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第46話 『妖狐』

 

「さて─────」


 乱れた髪を直しながら、 エリスは玉座へと身体を向ける。


「私が知らなかった話……母様とセバスの事は概ね、理解しました。次は、カガヤの話をしましょう」


「……そうだな。貴公はそれで良いか?」


 ヘクトルは瞑目し、俺の方に視線を向けた。

 ロイドに刺されてからこの城で目覚める迄の記憶の空白の期間、そこで俺が何かをしたらしいのだが、とうとうそれを教えて貰えるみたいだ。


「よ、よろしくお願いします!」


 出来る限り、元気良く返事をする。

 ソレイユ曰く、()()で話せないとの事だったが─────、


(気絶してる間に覚醒した俺が、突然手に入れた呪いの力で暴れまわった……とか?)


 などと、下らない妄想をする。

 もし、そんな少年漫画的展開が起こっていたとしたら、


(気絶とか、かなり勿体無い事をしたかもな。なんて……)




「カガヤジン。貴公は十に分けた内の、三番目の闇の心臓をその身に受肉させ、闇の竜に成り、暴走……破壊の限りを尽くした」



 ◆



「……へ?」


 闇の竜に、成った。破壊。言葉の意味が理解出来ず。

 気の抜けた声が口から漏れ出た。


「細かい部分は割愛して大まかに言おう、僅か数刻の内にシバの大森林と村を焼失させ、及びそれに隣合う領土の四割を消滅させた」


「は、え?」


 焼失、消滅。


 今ヘクトルが焼失したと言ったのはエリスの村だ。

 俺は確認する様に彼女の方を向くが、


「…………っ」


 彼女は辛そうな表情を浮かべてこちらを見つめていた。

 それは全てが本当の事だと言っているようで─────、


「更には獣人族と我々人間の国を遮っていた山脈が、丸ごと消し飛ばされた。幸い死者はいなかったが、これは国際問題に発展する程の事態だ、それによる被害は、」


「ちょ、ちょっと待った!!」


 淡々と続く話に耐えきれず、思わず遮ってしまう。


「さっきから、焼失とか消し飛ばしたとか!お、俺がそんな事出来るわけないし……!ひ、人違いでしょ?!」


 俺みたいな、ただの人間にそんな事は不可能だ。

 異世界転移で能力は手に入れたにしろ、そんな山を吹き飛ばしたり出来る物騒な能力では無い、多分。


「うむ、事実、お前の仕業では無いだろう。私はこの目で見たからな」


 何かを思い出す様にエリスは告げる。


「だ、だよな!?俺じゃないよな!」


「そう……カガヤ、お前ではなく……お前の体内の、別の存在の仕業だ」


 ─────俺の中の存在。


 身体の中で何かが蠢いた気がした。


「エリス、俺が()()()()()()見たのか?」


「それは……っ……」


 エリスは言葉を詰まらせ、それ以上詳細を語ろうとしない。いや、これは語れないのだろうか。


 沈黙するエリスに代わるように、ヘクトルが話を続ける。


「闇の竜の性質上、事の有様を口にする事が出来るのは一度奴本体に対面した事のある者だけだ。()()()()()()


「叔父上、その……アレは何なのですか」


 エリスの若干曖昧な問いかけに、彼は軽く溜息を吐くと玉座から立ち上がり、背後の大きな窓の側へと歩いてゆく。


「闇の竜。名を『デネブレシア』という。今から十年前に魔族が異世界から召喚した真竜種、最初に魔獣と呼ばれた怪物だ」


「デネ……うっ?!」


 その名前を口にしようとした瞬間。

 まるで見えない何かが俺の首を締めているみたいに、息が詰まり、言葉を発せなくなる。


(これが呪いか……かなり、キツいな)


 気味の悪い苦しさに首元を抑えていると、となりから驚愕の声が上がる。


「魔族?!遥か昔に魔法戦争の時、滅んだ筈では……」


 エリスだ。

 彼女は信じられないといった様子で一歩前に出る。


 魔族と言えば、書庫で彼女にスパルタ授業を受けた際に少し聞いた気がする。

 最初に賢者を生んだとかなんとか。


「否、奴らは滅んでなどいない。マグナを支配しようと永い間、隙を伺っていたのだ」


「それが十年前、実行に移されたと」


「左様。そして私は他の種族の賢者達と共に、どうにか魔族は討ち倒せたが、肝心のデネブレアは殺す事は叶わなかった。だから奴の心臓を十に切り分けて、それぞれの種族で封印する事にしたのだ」


「……封印って、まさか」


「セルティスの持っていた本は、その封印の一つだ。貴公はどうやってか、封印を解いてしまったらしいな」


「やっちまったぁ……」


 異世界で日本語で書いてある本など、今思えば怪しさ満点だったというのに─────、


「話は分かりました」


 項垂れる俺を他所にエリスは話を続ける。


「ですが叔父上、魔族が生きていてしかも、そんな事件を起こしたなど、初めて聞きました。賢者が集まる程の事態など、十年前とはいえ記録すら無いなど、ありえな……」


 彼女はそこまで言って気が付いた様に、口を抑えた。


「有り得るさ。直接見た者以外が、その事件を伝え聞き、知ったとしても言葉にする事も文字に起こす事も出来ないのだから」


 エリスの持っていた本に、闇の竜という抽象的な単語で書かれていたのはそれが理由だったのか。


「だが、良かったのかも分からぬ。語り継ぐ事が憚られる程の事件だったからな」


 ヘクトルは城下町を見つめながら、どこか寂しそうに話を続ける。


「だから、我々は内密に心臓をそれぞれの種族で封印する事にしたのだ。そして、それから何の問題も無くマグナに平穏な日々が訪れた。三年前まで、な」


「母様が死ぬまで……ですか」


「そうだ。最後の魔族ヴァジュラによって、な……。そして、事態は更に悪い方向に進んでいる」


 彼は窓から離れ、ゆっくりとこちらに戻ってくる。


「二日前、妖狐から()()()()の転移者を名乗る人間に、封印していた十番目の心臓が奪われたと報告があった」



 ◆



「「邪悪の樹!?」」


 声を揃えて驚愕する。

 カイツール、あの殺人鬼は自らをそう呼んでいた。


「二人とも、心当たりがあるようだな」


「いや、心当たりも何も……」


 チラリとエリスの方を見る。

 彼女は奴を思い出しているのか、表情を歪めている。


「村の人間を殺した男が、邪悪の樹を名乗っていました」


「……ふむ。どうやらヴァジュラは転移者を本格的に動かし始めたのか。デネブレシアの復活を目論んでいるのか、或いは別に目的があるのか……」


 ヘクトルは玉座に座り、考え込む様に頭を抑えた。


「叔父上。急いで邪悪の樹、ヴァジュラに奪われる前に心臓を確保しましょう!こちらにも転移者のカガヤが居ます!」


「お、俺?!」


「そうだ、お前の能力なら何があっても対応出来るだろう。あのカイツールにもな」


「いや〜……どうかな……」


 あの吸血鬼、カイツールは決して許せない。

 だが再びカイツールに相対した時勝てるか、と聞かれると微妙なのだけれど─────、


「ふむ、貴公に協力して貰えるなら……心強い限りだ」


「ならば早速行かせて下さい!私も行きます!」


 エリスはテンションが高めに提案する。

 その目には復讐の炎が灯っていた気がした。


「だが……駄目だ」


 しかし、その炎はヘクトルの言葉の風に吹き消された。


「な、何故です?!」


 勢いを失いつつも、彼女は前のめりに食いかかる。


「二番騎士隊を既に派遣しているからな。それよりも先に、()()()()()()()を解かねばならない」


「「もう一つの呪い?」」


 俺達が声を揃えたその時、背後からゴトンと扉が開いた音がした。


 振り返ると金色の髪を携えた騎士、ソレイユが扉の側に立っていた。


「ヘクトル王……()()()()()()()()


「失礼します、です」


 緊張に僅かに震えた声が聞こえた。

 ソレイユの後ろからひょこっと現れたのは、金色に輝く耳、フワフワとした尻尾。


 そしてこの場に似合わぬ色鮮やかな和服。


「こ、この度は、グレイズ魔法店をご利用頂きありがとうございます。妖狐のルナールと申します!どうぞよろしくお願い致します……です」


 なんとも愛らしい狐娘の姿が、そこにはあった。

時間の更新は20日の23時になります


*追記*

24時に延期します

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