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彼女の命の重さは、羽よりも軽いのか、重いのか

「ん…」


視界に初めに入ったのは、テーブルの足だった。


そしてその次は薄ピンク色のクッションだった。


ごみひとつ落ちていない部屋には、必要な家具しかない。


寝返りを打つと、見覚えのある天井が広がった。


「…」


無言で天井を眺める。


今何時だろう。


僕はどうやら寝てしまったらしかった。


白澤さんにお願いされた荷物は、彼女が家を出てから一時間ほどして、すぐに届いた。


そこから短時間の仮眠のつもりが、かなり深く寝込んでしまったらしい。


テレビ台の脇にある時計を見るとすでに昼の12時を過ぎていた。


夜勤帯の仕事をすると、やはり昼夜逆転する生活をしてしまう。


しかし、ここで起きてしまうと、せっかくの生活リズムが崩れてしまうので、寝てしまいたい。


その反面、このまま元カノの家でごろごろと居座ってもいいものかとと思い、心の中で葛藤をした。


だが、体というものは素直なのもので、睡眠を欲しているときは問答無用で睡魔を受け入れる。


まだ寝起きのだるさを全身に感じる僕は、抵抗する姿勢を見せずに、そのまま再び夢の世界に戻ることにした。









次に目が覚めたのは、午後三時あたりだったと思う。


床で寝ていたこともあり、体が痛みで若干の悲鳴をあげている。


重い体を無理やり起こすと、すぐそばに何かの気配がした。


(机にぶつかるか?)


まだ眠気眼で視界がはっきりしていないこともあり、自分の身を守るために反射的に障害になると思ったものに手をかざす。


(あれ?)


固くて冷たい木製のローテーブルの感触を予想していた。


しかし、僕のてに触れたのは、柔らかくて温かいものだった。


慌てて目を開くと、そこには白澤さんが優しい顔をして僕と目線を合わせてくれた。


「良かった。まだいてくれたんだ」


「あ、ううん。ごめん、こんな時間まで。すぐ帰るよ」


僕が触れたのは、彼女の柔らかい頬のようだった。


体をお越しながら、帰る用意をしようとすると、


「…ちょっと…お願いしてもいいかな…?」


彼女は顔を床に向けて僕の黒いTシャツの袖を引っ張った。


正座をして、改まった雰囲気に僕はそのまま彼女と同じく正座をして向き合った。


「あのね、お願いって言うのは、もしよかったらでいいんだけど」


すでにお願い事項は前々から決まっているのに、敢えて其所から遠回りをするかのように言葉を探しているようだった。


「うん。隠さなくていいから、素直に言っていいよ」


僕は、“よりを戻したい”という願いだと予想した。


曲がりながらも付き合っていた僕たちであるし、お互いに酔った勢いもあるが昨日体を重ね合ってしまった。


女性の気持ちというものは理解できたことはないが、やはり肉体関係を持った男女であるのであれば、交際というステータスにいきたいのかもしれない。


こんな僕でも愛してくれるなら、それは愛を返さないといけないのだろうか。


今世界で僕を必要としてくれる人なんていないのであれば、目の前で僕を頼ってくれる人を大切にするのがセオリーとも考えられる。


しかし、彼女からお願いされたのは、ちょっと路線が違っていた。


「うんとね、一緒に、住んでみないかなって。どうかな」


よりを戻したいのだろうと考えていた僕が恥ずかしくなる。


彼女はただ、同棲相手を探していただけなのだ。


それは別に単なるルーメイトで、ルームシェアなのだろう。


「ありがとう。でも、もうこれ以上白澤さんには迷惑をかけられないから、今回はごめん」


何を言われても、端から断るつもりだった。


僕にもプライドが多少なりともある。


確かに派遣社員で職が安定していないのはそうだ。


収入も不安定で、明日首を切られても可笑しくはない。


定住がないのも、否定できるところなんて全くないが、そこは甘えるわけにはいかない。


白澤さんが優しいのはその通りだし、気を使って家を提供してくれているのだとも予想がつく。


さらに言えば、「家賃は折半で」なんて目的で誘っていないのも明白だ。


だからこそ、僕は断るのだ。


あの日、僕はもう白澤さんに頼ったり、関わることは辞めたんだ。


「ごめん。気持ちは嬉しいんだけど、僕はひとりで生きていかないといけないんだ。分かるよね?」


もちろん白澤さんは寂しい顔をした。


そして同時に涙目になって、顔が歪み始めるのが分かる。


「…お願い…します。頼れるのは、桶谷さんしかいないの」


なんと、彼女は僕に土下座を始めた。


「え、ちょっと待って。どうしたの?そんなに一緒に住みたいの?とりあえず顔を上げて」


床におでこをつける彼女の肩を持って、体を起こすと、すでに涙の痕が頬に流れており、そこからまた後から後から続いて涙が溢れてくる。


「大丈夫?なんだか、訳ありっぽいね」


白澤さんは、どうやら単純に僕と住みたいというよりも何か訳がありそうだ。


「…ごめんなさい。いつも、こんな感じで」


「責めないから、訳を言ってくれる?」


「…うん」


こくりと白澤さんは、頷いた。


そして、衝撃的な理由を口にした。


「私、殺されそうなの。だから、守って欲しいの」


これは、また一波乱ありそうだ。


暖かい日差しが差し込む部屋の中で、自分の心がどんどん冷たくなっていくのを感じていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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