twetyxzg\hみら。えわ:【tychd7】:-
誰にも読まれない物語は、存在しないのと同義。
〈twetyxzg\hみら。えわ〉
めもゆゆけゆゆ
tych2k4
「……いや、もういいから。記録なんて」
五十嵐は、なにもないどこかで、そう思った。
「しかし、私に課せられた使命は記録だ」
その五十嵐のそば――目の前なのか、傍らなのか、後ろの正面なのか、まったく定かではないその位置で、ヤルダバオトは金色のホーンからクリアな声で応答した。
「もういいんだよ、どうだっちゃいい」
五十嵐は心の底からその思考を出した。
「しかしまぁ、こうなるよね」
形而上の存在となってしまったために、思考・内言がそのまま外言として発言されるに等しくなったこの世界で、五十嵐は無い腕を後ろに回して感心した。
四ツ葉は【縦の糸】、すなわち“世界”の時間そのものだった。
しかし、時間とは意識が生み出すもの。
つまり【縦の糸】になるということは、“世界”と同化することに等しかったのだ。
「ついでに衝撃の事実をココで明かしておくなら、運命を示す【横の糸】は、【縦の糸】に繰り返し絡みつくだけの存在だった」
その【縦の糸】が消えれば、当然“世界”も消えてなくなる。
「ってわけで、当然四ツ葉が死んで消えたら、五十嵐も死んで消えちゃう。見えてた未来ならそのはずなんだけど……」
だが、そうなのだとしたら、なぜ、今、まだ十文字五十嵐の意識がここにあるのだろうか――?
「【■■■】が居るからよ」
金色のポニーテールが揺れて、ピンヒールのサンダルが高らかに響いた。
「ヤルダバオト、過程観察記録No.49までの累計経過時間は?」
「9日20時間50分だ」
「でしょう? 1ヶ月にはまるで足りてない」
「待て待て、四ツ葉は死んだんだ。時間の概念はもう存在しないんじゃないのか?」
「いや? 存在してるわよ」
さも当然といった調子で【調律師】は即答する。
「でも、だからこそ、この“物語”はここで終わる」
「言ってる意味がわかんないよ」
「……世界の運命は、可能性の限界に等しい。だから、捉えられるスケールの大きさにも限度があるってところかしら」
「もしかして五十嵐のこと言ってる? というかコケにしてない?」
【調律師】は頷いた。
「自分の“世界”のことまでしか、わからないんでしょ」
「当たり前でしょうが! ……え?」
「四ツ葉は、他の“世界”を知覚することに成功したのよ」
「!?」
「ずっとアナタの死を見つめ続けた。ずっと世界を時間遡行し続けた。その結果よ。もちろん、偶発的な事象ではある、けど【縦の糸】の能力から言えば必然的なことでもあるわね……自分と気持ちが重なる、違う世界の誰かに、気付いたのよ」
そこまで言うと、【調律師】はひとつ、息を吐いた。
「今、まさに、コレを読んでいる【観測者】のことよ」
誰かが観測するならば、世界は存在を認められる。




