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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

終わりかけの世界で復讐を

作者: 朱珠

  今回はバトルものということで初挑戦でしたが

書かせていただきました。

 普段使わないような語彙や頭を使って書いたので

とても難しかったですが楽しんでいただければ幸いです。

  俺は物心がついたときからそこに居た。

 そこでは殺しは日常的に起こり、手で救った水が零れ落ちていくくらい簡単に命が消えていく。


  倫理なんてないイカれたクズばかりの場所で俺を導いてくれた男がいた。

 男の名前は浅黄(あさぎ)といい、俺が大きくなるまで周りから守ってくれた。

 そんな浅黄はことあるごとに俺にこう言っていた。


 「刹那、俺が死んだら悲しんでくれるか?」


  毎回どう答えるべきか悩んだ末に分からないと答えていた気がする。

 そのときは人の死をよく理解していなかったのかもしれない。


  そこに居たはずの人間が突然いなくなったりすることはあっても、目の前で悲鳴をあげて泣き叫びながら命が止まるところは見たことがなかったから。

  初めてそれを見たときは死ぬ程吐いて、吐いて吐いて吐いて、泣いた。


 「皆殺しだあッ!」

 「や、やめてくれ……っ!」


  ——ズダダダダダダダ。


 「あ……」


  人々が暮らす街に颯爽と現れた黒服の男達はまるでゲームかのように銃を乱射し、人々の命を奪ってゆく。


  もはやここに治安なんて言葉が存在しないことはこの光景を目にすれば否応なしに思い知る。

 荒廃した世界で男は勿論のこと年端も行かぬ子が、子を身篭った女すらもが腕を、足をもがれ蹂躙されてゆく様を。


 「ああ、こんな世界は間違っているとも」


 俺は人々が殺されてゆく様をただ眺めていた。

 悲鳴をあげて逃げ惑う人々の様子と銃を射ち放つ連中の嬉しそうな表情を見て、俺は弱者が蹂躙され貪られるこの世の仕組みを嘆く。

  もう何度も目にしてきたはずの光景を目にしてその度打ちひしがれる。


 「なに悲しそうな面してんだよ。お前もこっち側だろうが」

 「ああ」


  一緒にするな。そう言えようものならどれ程良かっただろうか。

 まさに俺も黒服の男達となんら変わらない、無遠慮に搾取する側の人間なのだから。


 「ひっ……お願いです。私の命はどうなっても構いません……だからこの子は助けてあげてください……!」

 「わかった」

 「ありがとうございます……ありがとう……ございます……」


  ——ドンッ。

  黒服の男が赤子に向かって発泡した。

 女の手に抱かれた赤子からとめどなく血液が漏れ出す。


 「えっ……」

 「にひひっ」


  ——ドンッ。

  続けて発泡した銃弾は女の額に風穴を空けていた。


 「お前……次同じことしてみろ」

  慣れたはずなのに思わず口元を手で覆ってしまう程に惨たらしい様に怒りを覚えた。


 「わあったよ」


  男はニヤニヤと不快な笑みを浮かべたままに今度は16、17歳程の少年に銃口を突き付けている。間違いなく殺る気だ。


 「死にたくなかったら命乞いしてみろ」

 「あんた達は何故罪なき弱者を殺すんだ? 破壊衝動に身を任せて奪った命は何十年とかけて紡がれてきたものだ。それをそんなもので簡単に奪っていいのか?」

 「ああもういいや。死のっか、ばいばい」


  ——ドンッ。

  男が放った弾はたしかに少年に被弾した。

 かのように見えた。


 「がはぁっ……! ぁぁあ……何しやがったくそったれ……」

 「人の話は最後まで聞いて然るべきじゃないのか?」


  気が付いたときには男は俺の前で血を流して横たわっていた。

 ふと目を向けると、赤黒い液体が右腕を中心に濡らしている。そうか俺がこの男を殺ったのか。仲間を殺したとあれば、俺の処分はどうなるんだろうか。

  処刑か、よくて追放もしくは投獄といったところか。だが不思議と人を殺した高揚感も罪悪感すらも感じない。


 「そいつを殺ったのあんたじゃないよ」

 「じゃあ誰が——」

 「俺だ。俺が殺した。てかあんたもそいつの仲間? 仲間なら殺すけど」


  少年は地べたに(つくばう)男を指さして冷ややかな声で俺に語りかける。


 「いいや。生きてくれてありがとう」


  俺は感謝を述べてその場を立ち去る。少年が怖いわけじゃない、この気持ちも嘘ではない。無辜(むこ)な民を殺して歩くクズが死に、少年が生き残る。そっちの方が幾分かマシだから。


 「テメェら集まれ!」

  アジトへ帰るなり、ボスが皆を集めて緊急会議を始めた。

 普段奔放なボスが慌てた様子でいるだけで胸騒ぎがする。


 「浅黄が死んだ。向こうに異能持ちが居たらしい、我こそはという奴がいれば手を挙げろ」


  嫌な予感ばかりが何故こうも当たってしまうのか。

悲しいはずなのに不思議と涙が溢れ出ることもなかった。


 ごめんな浅黄、あんたが死んでも泣けなかった。

 その代わり、ちゃんと仇はとってやるから。


 「俺が行きます」


  低く震えた声が古びたアジトに響き、怒りと共に込み上げた気持ちによって言葉を放つ。それと同時に薄暗い部屋に一瞬差し込んだ月明かりが俺の頬を照らし輝いた。


 「上等……人間らしさ、ちゃんと残ってるじゃんか」


  翌日の早朝、日の出と共に壊された街を訪れていた。

 鉄骨の剥き出た建物の残骸や、シミになって残る血の跡、音ひとつない街を見て思うところがないわけじゃない。あの少年も街の仲間が沢山殺されてその仇として浅黄を殺ったのかもしれない。

  先に仕掛けたのはこっちだし、今現在俺がしようとしていることをされただけ。


 でも人間なんて結局そんなんもんだろ、原動力なんて全部エゴで出来てる。

 その結果が気に入らない、受け入れられないから感情に任せて武力や暴力でねじ伏せる。それができないのは弱いからだ。結局どんだけ抗おうとも俺も悪だねぇ浅黄。

  それだったらこれで悲しみの連鎖は終わりにしようぜ。


 「あんた昨日の」


  標的である少年がこちらに気付き声をかける。

  相手は能力持ちだ。厄介なことされる前に殺れるに越したことはない。

 不意打ちでもなんでもいいから勘付かれるな。思考する間を与えるな。


 「敵討ちに来た」


  不意に敵意を見せて動揺を誘い、その一瞬の隙をついて腹部に銃口を突き付けて引き金を引いた。


  「やってくれるじゃねぇか……。あんたのこと信用してこの距離まで近付かせたっていうのに」


  たしかに弾は少年に当たっていた、しかし弾痕は彼の腹部ではなく脇腹を掠めている。少年の腕が俺の腕を掴み、被弾する直前に銃口をずらしたのか。

  あの一瞬でそれをこなしてくるとは想像以上の手練と見た。


 これでもう奇襲は通用しない。

 それに今のところ武器のようなものは出していない、となると少年が臨戦態勢に入る前に仕留めきるのが最善だ。

  掴まれた腕を引き離すように放った俺の回し蹴りが確実に少年の左腹部を抉った。


 「うぐ……まあまあ、躍起にならずにまず話をしないか。他の動物とは違って俺らは言葉を交わせる」


  ここまで攻撃しても尚、戦おうとしないところを見るに戦闘に大した自信があるのか、もしくはただの命乞いか。俺に対して命乞いをするような奴が浅黄を殺せるとは思えないので恐らく前者。


 「何か話すことがあるか? 敵討ちだ、お前を殺すこと以外に意味はない」

 「もう少し常識のある人だと思ってたがあんたも昨日の黒服達と一緒なんだな」


  安い挑発に乗って距離を詰めてもすぐに後ろに逃げられる。まだ戦う気はないということか……舐めやがって。


 「なら俺が悪でお前は正義って所か」

 「勘違いするな、俺は正義って嫌いなんだよ。

正義はだれかの為だなんて大義名分を盾にして逃げ道を作る為の便利な言葉じゃねえ。

 だれかの為なんて存在しないんだよ、自分を正当化したいがための後付けに過ぎない。

 人間の行動理念なんて全部この胸の内にあるんだ。理由があろうとなかろうと人を殺した時点で既に俺らは人の道を外れた外道だ。

 待たせたな。どっちの悪意(エゴ)の方が強いか決めようぜ」

 「ああ、刺し違えてでも黄泉へ送ってやる」


  そこから暫くは弾の節約を兼ねた体術での戦闘が続いた。

 自身の体術や反応速度には自信があったにも関わらず、俺と勝るとも劣らない戦闘を続けられ後手に回ってしまっている。


  そして何より敵の能力の判別がついていないことが不安だが、それはこちらも同じことだ。

  しかし最初に入れた弾痕や横腹への回転蹴りは少なくとも効いてはいる。彼とて体力は無尽蔵ではない。

  どこかで機会を作り、攻めに回るしかない。


 一度後ろに跳び距離をとって体勢を整えて拳銃を手に持ち直す。

 するとすかさず少年もどこからか拳銃を取り出し弾を装填しこちらへ構えた。


 「そんじゃ第二ラウンドと行こうか!」


  腹に傷があるにも関わらず意気揚々とそう言い放つ姿を見て悟る。たしかにこいつは人の道を外れていると。


 「お前楽しんでるのか?」

 「アホかっ……楽しくねぇよ。でも殺らなきゃ死んじまうからな……っ!」


  そう言い放つと同時に2発放つので慌てて近くの建物の影に身を潜める。

 くそ……また後手に回ってしまった。あいつは直に追い付く。

 ならこの短時間で対抗策を考えるしかない……頭を回転させて思考を巡らせる。


 遂に向こうから攻撃を仕掛けてきた、となるとあいつも余裕がなくなってきた証拠だ。それに比べて此方は息切れこそあるものの目立った外傷はない。向こうは出血による血圧の低下や目眩、そして痛みによる反応の衰え。


 「作戦会議はもう終わったか?」


  少年の放った弾丸が俺の右頬を掠め、少量の鮮血が飛沫をあげる。


 「そりゃあもう十分」

 「そうか、なら次は外さない」

 「次はない」


  ——カチッ。カチッ。

 少年は動揺した様子で慌てて引き金を引き直す。


 「……セイフティは外れている。成程ここで能力を使ってきたか」

 「御明答だ、黄泉の手向けに教えてやるよ。俺の能力はセイフティだ。敵にかければそれを封じることができるが重ねてかけることが出来ない。だからこその奥の手だ。仇はとらせて貰うぞ」

 「……くたばりやがれ」


  ——ドンッ。

  鈍い音が響くと同時に右肩に鈍い痛みが広がっていく。俺が攻撃したはずなのに何故俺が出血してるんだ。


  この既視感、昨日仲間が殺されたときに使った技か。こんな小細工に引っかかるなんざしくじった。

 負け犬の遠吠えと思われた少年の憎まれ口も、この状況を想定してのことか。


 「成程、これがお前の能力ねぇ……」

 「形勢逆転。奥の手は最後まで隠しておくものだろ? これじゃ攻撃もままならないだろうから冥土の土産に教えてやるよ。俺の能力は反射、拳銃くらいなら簡単に跳ね返せるんだ」

 「それじゃあな。強かったぜあんたは」

 「勝手に勝ったつもりになってんなよ……。セイフティ解除……っ!」


  元から備わっている身体中のセイフティを解除することで身体能力の一時的な上昇を促すが、身体に大きな負担を及ぼすまさに諸刃の剣。

  俺の読みが正しければ、あいつの反射は超至近距離での攻撃を跳ね返すことができない。

 そうでなければ最初の奇襲もわざわざ腕を掴んでずらす必要もない。


 「おいおい嘘だろ。何個奥の手持ってるんだ……? でもその右腕で弾丸を反射できる俺に勝ち目があるか?」

 「ぅぐ……っ!」

 「別に殴り殺すことも不可能じゃないが……。長く続けてると俺が先にくたばっちまう……」


  体力の消耗が尋常じゃない。身体全体が悲鳴をあげているのを感じる。持ってあと二分って所か。まあこいつを殺すのには十分だ。


 「あんたまでくたばるつもりかっ!? 右腕だって機能しないはずなのに……一体何しやがった!?」

 「諸刃の剣だよ。初めに刺し違えてでも殺すって言っただろうが……っ!」


  少年の背中に銃口を突き付けて最後の会話を始める。


 「お前が今から死ぬ理由は三つ、一つは最初から俺を殺しに来なかったこと。二つ目は浅黄を殺したこと。三つ目はあんたが悪党だったこと。俺が死ぬ理由も三つ、一つはあんたの小細工を見破れなかったこと。二つ目は俺が大バカ野郎だったこと。三つ目は俺も悪党だったこと」


  ボロボロの身体で息を切らしながら少年は口を開いた。

 きっとトドメを刺さずとも俺と同じで長くないはずなのに。


 「俺があんたら黒服達を殺した理由はな……はぁっはぁっ……」

 「お前の事情に興味はない。後味が悪くなるだけだ、じゃあな」


  最後まで足掻こうとする姿を無意識に今の自分と重ねてしまう。


 「最後まで自分のことしか考えてないんだな……妹が拉致された挙句殺された報復だよ。俺みたいな悪人が殺されるのはいい……でも妹は何もしてないじゃねぇか……」


  聞く気なんか元よりなかったはずなのに気付けば最後まで少年を止めることはできず挙句貰い泣きまでしてる始末だ。


 「ああ、向こうで会えるといいな」


  ——ドンッ。

  静かに引き金を引くと少年は穏やかな笑みを浮かべて目を閉じた。

 それとは似つかわしくない鈍い音が鳴り響く。


  殺したい程憎んでいた名前も知らない少年に涙を流し、励ましの言葉まで贈るなんて。

 なんだよ、俺は悪だろ? らしくないじゃないか。


  唐突に浅黄と会った時のことからつい昨日のことまでスクリーンに映し出された映画のワンシーンのように脳内で再生される。そうか、これが走馬灯。

 これが死ぬってことなんだな。


  浅黄、あんたが居なければ俺はとうの昔に死んでいた。

  拾われた命でも俺は自分勝手なエゴイストだから、俺のやりたいように使っちまった。


 なあ、浅黄は俺が死んだらどんな顔するんだ?

 俺はあんたが死んだと聞いたとき、ちゃんと泣いたんだからあんたもきっと泣いてくれるよな。

 散々泣いて、泣き飽きたら今度は俺のこと昔みたいに叱ってくれないか……。

 また少しバットエンドよりになってしまった

こと苦手な人にはお詫び申し上げます。

 主人公が悪役ということや、間違っているとは分かっていながらも、育ての親をやられた悲しみを背負い復讐の連鎖に投じていくといった内容でした。

 お読みいただきありがとうございました。

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