【運命の糸】が絡まる様子は、我ながら美しかったんだ
「次元」
空間の広がりを表す指標、変数のこと。
「三次元」
次元が3であること。
一般的な感覚で言うと、縦、横、奥行きの3つの変数からなる。
「四次元」
次元が4であること。
一般に、三次元に時間を変数として加えたものである。
「五次元」
次元が5であること。
“この世界”においては、世界変動率を変数として加えている。
「ではお前たち、手をこちらへ」
ヤルダバオトがふたりに声をかける。
「一人がターンテーブルの中央、もう一人がレコードの縁に指を」
「「え?」」
どういうわけかターンテーブルの中央には鋭めの針。レコードは今も高速回転中。そこに指を置こうものなら出血すると思うのだが?
「お前たちを【縦と横の糸】にするために、私がお前たちの情報を読み込む必要がある。そのためにお前たちの体液が一定量必要なのだ。血液が一番手っ取り早い」
「え、ツバじゃダメなの? 痛いの嫌だよ?」
五十嵐が利き手の人差し指の腹をさすりながら言う。露骨に嫌そうな顔をした。四ツ葉も同じ反応だ。
「唾液ではダメだ。指を舐めたくらいでは量が不足する。痛いのが嫌なら……そうさな、SEIEKIでもTITUBUNPITUEKIでも良いが?」
「は? セ? チ? ……なんて?」
音は聞き取れたが、存在を知らない単語に四ツ葉は思わず聞き返した。
「おっと、お前たちは知らないのだったか? ならば尚更、血液しかないな。安心しろ、一定量とは言っても致命的なほどは要さない」
「「えぇ~……」」
「四の五の言う前に手をこちらに。あぁそうそう、ターンテーブルの中央に指を置いた者が【縦の糸】になる。そこはよく考える事だな」
出血で躊躇わせるつもりもないようだ。
「四ツ葉、お先にどうぞ、ここは年長者からどうぞ」
「いやおかしいよね、自分ら双子だよね? いくら痛いの嫌だからってそういう時だけ年下ぶるのやめな?」
「やれやれ……別にどちらが先という話でもないのだがな」
この後、どちらがどちらの【糸】となるかで見事に四の五の言い争い、結局四ツ葉が押し切られて【縦の糸】に、五十嵐が【横の糸】となることに決まった。
「では、十文字四ツ葉は指を針に刺せ。十文字五十嵐は指をレコードの縁に指を添えろ」
「うぅ……ホント嫌なんだけどなぁ」
「でもこれで超能力者になれるのかと思うと、五十嵐はなんだかワクワクしてくるよ?」
「自分より痛がりなくせに……」
そんなことを言い合いながら、四ツ葉は針に人差し指の腹を刺し、五十嵐は縁に人差し指で触れる。回転する針が、縁が、指先を切り裂き血を流させるのに1秒とかからなかった。
「……」「っ……」
指を切るという、この先も慣れ親しむことはないであろう痛みにふたりは顔をしかめる。
針が血色になり、レコードの上に、縁から中央へ向かって血液で渦巻が描かれ始める。それは、赤い縦糸が同じ色の横糸を纏うようで―――
「よし、離して良いぞ」
どうにも見慣れない、珍しい血液ショーに、ふたりして見入ってしまっていた。我に返って同時に指を離す。
「これで終わり?」
指を舐めて血を感じながら四ツ葉が訊く。
「ああ。これでお前たちは【縦と横の糸】となった」
「そんで?具体的にどーやればタイムトラベルできるわけ?」
このしょっぱさと鉄味がクセになるよなぁとか思いながら五十嵐は問う。
「瞑して念じればよい。お前たち二人が同時に念じれば時間も運命も変わった“糸”へと移ることができるだろう」
「やり方はわかった。……やみくもにタイムトラベルしても意味がないだろうし、まずは自分たちが一カ月後にどう死ぬのかを知るしかないな?」
「ゾッとする話だけど、それしかないのかぁ」
この会話から1ヶ月後。
病室で眠る五十嵐と、それを見て泣く四ツ葉が居た。
針で指の腹をグリグリされたり、鋭利なもので指先の同じところををずーっとなぞられたりしたらどんな痛さなのか、正直想像できなかったので描写してません。
とりあえず確かなのは紙をチソコの尿道口にセットしてシャッってやったらものすごく痛いだろうってことです。味わったことはないですが。