異世界 55
「ミランダ殿の気持ちはわかるし、俺も神子召喚に思う所はある。だが、ヨハン王子としても、キッカを晒し者にしたい訳じゃない。最低限の会議に顔を出してくれれば、後はあいつが何とかする、と言っている。」
ひとしきり、レイバンを締めた後、イザークは仕切り直し、とばかりにどっかりとソファーに陣取った。
「こっちの都合ばっかり押し付けて悪いとは思う。だが、あいつは、ヨハンは、この国の第一王子だ。王位継承権を放棄したと言っても、王子としての責任まで放棄した訳じゃない。だから、あいつは、どんなに王妃に憎まれても、政治の表舞台に立つし、最前線で魔物と戦いもする。」
「ここは、あいつの為に、ひとつ折れちゃくれないか?この通りだ。」
そう言うと、イザーク赤騎士隊隊長は深く深く、頭を下げた。
「王都に行くときには、俺がきっちり護る。誰にも手出しはさせない。王都では白騎士が守護に着く。国の王よりも安全を保障しよう。」
頭を下げられた橘花は元より、レイバンも驚いて、座っていた椅子から腰を浮かせた。
一体、赤と青、二人の騎士隊長の間にはどんな過去があって、今のこの関係が成り立っているのだろうか。躊躇なく、年下の女の子に頭を下げて頼み事が出来る。そんな関係に妬ましささえ覚えるレイバンだった。
暫くの沈黙の後、口を開いたのはやはりミランダ元女官長だった。
「国の優位を保つため神子様をご出席させる。キッカが神子様のふりをするのは、本物が眠っているからと言う事ですね。この国を一番に考えるヨハン殿下だからこその、王都呼び出し。
ですが、あまりにもお二人の心を無視した行いに、このミランダ、情けなくて涙が出そうです。」
どこか遠くを見つめる眼差しで彼女は語り続ける。
「ヨハン第一王子殿下はお小さい頃から、王族の役割と言うものをしっかりと理解されていた方でした。まず、この国の民の事を考え、そして、国の事を考え、そうして最後にご自分の事を考えます。ですから、今回の、神子様方への対応についても、まず、国民の生活が魔物で脅かされない事が第一。次に、ジュラ王国の盟主としての立場を守る事。最後にご自分の立場が来ます。神子様の事は、ご自分より優先はされていますが、それも国の立場の次。」
ほうっと溜息をつく。
「勿論、私共国民はそんなヨハン殿下を頼もしく思っております。ですが、後回しにされる他国の者達はどう思うのでしょう。
自国民では無いから、当然?
文句があるなら自分の国に帰れ?
その通りです。
ですが、自分たちの都合で勝手に呼びつけた神子様方にまで、その言い訳は通用しないと思うのです。」
「私は女官長の立場で歴代の女官長の業務日誌を読む事が出来ました。その中には、過去の神子様のお世話をされた女官長の記録も何冊かございました。一部には、神子様を便利な道具の様に思っていらっしゃる方もおられました。けれども、ほとんどの女官長が、言葉も分からず、突然、こちらに連れてこられ、帰る事も叶わぬ神子様に同情的でした。何故、そんな悲劇を繰り返すのか。先代神子様の命題、悲劇を繰り返さない為の努力、を我が国は本当にしてきたのでしょうか?いざとなれば、神子様を召喚すればよい、と思っていたのではないでしょうか?そうして、必要すらないのに、この世界に強引に連れて来たハルヒ様とキッカに、これ以上何を求めるのでしょう。」
「かくなる上は、不詳ミランダ・フォン・シューバッハ。女官長として長年勤めあげた経験を全て、キッカとハルヒ様の復讐の為に使わせていただきます。せめて、一矢報いましょう!」
きりっと背筋を伸ばし、ぐっとこぶしを握り締めて宣言するミランダ元女官長に、橘花たちは目をまるくした。




