第41話 『不明な経緯』
「私達は城の最上階に投獄されている」
─────投獄。
世間一般的には罪を犯した人間を牢に入れる事を意味する単語だ。
この豪華な部屋に投獄というのもおかしな話だが、それよりも─────、
「マジか、俺もう前科者?!」
頭を抱えて悲鳴にも似た声を上げる。
「そこを気にするか……」
エリスは呆れた様に溜息を吐くが、これは由々しき事態だ。
異世界に来て数日しか経っていないというのに、ハードモードの道をトントン拍子で進んでしまっている。
「なんでこんな事に、あ、そうか、俺が転移者だから捕まって……っていや、それだとエリスも一緒にいるのおかしいか?」
「うむ、転移者云々は関係無い。我々が捕まっているのはそれとは別件が原因だ」
「別件って?」
「それは……」
何かを言いかけてからの沈黙、突然エリスは腕を組んでそっぽを向いてしまった。
「あ、あれ?エリスさーん?」
彼女の前に回り込むが、反対方向にそっぽを向かれる。
何度かそれを繰り返してぐるぐるとお互いに回りあってしまう。
「……おーい」
埒が明かないので、軽く頬を突っいてみる。
「っ?!ぐむ」
僅かに驚いた声がしたが、再び口を噤むんで質問に答えてくれない。
さっきもいずれ分かるとか言っていたし、どうやら意地でも自分の口からは言いたくないらしい。
「「…………」」
しばらくの無言の睨み合いが続いたが─────、
「はぁ、分かったよ、言いたくないならいい」
俺はの方が折れて停戦協定を結ぶ事にした。無理に聞いて喧嘩に発展するのも大変そうだし。
「……そうしてくれると、助かる」
どこか安心した風に、エリスは優しい笑みを浮かべた。
その様子に少し見蕩れそうになる、それをエリスから隠すように話題を変える。
「で、でもさ、捕まった理由はともかくとして……投獄って言うなら地下牢とかが良い気がするけどな。こんな部屋くらいすぐに出て行けるだろ」
部屋の中を見やる。
改めて見ても、捕まった人間が入れられる場所では無い気がする。
「普通に扉もあるし、中に見張りもいないし……カーラさんみたいに空を飛ぶ魔法を使えば簡単に脱出できそうじゃん」
それこそ飛ばなくても、この世界の魔法なら高所から降りる方法なんていくらでも有りそうなものだが。
「それは……不可能だ」
だが、エリスは眼下の街を眺めながらそう断言した。
「そうだ。試しにちょっと外に向かって手を伸ばしてみろ」
そして何故か悪戯な笑みを浮かべるとバルコニーの先を指差す。
「─────」
めちゃくちゃ嫌な予感がする。
エリスは俺の手を掴むとグイグイと手すりの方に引っ張っていく。
「ほら、指先だけで大丈夫だから」
「い、嫌だって!絶対に何か起きるだろ!」
「安心しろ。腕が無くなるなんて事には……多分ならないさ」
「ほ、本当かよ……」
何ともふわふわした保証に疑念を抱きながら、バルコニーから手を伸ばす。
「ん?」
指先に何かがぶつかった気がして─────、
「うおわぁぁぁぁ!?」
尋常では無い突風が吹き、足が地面から離れる。俺はまるで正月に上げる凧の様に吹き飛ばされ、窓扉を通り、
「ぶっ?!」
キングサイズのベットに頭から突っ込んで停止した。
「これがこの国、ギルドバルトの王。《疾風の賢者》ヘクトルの風の結界魔法。扉を開けようとしても吹き飛ばされる」
エリスは窓扉を締めながら、壁を指で指し示す。
「試しに魔法で壁を壊そうともしたが、それも跳ね返されてしまった」
そこには無残に黒焦げになった絵画が掛けられていた。
「な、なるほど。これは逃げらんないわ……」
目を回しながら、どうにかこうにかベットの端に座り込む。この世界、マグナの魔法には逐一感心させられる。
(また賢者か……)
この世界に来てから、賢者の名前を誰かが口にする度に酷い目に遭ってばかりな気がする。
「あのロイドって奴も賢者だったんだよな?」
「……うむ」
「あいつがもう少し早く来てくれていれば、カイツールを倒して皆も─────、」
そこまで言いかけて、エリスの表情が暗くなった事に気が付く。
「……ごめん、余計な事言った」
「別に気にするな」
何処か辛そうに言うと彼女は俺の横に並ぶ様に座った。
「起こった事を否定した所で結果は変わらない。
─────あの時村に居た皆は、全員死んでいた」
「ッ……!」
エリスは、悲しそうにポツリと告げた。
身体から剣が飛び出し死んだフィルと、切り刻まれ肉の塊と化していった村人達の姿を思い出す。
「それにセバスは行方不明。カーラとレイスも、連絡が取れないんだ」
「そんな……」
どういう事なのか。カーラとレイスはもちろん。セバスは負傷していたが無事だったはずだ。
俺が刺された後にまた何かが起きたのだろうか。
「ロイドか?!あいつに襲われたのか?」
もしかしたら俺が転移者というのを知っていたのかも知れない。そして、俺に関わったセバス達を襲った。
(きっとそうだ。俺の能力ならどうにか出来たかもしれないのに─────)
しかし、エリスは首を横に振る。
「そうでは、無いんだ」
「違う、のか?じゃあ、何が?」
「……言えない」
「そこで、言えないか」
いよいよ分からなくなってきた。カイツールでも無くて、ロイドでも無い。じゃあ一体誰が何をしたのだろうか。
「おはようございます」
その時背後にある部屋の扉から、どこかで聞いた事のある挨拶が聞こえた。
「どうやら、目が覚めた様ですね」
振り返ると、金色の長い髪を携え鎧を身に纏った、美しい女の人が立っていた。
「来たか、ソレイユ」
「えっ、ソレイユさん?この人が……」
前回会った時は兜を付けていて顔が見えなかったが、まさかこんな美人だったとは─────、
ソレイユは、俺を見ると何故か表情を暗くして目を逸らした。
「エリス様。そして、賢者カガヤ様
王が直接お話をしたいとの事で、お迎えに上がりました」