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信玄の厠  作者: 厠 達三
258/651

華麗なる王室

やたら読み辛い掌編です。

「ああ、クリビツキー、クリビツキー、どうして貴方はクリビツキーなの?」


「どうしたの? アナスタシアお姉様。とってもお辛そう」


「ああ、私の可愛い妹、エカテリーナ。聞いてちょうだいよ。わたくし、先日公務でさる伯爵家の園遊会へ招待されましたの。ええ、それはなんの変哲もないありふれた公務だったのですわ。わたくしも退屈だったけれど、お父様とお母様にそれが王室に連なる者の責務だとか言われて渋々出席してただけなのですわ。あんな庶民が喜ぶだけのパーティー、決して楽しんでたわけではありませんわ」


「ああ、お姉様。そのお気持ち、わたくしもとっても、とっても、よく分かりますわ。あんな下賤の者が飲んで騒いでおべんちゃら並べるだけの集まり、何が楽しくて頻繁に催されるのか理解に苦しみますわ。公務なんてこの世からなくなってしまえばよいのに!」


「それはともかく、わたくしがその園遊会の淀んだ空気に当てられて休んでいると一人の殿方に声をかけられましたの。それが社交界でも新進気鋭の貴族院議員として注目されてるクリビツキーというお方でしたわ。その殿方がもうオペラ座俳優かと思うほどのイケメンで胸板も厚くて背も高くて声もとってもダンディなの。もちろん、態度も物腰も言葉遣いも非の打ち所のない紳士でしたわ」


「まあお姉様、それはとってもラッキーでしたわね。公務なんておよそアブラギッシュなオヤジに手にキス&セクハラされるばかりで楽しい思いなんてほとんどできませんもの。あら、わたくしったら、お姉様の前でとてもはしたない言葉を使ってしまいましたわ。ゴメンあさ〜せ、オホホホホ。それはともかく、良かったではありませんか。公務でそんな殿方とお近付きにおなりだなんて。ごちそうさまですわ」


「でも聞いてちょうだいよエカテリーナ。それからというもの私の心はどんより曇った空のよう。クリビツキーのことを考えただけで胸が苦しくなって切なくって憂鬱な気持ちに苛まれてしまうの。彼のことが片時も頭から離れず、もう一度会いたいという気持ちに身悶えするばかりですの」


「まあお姉様、それは恋というやつですわよ。ほら、私達って高貴な生まれだから会う男性といえば枯れ果てた年寄りか下腹の出っ張った中年ばかりで色恋にはとんと無縁ですから。イイ男に対して免疫がないのでコロッとやられちまったのですわね」


「そう、恋ですわ。これは恋ですの。わたくしは今、恋という不治の病を患っていますの。この恋煩いを鎮める方法はただひとつ、愛しのクリビツキーとベッドにインするしかございませんのことよ!」


「まあお姉様ったら、なんてはしたない。でも羨ましい。そのお姉様の強さと奔放さ、とっても憧れますわ」


「そこでわたくし、お父様お母様に相談しましたの。クリビツキーとお付き合いしたいって」


「その先を言う必要はもうありませんわ。猛反対されたご様子が目に浮かびますもの」


「そのとおりですの。彼は議員とはいえ下賤の出身。私どもとは身分が違うと烈火の如くお怒りになられましたわ。ああもう、時代錯誤も甚だしいですわ」


「そうですわ。もうそんな時代ではありませんわ。今や国民皆平等が尊ばれる風潮ですのよ。男尊女卑などその最たるもの。女を道具として使い使われてたお父様お母様の時代はすでに遠くになりにけりですわよ。いまでは平民の女性は下着同然の服装で街中を闊歩し好みの殿方をハントしているそうですわ。それが時代の最先端ですのよ」


「それはわたくしも言いましたわ。でもお父様はそれは下賤のやることだ、王室に連なる者がやることではないとモーレツにお怒りあそばしましたわ。そしてあろうことか先般、わたくしの婚姻を勝手にお決めになりましたの」


「それは横暴ですわ! 人には好きなお相手と結ばれる権利が等しく有るべきですわ! 生まれが違うだけで好きでもない相手と結婚させられるなんて、わたくしたちはトシ食ったオヤジの性処理兼介護士ではありませんのことよ!」


「ああ、クリビツキー、クリビツキー。どうして貴方はクリビツキーなの。もしわたくしが家柄も血筋もない下賤な平民の女なら、今すぐ貴方の胸に飛び込んでゆくのに」


「お姉様、これは断固抵抗するべきですわ。今すぐ家から飛び出てそのクリビツキーとやらと駆け落ちするべきですわ。それが開かれた新しい時代というものでしてよ。きっと世の女性たちも応援するに違いないのですわ」


「おおエカテリーナ。さすがわたくしの妹。頭のキレが半端ないですわ。あわよくばわたくしから相続権を奪ってしまおうという打算も見え隠れしなくもないけれど、今のわたくしにはどうでもいいことですわ。では、善は急げ、早速行動あるのみですわ!」


・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


「あらアナスタシアお姉様、もう帰ってきましたの?」


「それが聞いてちょうだいよエカテリーナ。クリビツキーったら、王室から離れたわたくしには興味が持てないって言いますの。要は国の後ろ盾と資産のない女とは結婚する気がないから王室を離れず結婚できる方法を模索してこいって迂遠に言われましたの」


「まあなんとしたたかで打算的な殿方ですこと。女を自身の地位向上のための道具としか見てないという魂胆が丸見えですわね。駆け落ちしなくってよかったかもですわ」


「でも聞いてちょうだいよエカテリーナ。わたくしったら、それでもクリビツキーと結ばれたいのですわ。彼の男としての野心にますます惹かれてしまったのですわね。利用されると分かっていても、彼になら利用されてもいいって思えますの。それに彼、アッチの方も予想通りの豪傑っぷりで……ゲフン! ゲフン! それはともかく、わたくし、もう彼なしではいられませんの。彼と結ばれるためなら何でもしようっていう心づもりですの。これこそ真実の愛というものですわ!」


「真実の愛はいいのですけど、さっさと戻ってきてどうするおつもりですの。お父様にワビ入れて指つめるにしても結婚なんて到底認められはしないと思いますのよ」


「だからこそ奸智に長けたエカテリーナ様のご助言を拝借したいのですわ。この難題を突破する妙案をわたくしに授けて欲しいのですわ」


「う〜ん、ではこういうのはどうでしょう。お姉様の色恋を下々のマスコミにリークして社会運動を起こすのですわ。最近庶民の間では王室は開かれるべきだとかいう意見が盛んに出てるらしくって、庶民に迎合する貴族がもてはやされてるとも聞きますわ。でも、この方法ではお姉様が被るダメージも大きいし、イメージダウンも避けられないし、ただのスキャンダルにしかならない可能性も大ですわね。やっぱりこの方法はパスですわ」


「いえ! それ、わたくし的にはとてもいいアイデアだと思いますわよ。他に妙案もないならやってみる価値ありですわ! 早速この話をマスコミにリークしてきますわ!」


・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


「やりましたわ! マスコミの偏向報道が奏功して王室が槍玉に挙げられてますわよ! しかもわたくしが自由恋愛の最先端をゆく女性として人気を博しているらしいのですわ。社交界でも大々的に取り上げられて、社会運動になるのも時間の問題ですわね。なんだか気分がいいですわあ」


「ただちょっとやり過ぎな気もしなくもないですわね。貧民救済のボランティア活動とかはともかく暴露本の出版までいくとちょっと方向性が違う気がしますの」


「それでもなんでも打てる手は何でも打っておきますわ。なにしろわたくしはいまや自由恋愛、女性開放の旗手なのですもの。庶民が求める理想像を演じるのも人の上に立つ者の責務でしてよ!」


・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


「結婚おめでとうですわ、お姉様。わたくし、感激のあまり涙を禁じえませんわ。ただちょっと世間の反応は予想した通りかなりイマイチですけど。でも妹として心より祝福申し上げますわ」


「ありがとうエカテリーナ。お前のようなデキのよい妹を持ったわたくしは本当に果報者ですわ。もうこれからは身分に関係なく自由に恋愛し、結婚し、出産し、家庭を築ける時代なのですわ。お前も早く理想の殿方をゲットするのですわ」


・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


「あらお姉様。また社交界のパーティーに出席あそばしますの?」


「当然ですわ。また新しい彼氏をゲットして自由恋愛をあまねく庶民に享受させるべくわたくしは一日たりとて休んでいられないのですわ」


「自由恋愛はいいのですけど、次々浮名を流すのもどうかと思いますわよ。自由恋愛というよりただのヤリ◯ンとして面白おかしく消費されてるだけのような気もしますの。お姉様の子供たちの面倒見てるのもほぼほぼわたくしですし」


「所詮マスコミなんてゲスい話題にしか食いつかないものですわ。それよりわたくしはもっと高尚な戦いをしておりますの。王室が開かれ、貴賎の別なく誰もが好きなお相手と結ばれる時代の到来までわたくしの活動は続くのですわ」


「お姉様、少し冷静にお成りあそばしまして。クリビツキーさんと離婚してからというものお姉様の評判というか商品価値はめっきり落ちてしまったと思うのですけれど」


「クリビツキーのことはお言いでないよ! 上昇志向の塊のくせにちょっと蹴つまづいたくらいでインポテンツになるような男と一瞬でも結婚してしまったわたくしの人生最大の失敗なのですわ! この汚点を拭い去るためにも、わたくしは開かれた王室を実現させなければならないのですわ!」


・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・


「ああ、エカテリーナ、エカテリーナ。どうして我が家にはこんなにもお金がないの?」


「当然ですわ。お姉様が開かれた王室なんて大々的にやってくれちゃったものだから王室は解体。ただの庶民に落とされ税金で養われることもなくなったのですから」


「どうしてそんなことになったの? 昔はお城に住んで食べ物も着るものも召使いも沢山いてお金に困ることもなかったのに!」


「そりゃ当然なのですわ。お姉様がその王室の権威を失墜させてくれちゃったおかげで今や誰も王室なんかありがたがってくれませんから。ある意味、お姉様が望んだ時代の到来なのですわ」


「わたくしはこんな時代望んでおりませんでしたわ。わたくしの子供たちはどこ?」


「莫大な借金返済のために毎日馬車馬のごとく働きまくってますわ。ただ、昔の公務とかと比べるとどっちが過酷かは判断に迷うところがありますわね」


「ああ、あの頃はよかった。毎日アホみたいな園遊会に出席してお愛想笑いするだけでよかったのに。気に入らない相手でも政略結婚してれば一生安泰だったのに」


「今更言っても遅いのですわ。お姉様はまだいいですわ。好きなお相手と結婚して飽きたら離婚して次々浮名を流して世間の話題をかっさらってさんざん贅沢できましたもの。わたくしなんか結婚もできず、財産も相続できず、お姉様の子供の子育て、果てはお姉様の介護に一生を費やすことになったのですもの。どうしてくれるんですの!」


貴族の言葉遣いが甚だおかしいですが作者が無知なだけなので気にしないで下さい。


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