第55話 『疑心』
「騎士隊の人が、酷い怪我だ!」
街の門の方から聞こえる鬼気迫る叫び声。
「……早速事件が起きたね」
グレイズはどこか悲しそうに告げる。
それを聞いて、いきなりエリスは脇目も振らず走り出した。
「おい、エリス?!」
突然の行動に驚きつつも、また見失わぬ様について行く。
遠くに聳える巨大な門。
何かを見に来ているのか。その周りには何人もの人間や妖狐、中には全身毛むくじゃらの生き物までいる。
(あれは、また違う種族か……?)
エリスに書庫で聞いた『獣人』という種族だろうか。
そうこう考えていると、エリスは群衆を掻き分けて事件の中心へと向かっていった。
「ぐっ、すみません、ちょっと通ります!」」
切り開かれた道を通り、後に続く。
そして、事態の中心に着いた時。
「─────」
俺は絶句した。
「ひ、酷いです……」
ルナールが背後で悲痛な声を上げる。
無数の剣が鎧の上から身体のあちこちに突き立てられた、満身創痍の騎士の姿がそこにあった。
兜は半分破壊され、吐血している彼はその場に倒れ、数人の騎士達に介抱されている。
「おい!!大丈夫か?!」
騎士の一人が呼びかける。
近くで見ると傷の痛ましさに目を逸らしてしまいたくなる。
「……ナルシア……が」
男は口を動かし、掠れた声で何かを伝えようとしている。
「ナルシアだと?何があった?!」
エリスは彼の側に近寄り、問いかける。
「っ、ナル……シアは、既に邪悪─────」
しかし、全てを伝える前に彼は目を瞑り動かなくなった。
それと同時に、騒ぎを聞きつけたのか何人かの騎士達が集まってきた。
「皆さん、離れて下さい!」
その先頭で群衆に指示を出しているのは、見知った金色の髪の女性の騎士。
「ソレイユさん!」
「カガヤ様?!エリス様も、何故ここに─────」
「話は後だ、ソレイユ。早く治療しなければ間に合わなくなるぞ!」
焦った様子のエリスの声を聞き、ソレイユはすぐに重傷の男が視界に入ったようで、辺りの騎士に指示を出す。
「っ!治療魔法、急いで!」
指示を受けた数人の騎士達は男の側に駆け寄ると、すぐに傷に触れて治療を始めた。
「傷の具合は?」
「重傷ですが、なんとか命は助かるかと」
「そうか……ありがとう。治療を続けて下さい、それが終わったら城の医務室に運びます」
「はっ!」
どうやら一命は取り留めたらしい。
ほっ、と安堵の息を吐く。
「エリス様、カガヤ様。それに……魔法店の方まで、皆様お揃いで……どうしたのですか?」
治療の様子を見ながら、ソレイユはゆっくりと語りかけてくる。
「…………」
しかし、何故か隣に立つエリスは表情を曇らせたたまま何も答えない。
『騎士隊の内部』
『邪悪の樹に離反』
ふと、昨日のヘクトルからのメッセージを思い出す。
(まさか……)
目の前で首を傾げている、二番騎士隊隊長ソレイユ。
まさか、彼女が離反しているのだろうか。
明日は推敲の時間にします。
なので、次回の投稿は11月2日になります~!
*追記*
3日の21時に変更に相成りました。
申し訳ありません。




