備になってしまう。
「春ちゃん!」
様子の変わった親友に橘花の焦りが伝わってくる。『何とか、何とかしなきゃ。』
その時、春日のスマホから、某有名大泥棒のアニメの主題歌が流れてきた。
混乱する場が一瞬で静まる。
流れ続ける主題歌。
橘花が春日のポケットからスマホを取り出した。表示は”クラリス”。
「?もしもし?」
「!?どうかこの泥棒めに盗まれてやって下さい。」
それは、某大泥棒がお姫様を救出するアニメ映画の有名シーン。どうしてこんな合言葉を選んだのか。あの時は、まさかこんな事になるとは思っていなかった。もしも、自分が召喚されたら、と冗談で、スマホに巫術を込めたら、連絡が取れるかとか、奥之院の竹林なら物質転移が可能か、茶室を転移装置にしちゃおう、とか。中二病満載で色々やっていた。
大和は向こうで、出来る限りの手を尽くしてくれているんだ、春日は双子の弟を思う。まさか、本当にスマホがつながるとは思っていなかった。それでも、かけてみたのだろう。言いたいことも沢山あるだろうに、どれだけ繋がっていられるかわからないからこその合言葉だ。時間を無駄にはできない。橘花がスマホを持っているのが幸いだ。上手くいけば橘花だけでも帰すことが出来るかも知れない。
春日は体の支配権を強制的に奪い取った。そして、スマホに向かって叫ぶ。
「おじさま!」
それは助けにきてもらったアニメ映画のヒロインがヒーローの泥棒を呼ぶ時の言葉。そして対となる合言葉。
しかし、その直前、橘花の手からスマホはギュンター王子の手に渡っていた。
「なんだこれは!?」
次の瞬間、王子の姿はスマホと共に掻き消え、呆然とする異世界人達の中で、春日は絶望と共に力を使い果たし、意識を失った。
『ごめん、橘花。』




