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『異世界転移者は悉く。』※修正中  作者: 無瀬
《グレイズ魔法店》
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第54話 『翌日』

 

 ─────日が空高く登る昼下がり。


 僅かに昨日よりも人通りの少ない往来に、俺は居た。

 道すがらに通りがかった、髪飾り等を取り揃えたアクセサリー店。

 そこの主人らしき男が、微笑みながらこちらに声を掛けてきた。


「やあ、お兄さん。どうだい、お安くしとくよ」


「いや、ちょっと急いでるんで……」


「まあまあ、見ていくだけでもいいからさ。ぜひ彼女さんや家族に─────、」


 やんわり断っても食い下がる事の無い店員は、何かに気が付き顔を綻ばせる。


「おお、可愛い()だね。妹さんかい?」


「あー……」


 ()

 その単語が指すであろう、隣に立つ()()に俺は視線を向ける。


「妹なんて失礼しちゃうわね、()()()?」


「あ、アナタ?!」


 エリスは妙にニコニコと笑顔を浮かべながら、腕にしがみついてきた。


「可愛らしい人……結婚したばかりだから、まだ恥ずかしいのね」


「結婚……?!」


 猫被りもここまでくると感嘆に値する。

 微妙に目を潤ませるエリスを見て、店の主人は蒼白させた。ついでに俺も。


「こ、これは……大変失礼致しました!!」


「お気にならさず。よく間違われるので……あ、この髪飾り下さいな。お幾らかしら?」


「い、いえいえ、お代は結構ですので……」


 その溢れ出るお嬢様オーラに、店の主人は完全に萎縮してしまっている。


「あら、本当?じゃあ遠慮なく」


 エリスはご機嫌な様子で若干高そうなネックレスを手に取った。

 どうやら根本的にがめついのは変わらないらしい。


「似合うかしら?」


「あ、ああ、うん。似合ってマス」


「本当?嬉しいわ……ありがとう、ご主人。また来させて貰うわね」


 彼女は優雅に一礼し、店を後にする。

 なんというか、その手馴れた動作には貫禄を感じてしまう。


「は、はい!またのお越しをお待ちしております!」


 お辞儀をする主人を見やりながら呟く。


「ちっこくても元領主って訳ね……」

「何か言ったか?」

「気のせいでーす!」


 ぎりぎりと腕が締め付けられる。

 この切り替えの早さたるや、とんでもない魔女だ。



 あれから─────、



 結局グレイズの店で一泊した俺とエリスは、ヘクトルの伝言通りナルシアに向けて歩みを進めていた。


「で、これからどうすんだ?」


 エリスは自らに付けたネックレスを見つめながら告げる。


「ふむ、ナルシアに行くには……まず門の側の走鳥店で鳥車を借りなければな」


「なるほど」


 鳥車とは何だろう、恐らく馬車みたいなものだろうか。

 未だ見ぬ走鳥にも胸が踊る。


 そう言えば、エリスの屋敷にいた走鳥のフェニックスは無事だろうか。


「ところで……」


 ふと、エリスは忌々しげな表情で後ろを振り返る。



「何故、お前達も付いてきている?」



「店長がお小遣いくれるって言うですから、付いてきました!」


 元気そうに、どこかで買った飴を舐めている狐娘のルナール。


「わざわざ一日引き止めたんだ。お見送りくらいはするよ」


 そして彼女が務める魔法店店主、グレイズ・ラクラカルテ姿があった。

 グレイズは、わざとらしくこちらにウインクをしてくる。


「僕の愛しのカガヤクンもいる事だし、ね」


「─────」


 彼女には失礼かもしれないが、思わず身震いしてしまう。エリスも呆れた様に溜息も吐いている。


 というのも昨日の夜、深夜に部屋に入って来たり、俺が入っている風呂に乱入しようとして来たりしたのだ。


 その度にエリスに引き摺られて行ったから何とかなったが。


(あれ?なんでエリスも風呂にいたんだ?)


 頭に妙な疑問が過ぎる。

 まあとにかく、この人は中々に危険な人物だという事が分かった。


 グレイズは警戒する俺を見て楽しそうに笑った後、切り替える様に指を立てる。


「近頃は色々と物騒になってきたからね。僕達は護衛だと思ってくれて構わないよ」


「構わないです!」


 グレイズの言葉に、ルナールがフンスと鼻息を鳴らす。


「ふん、このギルドバルトで護衛が必要になる事など無いと思うがな」


「そうでもないさ、昨日だってカガヤクンが助けてくれなかったら僕は大変な目に遭ってたと思うよ?」


「ハッ!謙遜も大概にしろ。お前が危機的状況に陥るなど、街が崩壊したとしてもありえないだろうが」


「わぁ、意外と評価が高いみたいだね。嬉しいな」


「はぁ……」


 エリスは鬱陶しそうに肩を竦める。

 そんな彼女に小声で問いかける。


(なあ、グレイズって結構凄い人なのか?)


(まあな……癪だが、かなり凄いぞ)


(どのくらい?)


(ふむ、叔父上がもう一人居ると言えば分かるか?)


(それは……凄いな)


 エリスの叔父、ヘクトルは魔獣を座ったまま粉微塵にする魔法使いだ。

 それと同等とか、強過ぎるだろう。


 後ろを向くと、グレイズはこちらに手を振ってくる。

 恐る恐る俺は質問する。


「もしかして……昨日、俺が助けなくても大丈夫だった?」


「あー。うん、まあね」


「そっすか……」


 自分より絶対戦闘力が高い人を助けたという事実が、微妙に恥ずかしくなってきた。


「気にするなカガヤ。お前の行動は間違っていないぞ」


「フォローサンキュー……」


「エリちゃんの言う通り、結果的に僕達が出会えたから良かったじゃない!」


「お前が言うと、微塵も良く無いな。どうせ今日も、護衛は建前で……何か事件の予感がするから付いてきたんだろう?」


 エリスの追求にグレイズはニコリと笑う。


「あはは、エリちゃんは流石だね。その通り!今日はまた違う事件が起きる気がするから様子見をね……」


「事件?」


 俺が疑問の声を上げた時、遠くの方で男が叫んだ。


「誰か!助けてくれ、()()()の人が……酷い怪我だ!」

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