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『異世界転移者は悉く。』※修正中  作者: 無瀬
《グレイズ魔法店》
57/61

第53話 『密告』

前回加筆しました!!

 

「さ、冗談はさておき」


「えっ?!」


 ひらりと俺から離れたグレイズは、いつの間にか手に持っていた一冊の本を机に置いた。


「なんだか良いように男心を弄ばれた気がする……」


「奴はいつもこんな調子だ、マトモに取り合うだけ無駄だ」


「酷いなぁ、エリちゃん。僕は一応真剣にカガヤクンな御付き合いを提案したんだよ?」


 グレイズは不満気に口を尖らせる。

 複雑な心境で、何となしに手に持つ本に視線を向けると─────、


「ん?あの本って……」


 未だに手にしがみついているエリスに目配せする。

 彼女も異常に気が付いたようで、俺から離れると自分の鞄の中を漁り始めた。


()()()()?!グレイズ、お前勝手に……!」


 あれは国王ヘクトルがグレイズに借りていた本で、アルトリウスに届けるよう頼まれた品物だ。

 いつエリスの鞄から取ったのだろうか、全く気が付かなかった。


「あはは、ゴメンね。初めて見る本だったから、ついつい取っちゃった」


「ついつい、ではないわ!って……()()()見る、だと?」


「うん?そうだけど」


「それは、叔父上がお前から借りた物だと聞いていたが……」


「ヘクトルに?ん~、貸した覚えはないけど─────」


 そう言ってページをパラパラと捲ると、グレイズはある箇所で目を見開いた。


「あ、そういう事ね」


 そして、(おもむろ)に本の上に手をかざした。



『姿を現せ』



  カタカタと本が震え、店内に風が吹く。

 ページに刻まれた文字はあちらこちらに蠢き、その様相を変えてゆく。

 そして、やがてそれは別の文字列へと成った。


「これは……?!」


「ふんふん、なるほどね」


 彼女達は本に現れた文字を見て、各々表情を変える。


「一体何してるです!掃除するの大変なんですよ!」


 騒ぎを聞き付けたのか、辺りに散乱した物を片付けながら店の奥からルナールが現れる。


「え、なんですか。コレ……」


 そんな彼女も、机の上の本を視界に入れた瞬間に怪訝な表情になる。


 この世界の住人ではない俺は当然、普通には文字は読めないから、能力による翻訳越しで文字を読んでいる。


「─────」


 だが目に映る言葉は翻訳越しでも顕著に、その強烈な意味を示していた。



『騎士隊の内部に、邪悪の樹に離反した者がいる』



 邪悪の樹。


 ヴァジュラという人物に従う、俺と同じ転移者の一団だ。

 その名前を聞くのは何回目だろうか。


 皆一様に、当然俺も言葉を失う。

 それに追い打ちをかけるが如く、文字が再び変化する。



『ナルシアに向かえ』



 そう示した後、スルスルと文字は元の場所に戻っていく。どうやらメッセージは以上らしい。


「なんだか見ちゃいけない物を見た気がするですよ……」


 ルナールは一連の密告を見てしまった事を後悔するかの様に、耳をペタリと倒している。


(ナルシア。向かえって言うからには、地名なんだろうけど……どこの事だ?)


「エリ─────」

「ナルシアは隣の領地にある街だ」


 俺が問いかける前に、エリスは本を自分の鞄に仕舞いながらそう告げた。


「と、隣の領地か……そこに何かあるのか?」


「分からない。だが、あの叔父上がこんな回りくどい事をしたのだ。事態はかなり切迫しているのは確かだ。カガヤ、すぐにナルシアへ向かうぞ」


「り、了解」


「グレイズ、それにルナール殿。邪魔したな」


「ま、またのご来店お待ちしてますです!」


 ルナールに見送られながら、少し深刻な面持ちのエリスに続いて店の出口に向かう。


 その時─────、


「二人共、ちょっと待った」


 突然、呼び止められ足を止める。

 否、少し語弊がある。


 足が、()()()()()()()


「動け、な……あぶねっ?!」


 つんのめる身体を辛うじてバランスを取って支え、体制を立て直す。

 まるで強力な接着剤で固定された様に、足が地面から離れない。


「っ?!」


 前にいるエリスも同じく足が動かせないらしく、よろめく身体を、壁に手を付けて支えている。


「何のつもりだ。グレイズ!!」


 そして彼女はどうにか上体だけで振り返ると、この現象を引き起こした張本人(グレイズ)に抗議の声を浴びせる。


「店長、何してるですか」


 店員のルナールですら、彼女に冷ややかな視線を向けている。


「いやー、皆驚かせてゴメンね。でも、今はナルシアに行かない方が良いよ」


「それは、どういう意味だ」


「なんて説明すればいいのかな。まぁ簡単に言うと二人共……()()()()()()


 数秒、遅れて脳が言葉の意味を理解した。

 まるで既に結果が見えているかの様に、彼女は俺達が『死ぬ』と告げたのだ。


「説明になっていないぞ!?」


「うーん、あんまり僕も説明したいのは山々なんだけど()()の関係上どうにも言えなくてね……」


(能力……?)


 僅かに引っかかる。

 グレイズは俺が視線を向けているのに気が付いたのか、口を手で抑えながら椅子に座り込む。


「おっと、口が滑っちゃったかな。まあ、今日は星の位置が悪いって事で。また明日ナルシアに行く事をオススメするよ」


「訳が分からん、いいからこの拘束を解け」


「それなら明日出発にしてくれる?」


「断るに決まってるだろう!事は一刻を争うかも知れんのだぞ!」


「それじゃあ、術は解いてあげない」


「ぬうう……」


 エリスはキッと睨みを利かせる。

 睨まれているグレイズの方も、片目を瞑り鋭く目を光らせている。


 視線と視線のぶつかり合い。


 その数秒の攻防の後─────、


「分かった、分かった!明日出発にするから早く解放しろ!」


 魔女は威厳も何も無く、悲痛な叫びを上げた。

 どうやらそろそろ支える手がキツくなってきたらしく、プルプルと震えている。


「ふふ……」


 グレイズが小さく笑うと、ふわりと足が軽くなった。


「わぷっ?!」


 ビタン!!と大きな音を立てて、地面にエリスが倒れた。


「言質取ったからね。それと、宿の心配はしなくていいよ。責任持ってこの家に泊めてあげる」


「お……」


「うん?エリス、何か言った?」


 火の粉がフワリと辺りに舞う。

 これは、嫌な予感がする。

 同様に何かを察したのか、こそこそとルナールが店の出入口に歩いていき、扉を開けた。


「す、すみません店長。お客様の為に買い出しに行ってくるです」


「お、俺も付いていきマース……」


 それにあやかって俺も扉を潜り脱出する。

 そして、ゆっくりと扉が閉まった瞬間、


「おのれ、グレイズ!只では済まさん!」


「わあああぁっ?!エリちゃんストップ、ストップ!!」


 怒りに身を染めた魔女の声と、それに追われるグレイズの声が店内から木霊した。


「じゃあ……行きますですか」


「そうだね……」


 俺とルナールは爆発音が響く店を後にした。

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