ぼくらの実験都市
掌編でゴザール。
国内最大手の自動車メーカーの社長が実験的プロジェクトを立ち上げ世間の注目を集めた。
それは未来を想定した実験都市計画。化石燃料からの脱却、自動運転の実現。それらのモビリティが機能するよう予め計画された都市設計、建設、運営をいち企業が行うとあって経、産業界のみならず、各マスメディアも驚きを隠せなかった。
なにしろその自動車メーカーは国内最大手どころではない、世界シェアでも1、2を争う大企業。実験都市という器に入れる中身は全て自前で用意できる。
自動車工場はもちろん、それに関連する部品メーカー。販売ディーラー。従業員養成のためのスクール。福利厚生のための医療、介護施設。インフラ整備のための建設会社まである。従業員は家族も含めれば都市部の人口に匹敵するほどの人数がいる。彼らを住民として移住させ、実験都市の市民として生活させる。
いや、そのメーカーの本籍地がすでにそのようになっており、「帝国」とまで言われている。大企業でひとつの街が形成されるのは古今東西珍しいことでもない。それをこの実験都市は一から計画的に創りあげようというわけだ。
そのためのエネルギーも目処は立っている。実験都市の内外で発電した再生エネで生活インフラを賄い、ついでに電気自動車の動力源として活用。自動車は電気を貯める電池としても機能し、発電量が少ない時期は貯めた電気を回す。計算としては可能ではあるが、既存の都市ではエネルギー効率が悪く到底現実的とは言えない。
そこで予め省エネ化を念頭に置いた都市計画を策定し、自給率ほぼ100%の再生エネルギー都市を実現するというコンセプトなのである。
この手法ならばスモールなパッケージでのインフラが実現可能だし、市民生活の効率化も望める。もう長い通勤時間に悩まされることもないし、休日も有効に利用できる。生活のための商店も娯楽施設も医療設備も集約、それらも企業の傘下グループなので市民全員が同じ企業の従業員として生活が保証される。その市民にもナンバーを振って管理すれば高効率で快適な生活が営めるのである。
一見して夢のようなプロジェクトだったが、この実験都市は10年足らずで封鎖された。
問題が起こったわけではない。計画に破綻があったわけでもない。市民が流出したわけでもない。逆にこの都市に住みたいという人が続出したほどなのである。それでもこの計画は理由も明かされないまま打ち切られた。
それは、この実験都市計画がもたらす未来は車の要らない社会に行き着くというシミュレート結果が出たためだった……
面白いものが書けないから社会派を気取りたがるの法則。




