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第48話 『趣味趣向』

 

「お返し致しますです」


 ルナールは手に持った鍵をヘクトルに手渡すと、小さくお辞儀をする。


「素晴らしい、もはや魔力の残滓すら残っていない。見事だ、流石ルナール殿だ。この街で一番の対魔法の使い手の名は伊達ではないな」


「も、勿体無いお言葉、ありがとうございますです!」


 ルナールは嬉しそうに尻尾をパタパタとはためかせている。


「は?あの娘、可愛すぎない?」


「うむ、それには同意する」


「私もそう思います、今からゆっくり二人でお話しをしたいです」


 俺が問いかけると、左右の同志達(エリスとソレイユ)はそう言って大きく頷いた。

 ただ、少しソレイユの様子がおかしい気がする。


「ふぇえっ?!」


 突然生まれた妖狐ファンクラブにルナールは動揺の声を上げた。


「フ……ルナール殿、此度はご苦労だった。報酬は後で魔法店に送らせよう。グレイズにも息災に、と言伝を願えるか」


 そんな、やり取りを楽しむ様にヘクトルは笑みを浮かべながらルナールに声を掛ける。


「は、はい、ありがとうございますです!店長にしっかり伝えておきますです!」


 ルナールはビシッと気を付けの姿勢になり、再び深くお辞儀をした。


(グレイズ?どっかで聞いた様な……)


 途中に上がった名前に引っ掛かったが、何処で聞いたか全く思い出せない。

 思い出せそうで思い出せない、モヤモヤした感覚に襲われる。


「うーん?」


 俺が首を傾げて思考を巡らせていると、ヘクトルが手を挙げる


「ではソレイユ、ルナール殿を送って差し上げろ」


「はっ!!」


 ヘクトルの言葉にソレイユは今までに無い程、力強く返事をするとルナールの側に駆け寄る。


「では、行きましょうかルナール様」


 そして、がっしりと彼女の小さな手を握った。


「え、えっと……別に手は握らなくても大丈夫で……」


「いえ、大丈夫ではありません!」


「ひぇっ!?」


 自らの顔をルナールの顔の、残す所数センチの所まで近付けると、ソレイユは尋常ではない様子で語りかける。


「貴方は非常に魅力的な女性です。街でその魅力に当てられたカガヤ様のような暴漢に、また狙われるやも知れません……ですからこの手を離す訳にはいきません!」


「あわわわわ」


 困惑するルナールを前に、ソレイユはまるで獲物を目の前にした狼の如き鋭い眼光を向けている。


 あれ、これは─────、


「なぁエリス……ソレイユさんって、もしかして……」


「ああ……私も今思い出した。あいつはお前以上に


 ─────妖狐趣味があるんだった」


「……妖狐趣味!」


 その奇妙な響きに困惑していると、ソレイユはルナールの手を引いて扉に向かって行く。


「ルナール様……近場に良い菓子の店が出来たのです。此度の御礼も兼ねて、これから一緒に如何ですか?」


「え?!えっと、その……」


「ああ、そうでした。仕事用の服では駄目でしたね。では先に服を買いに行きましょう─────」


 会話の一方通行を繰り広げながら、ソレイユはルナールを引っ張って王の間を後にした。


「グッドラック、ルナールさん」


「済まない、私には止められなんだ……」


 俺とエリスは小さな狐娘が無事に家に帰れる事を祈って手を合わせた。



 ◆



「エリス、カガヤジン」


 背後からヘクトルに呼び掛けられ、俺とエリスは何事かと振り返る。


「お前達には、二番騎士隊が心臓を回収しているしばらくの間……王都に滞在してもらう」


「……私達も協力すると言っているのに、滞在ですか」


 彼の言葉にエリスの表情を不満そうに変え、腕を組んだ。

 王様相手にここまで態度を表に出せるのには感服させられる。


「そうだ。魔獣を送り込まれる心配は無くなったが、カガヤジンの体内にはまだ三番目の心臓が残っている」


 ヘクトルも彼女と同じように腕を組んで続ける。


「村で会ったという転移者は、カガヤジンの体内の心臓について言及していたか?」


「していませんでした。奴は転移者としてのカガヤを回収しに来た、だよな?カガヤ」


「あ、ああ。多分……そうだったと思う」


 単純に言わなかっただけかもしれないが、転移者を探しに来たと公言していた辺り、知らなかった可能性が高い。


「叔父上、一体全体カガヤの心臓がどうしたというのです!」


「もしも、心臓の事がバレた時……ヴァジュラは全力でカガヤジンを狙ってくるだろう。どれだけの犠牲を出してでも、な」


「それは……」


 エリスは表情を曇らせた。

 でも確か、妖狐の持つ心臓も奪われたと言っていた。


「なら、俺がこの街に居たら危ないんじゃ……」


 街に魔獣が攻めて来たりしたらどうなるか、引き起こされる悲劇を考える事すら憚られる。


 だが、ヘクトルは僅かに笑みを浮かべる。


「その心配は無用だ、カガヤジン。この街には先程言った通り結界が張られている。魔獣は入れぬ。

 それに─────


 ()()()()


 彼の表情からは、油断や奢り、傲慢さは感じ取れない。

 その王としての圧倒的な実績から来る自信と使命感に満ち溢れていた。


「っ、う………」


 それを見て、エリスが何か文句を言おうとしたが口ごもる。

 彼は彼女のその様子を見て、小さく頷く。


「決まりだな。お前達も大変な事があった後だ、騎士隊が任務を終えるまで、この街で羽を休めておけ」


(まあ、この状況で動き回るのは危険だけど……待ってるだけってのも落ち着かないな)


 俺は確認する様にエリスを見やると、むこうもこっちを見ていてお互いの顔を見合わせてしまった。

 彼女は慌てて目を逸らすと、咳払いをした。


「し、しかし叔父上……待っているだけというのは少し落ち着きません」


 どうやら彼女も同じ事を考えていたらしい。


「カガヤの中にある心臓を、取り出す事は出来ないのですか?」


「ああ、それ俺も気になります。何か魔法とかで回収出来たら……」


「出来るには出来る。だが、その魔法を使える者は今は行方が知れなくてな」


「ふむ、叔父上は出来ないのですか?」


「風で切り刻む事になっても良いなら可能だ」


「なるほど、それはそれで……」


 魔女はニヤリと笑みを浮かべ、顎に手を当てた。


「エリスさん?そこはすぐに却下して貰っていいですか?!」


「ふふ、冗談だよ」


「本当かよ……」


 項垂れる俺の姿を見て満足したのかエリスは、ふふんと鼻を鳴らしてヘクトルに向かい合った。


「話は分かりました、叔父上。ですが……私とカガヤはいつでも協力を惜しまないという事を覚えておいて下さい」


「ああ、覚えておこう」


「では……行くぞ、カガヤ」


 彼女はそのままスタスタと扉に向かって歩いて行った。


「え、エリス?!あ、えっと、ヘクトルさん。ありがとうございました。失礼します!」


「うむ、また会おう」


 ヘクトルの返事を聞いて、すぐに彼女の後を追った。



 扉が音を立てて開き、閉まった。



 国王ヘクトルは玉座から立ち上がると、城下町を一望出来る窓の側に立った。


「全く、生意気な所はお前にそっくりだよ。セルティス」


 彼は静寂に包まれた王の間で、一人呟いた。

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