異世界 6
「神子にこれを。」
そう言って、ギュンター王子が差し出したのは、先程、神官長が恭しく取り出していた黄金の首飾り。
「せめてもの詫びに受け取って欲しい。」
直接、手渡そうとするかのように前に出てくる所を、イケメンと一緒に後から入ってきた白服の騎士が押しとどめた。
「殿下。お控えください。」
一瞬、怒りに顔に朱を走らせた第二王子だったが、相手が誰かを思い出して、ぐっと息を飲み込んだ。
「ならば、お前が付けて差し上げろ。」
「いらないわ、気持ち悪い。」
春日は即座に断った。
「そんな見るからに高そうな物を初対面の女に渡すなんて、変でしょ。しかも、直接、身に着ける物って。」
『おまけになんか念が籠っていて、薄気味悪い。』
しっかりと橘花と抱き合って、首飾りから離れようとする春日に、騎士は困ったような表情を見せた。
「神子殿に申し上げる。私は白騎士隊二席のクラウス・フォン・アインバッハと申します。主に王族の警護をする者です。納得出来ない点は多々あるでしょうが、ギュンター第二王子殿下も悪意あってなされた事ではないのです。どうかそのお気持ちだけでも受け取って頂けませんか?身に着けて欲しいとまでは申しません。直ぐにご帰郷が叶わぬ場合に、この黄金はあって困るものではないと愚考致します。」
真摯に頭を下げる騎士と不貞腐れてそっぽを向く第二王子。だが、ちらちらと期待する様にこちらに視線をよこしている。
『なんか、怪しいのよね。でも、確かにあの王子様の気を纏っている物だから、アンカーにもってこいかも。』
既に召喚時に最初にいた者達は、第二王子と神官長以外は全員拘束されていた。神官長も左右を屈強な青服の騎士に囲まれている。第二王子に”兄上”と呼ばれていたイケメンも青服を着ているから、青服達は第一王子の部下か何かなのだろう。
青服はまあ信用できるとして、この白服の騎士は?
きちんと名乗った事と言い、その態度と言い、先ずは、合格、と春日は判断し、首飾りを受け取るべく、手を伸ばした。
「悪意がなければ何をしても許される訳じゃないと思うのだけれど。」
「俺はこの国の王子だ!国の為に多少の犠牲は、」
「殿下!」
「俺の言葉を遮るな、クラウス!不敬だぞ!」
「ギュンター第二王子殿下、殿下は、今、現在、国王陛下の諮問待ちでございます。拘束こそされてはおりませんが、王子のご身分は凍結されているとお考え下さい。」
「なっ!?」
顔を伏せ、一歩引いて礼をする騎士を、驚きの表情で見つめる。それがゆっくりと絶望に彩られていった。
「父上は、それ程まで、俺を厭うているのか?」
「そうでは、」
「ギュンター王子!今こそ、貴方様をお父上に、国王陛下に示す時なのです!神子に首飾りを!」
否定しようとするクラウスの言葉を今度は神官長が遮った。
「神官長!」
イケメンが左右の青騎士に命じ、今度こそサンタクロースの様な老人は取り押さえられた。
しかし
「そうだな。」
ふらり、と力なくこちらを振り向いたギュンター王子は、春日の手に首飾りがあるのを見ると、狂気の笑い声をあげた。
「神子!その首飾りを着けるんだ!」
「・・・はい、ギュンター王子殿下。」
これまでとは、別人の様な覇気のない声で呟いた春日は、ノロノロと黄金の鎖を自らの首に下げた。
「やった!やったぞ、神官長!これで神子は俺の思いのままだ!そうだな?」




