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【自分たち】の世界のはじまり

「ねぇ、そろそろ起きてほしいんだけど」

清潔な白いベッドで眠る双子の片割れにそう声をかける。

「自分は五十嵐(いがらし)が居ないと嫌なんだ」

十文字(じゅうもんじ)四ツ葉(よつば)は病室の丸椅子に座って懇願した。

 事の発端は()()()()。ただいまー、と、ふたりで家の玄関を開けたとき。


 「(わたくし)の名前はヤルダバオト」


 床に、しゃべる蓄音機が置いてあった。


 「このレコード(記録)によれば、1ヶ月後にお前たちは死ぬ」


 音を出す金色のラッパみたいな部品(あとから調べたことだが、この部品をホーンと呼ぶらしい)から、ノイズがないクリアな声で流暢にしゃべる蓄音機だった。


 「だからお前たちを【縦の糸】と【横の糸】とする」


 「……ねぇ四ツ葉、いつの間にこんなおもちゃ買ってたの?」

 「五十嵐……自分の事なんだと思ってるの? 流石にここまで変なモノ買わないよ!」

 「とりあえず邪魔だから横によけて、と……うっわ(おっも)! 四ツ葉、そっち持って」

 「はいはい……せぇの、と」


 「ええい! 無視するな!」

 「なんだよもー、いきなり余命宣告されて、はいそうですかって受け入れられるわけないでしょうが」

 「言ったことの把握はできておるではないか。(わたくし)は知っているぞ、そういうのは現実逃避と言うのだろう」

 「わかってるならこっちがこういう態度になるのも理解してほしいね。だいたい、(なん)なんだお前」

 「(わたくし)の名前はヤルダバオト、と先ほど名乗ったではないか」

 「なんの説明にもなってねぇよっ!」

 五十嵐と、この……ヤルダバオトとやらが言い合いを始めてしまう。

 でも、AIスピーカーのような杓子定規な返しではなく、こんなふうに会話が成立するということは、ロボットとかそういった類のものではなさそうだ。




 とりあえず、このしゃべる蓄音機はリビングのテーブルに移動させた。

 「“物語”を(いびつ)な形から正しく動かす【舞台装置】として、(わたくし)はここに存在している」

 そうしたら、いわゆる電波な演説が始まってしまって、正直、話を聞く姿勢を見せたことをふたりして後悔しだした。

 「このレコード(記録)によれば、1ヶ月後にお前たちは死ぬ」

 確かにターンテーブルにはレコード盤が回っていた。

 「それは本来あるべき形ではないのだ、歪になってしまっているのだ。だからお前たちを【縦の糸】と【横の糸】とし、これを回避せねばならんのだ。そのために(わたくし)はここに存在しているのだ」

 「のだのだうっさいわ! 全っ然わかんないって」

 「五十嵐、落ち着いて。よくわかんないけど、とにかくこのままだと自分たちは死ぬ。けどそれを回避できるかもしれない、ってことでしょ?」

 「いかにも」

 「で、とりあえず一番気になってること訊いていい? なにその……【縦の糸】と【横の糸】って」

 「よくぞ訊いてくれた!」

 顔がついてたら満面の笑みかドヤ顔とかキメてそうなテンションになった。実際は金色のホーンからクリアな声でしゃべっているだけなのだが。

 「“世界”は【縦と横の糸】が組み合わさって出来ている。具体的に言えば【縦糸】は時間、【横糸】は運命だ」

 なんとなく、タペストリーが連想された。

 「それら【縦と横の糸】になるということは、時間と運命を選べるようになる、ということなのだ」

 「ん~……特殊能力者、ってことになるのかな」

 「そのような言い方もできような」

 「ダメだ、その……なに?能力者って説明されてもやっぱりよくわかんねーわ。どゆこと?四ツ葉」

 「多分ね、タイムトラベラーになれってことだと思うよ? 死にそうになったら、別の世界線に移れってことなんでしょ?」

 四ツ葉がヤルダバオトに確認するように問う。

 「そうだ。時間を遡り、運命を選ぶ。これを繰り返すのだ」

 「具体的にどういう理屈でタイムトラベルができるのかは……もはやどーでもいいなー……しゃべる蓄音機が目の前に居るわけだし、たぶんできるんでしょう」

 「そうやって、死なない世界線に行けってことか……よし、やったらぁ!」

 「自分でどうにかなるんでしょうとか言っといてなんだけど……五十嵐、どんだけ大変なことかわかってんの?」

 蒼い顔で四ツ葉が言う。

 「世界線は無限にあるんだよ? そん中から正解をひとつ掴めってことなんだよ?? 何度繰り返すのかわかんないんだよ???」

 だが五十嵐は平然と言い放つ。

 「四ツ葉は選択肢のトータルで考えてるからダメなんだよ。死ぬのを回避しろってことはつまり、生きるか死ぬか、ふたつにひとつ! つまり確率2分の1!! いける!!!」

 昔から五十嵐はこうだった。とにかくポジティブに問題に当たっていくタイプなのだ。アレコレ考えて動けない、動かない自分とは大違いだ、こんな時でさえも……と四ツ葉はひそかに劣等感を再確認する。

 「……わかったよ。どっちにしろ、自分達に選択肢はないんでしょ? やらないと死んじゃうんだから」


 溜息をつきながら、四ツ葉は覚悟を決めた目で五十嵐を見る。

 自信満々の笑みで四ツ葉を見つめる五十嵐が居た。


 「「死なない世界線を探そうか、ふたりで」」

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