現世 50
「あった。」
大和は自分の目を疑った。
いくつか武流が目星をつけた鍾乳洞の天井が地表に近い場所、を目的に島の奥を探索して4時間余り。
木々を抜けた先でいきなり空間が開けた。
「大和!」
腰に結んだロープを引かれ、たたらを踏む。足元の土が崩れ、その先に、突然、ぽっかりと穴が開いていた。
「ゆっくり下がれ。」
そう言われて、そろそろと後ずさる。
「何、崖?」
「いや、多分、予想が当たった。」
更に数メートル後退し、武流は地図を取り出して示した。
「今、この辺りだ。ほら、鍾乳洞の中の池が近いだろう。満潮と台風でこの海に繋がっている鍾乳洞の中の海面も上昇したんだろう。この辺りの天井が薄かった事と、ほら、あの倒れた流木。あれで、穴が開いたんじゃないかな。」
「って事は、あそこから中に入れる?!」「ああ。」
「やった!やったね、武流兄!」
「ああ、降りる準備を整えよう。」
地盤がかなり緩んでいる事を考えると、直ぐに自分たちが降りるのは難しい。大和はリュックサックから部品を取り出し、ドローンを組み立てた。崩れた穴から中へ。四隅にライトが付いて、カメラは360度、全方向に移動させることが出来る。
「取り敢えず、一回、下まで降ろしてみるね。」
カメラで鍾乳洞内を撮影しながら、同じ速度で降ろしていく。意外と深く、底に着くまで、結構な時間がかかった。
開いた穴から吹き込んだと思われる、木の枝や葉、土砂が、鍾乳洞の床に散らばっている。
「大体、100mぐらい?かなり、深いね。これを、ロープで降りるのは無理だね。」
大和がドローンを奥へ進め、送られてくる映像と位置情報を武流が地図に転記していく。
行き止まりが来ると、方向を変え、そうやって3時間余り。辺りが暗くなり始めた為、二人はドローンを回収し、近くの木に目印をつけると、山を降りた。
「あの鍾乳洞の天井に空いた穴から、力を感じたんだ。」
後日の為、下草や飛び出している小枝を払い、足元を踏み固める。少しでも道を歩きやすくしながら、大和は武流に言った。
「やっぱり、神話の黄泉平坂の名を付けるだけはあるね。ひょっとして本物の黄泉平坂じゃないか、って思うぐらいだよ。」
「力?抽象的だな。巫力とは違うのか?照姫は、出雲衆の妖とここの鍾乳洞の関係を匂わせていたが。」
「うん、納得だね。空港での符・雷紋の力は間違いなく、ここのものだよ。」
そう言って、大和は少し考える。
「ここへ、照姫とギュンター王子を連れてくると面白いかも。二人の持つ力は、僕の巫力とはちょっと違うけど、ここの力は全ての根源みたいだから、彼らがどう感じるのかすごく興味がある。」
そんな話をしながら飛行艇を停めた鍾乳洞の元入口の海岸に戻って来ると、飛行艇の中で退屈しているだろうと思っていたギュンターが海に向かって座っている背中が見えた。その横には、赤々と燃える焚火。暗闇の迫る中、その炎は温かく、大和達を迎え入れた。内心ではギュンター王子を一人残すことに不安があった大和は、彼の用意した焚火に、無事今日が終われそうだと、ほっと息をついた。
「ギィ!」
これは、ちゃんと褒めてあげよう、そう思い声をかけたが、彼は聞こえていないのか、身じろぎ一つせず、海をぼーっと見つめている。
「ギィ?ギュンター王子?」
不信に思った大和が、数歩、更に近づいた時、靴底に何かふわりと柔らかい物が、触れた。
『大和~。妾を踏んでおるぞ。』
足元から、助けを求める照姫の小さな声がする。
「あれ?照姫?そんな所で何してるの?」
白い兎のぬいぐるみがぽつねんとその場に転がっていた。
「何と冷たい反応じゃ。それでも、妾の依り代かぇ。」
はいはい、とかがんでぬいぐるみを拾い上げ、汚れを払う。「で、どうしたの?」
『聞いてたも~。あ奴は、』
〈黙れ!〉
照姫の言葉に被せて、突然、ギュンター王子が叫んだ。
〈黙れ、黙れ、黙れ!〉
【風刃!】
ギュンター王子から、鋭い風の刃が、兎のぬいぐるみめがけて放たれた。




