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第21話 『休息』

 

 すっかり日も沈み、辺りを闇が包み込んだ頃。俺とエリスはニクスに乗って屋敷への帰路に着いていた。


「はあ……奴等に変な勘違いをされてしまったな」


 走鳥の手綱を握るエリスは溜息混じりに告げる。


「ま、まあまあ!ライアンとフィルが無事だった事を祝おうぜ」


「それもそうだな……」


 傍から見たらイチャついてると思われても遜色無い場面を目撃された事で、エリスはかなり落ち込んでいる。

 俺的には問題無いのだけれど、エリスは耳まで真っ赤にしている辺りかなり怒っているのだろう。


「しかしまあ、ライアンの傷があんまり酷くなくて安心したよ」


「そうだな。ただ出血が著しいから当面は安静だそうだが、とにかく良かった。フィルも無事だったのも運が良い」


「ああ─────」


 同じくウェアウルフに襲われたフィルについてはハイルマン曰く、多少の打撲だけで命に別状も無かったらしい。


 エリスの言うとおり、運が良かったといえば、良かったのだろう。


 だが、かなりの巨漢であるライアンを軽くあしらう程の力を持つウェアウルフに襲われて打撲だけなのは、流石におかしい気がする。


 今まで憶測の域を出なかった、


『魔狼が俺を誘き出す為にわざと村人を襲撃した』


 という説が有力になってきた。


 もしそれが真実だったならば、空恐ろしい話だ。

 俺は自らに迫っていた危機に今更ながら身体を震わせる。


「お、おい!?微妙に揺れるんじゃない!」


 腰に手を回し、密着した状態の俺がカタカタと震えたせいでエリスの握る手網が揺れ、更にはニクスの軌道まで揺らめく。


「おわっ……!」


 ぐらりと揺れた勢いで、横に倒れそうになる。


「世話の焼ける奴だな!」


 エリスの伸ばした手に掴まって、どうにか事なきを得た。


「サ、サンキュー、助かった」


「まったく、気を付けろ。魔獣と戦って助かったというのに、落鳥して死ぬなど馬鹿のすることだぞ!」


「す、すみませんでした……」


 ぐうの音も出ない言葉に平身低頭になってしまう。

 激怒したエリスは、ウェアウルフより怖いな─────、


「ふぅ……とりあえず、今日はゆっくり休もう。また明日二人を見舞いに行くぞ」


 エリスが明日予定を立てたと同時に、小さい鳴き声を上げてニクスが足を止めた。

 何事かと目を向けると、そこには侵入者を拒む巨大な門がそびえ立っていた。


 辺りを夜闇が覆っていて、その全貌を確認出来ないが、エリスの屋敷に着いたのだという事はすぐに理解出来た。


「帰ったぞ!」


 エリスの声に反応して門が大きな音を立てて開いてゆく。そして門が開ききると、夜闇の中でランタンの様な物を持った白いメイドが姿を現した。


「おかえりなさいませ〜、エリスお嬢様〜」


 眠くなるようなのんびりとした口調で喋るそのメイドは、ゆっくりとお辞儀をする。


 彼女はカーラという名前で、初めに屋敷から出た際にも門を開けてくれたのは記憶に新しい。


「カガヤさんも、ご苦労様でした〜」


「あ、ああ。ありがとうございます……」


 セバスから俺が魔獣を倒したという話でも聞いたのだろうか、俺は労いの言葉に困惑してしまった。


「ウェアウルフを倒すなんて凄いです凄いです〜、良かったらお話色々聞かせて下さい〜!」


 カーラは興味津々とでも言う様に、目を輝かせている。

 正直悪い気はしない、いや、むしろ尊敬を向けられて心地よくもある。


(チート能力でハーレムとか、ありえるな……)


【加賀屋様のコミュニケーション能力では、不可能だと予測されます】


(変な所で出てこないでくれるかな?ってか、酷くない?!)


 脳内に響くアイの残酷な予測に抗議しながら、魔狼を倒した話をカーラにしようと口を開いた。


 しかし─────、


「カガヤは忙しいんだ、また後で話を聞け」


 エリスが、まるで取材を拒否する敏腕マネージャーさながらにキッパリと告げる。


「そんな〜……」


「お前にはまだ仕事が残っているだろう、それを終わらせてからにするんだな」


「む〜、分かりました。じゃあカガヤさん。また後で〜」


 カーラは不貞腐れながらも手を振って、俺達を見送った。俺はそれに返事をする様に軽く手を振り返す。


「ちょっとくらい良いんじゃないの?」


「駄目だ駄目だ!そのちょっとした話でお前が転移者だという事がバレてしまうかもしれないんだぞ」


「う。まあ、それは有り得るけど」


「そうだろう。だから無闇矢鱈にお前の経歴や、能力の話をするんじゃないぞ!」


「り、了解……まあ確かに、俺とお前だけの秘密がバレちゃうのは嫌だよな」


「そ、そんなんじゃない!!それに私とお前意外にもセバスも知ってるし……ええい!早く下りろ!」


 エリスはなにやら憤慨した様子で、玄関横の柵に囲まれた所謂停留場前で俺をニクスから降りるように促す。


「はいはい」


 憤慨した勢いで魔法を打ち込まれる前に、指示に従ってニクスから降りる。


「まったく、本当にお前は……」


 彼女はぶつくさと文句を言いながら柵の中でニクスから降りると、その頭を一度撫でてから柵の扉を閉めた。


「早く行くぞ。私たちを夕食が待っている」


 彼女は僅かに顔を赤くしながら、玄関を開いた。



 ◆



「おお……」


 俺は机の上に並んだ豪勢な料理に目を奪われていた。

 初めて見る物も多いが、元の世界で見た事がある造形の料理もある。


 味が同じかは定かではないが─────、


「さ、では頂くとしよう」


「あ、ああ……いただきます」


 エリスが食べ始めたのを見て、俺は何かのステーキの様な料理を恐る恐る頬張った。


「うまっ……!」


 勢いそのままに、一口、二口頬張ってしまう。


「ありがとうございます、そう言って頂けると我々も腕を奮った甲斐があります」


 机の横に立つセバスはそう言ってお辞儀をする。その隣には黒いメイドと白いメイドが揃って並んでいた。


 それだけならば普通なのだが、黒い方の銀髪のメイドは俺と目が合うと、ただじっとこちらを見つめて来た。


「─────、」


 視線が痛い。

 どうにも落ち着かないので、隣の白い方のメイドのカーラに視線を移す。彼女はその視線に気が付いたようで小さく手を振ってきた。


「カーラ」


 低い声でエリスに名前を呼ばれ、カーラは「ハッ!」と声を上げると、気を付けの姿勢になって固まった。


「やれやれ……どころでセバス、グレイズから伝令鳥は返ってきたか?」


「いえ、まだ返って来てません」


「アイツめ……どうせ暇な癖に返事が遅い!仕方ない……カガヤ、暫くの間屋敷で過ごしてもらうぞ。いいな!」


 エリスは俺を指差した。


「え……んぐっ?!ゲホッ、ゲホッ!」


 いきなりの呼び掛けに、食べていた料理を変に飲み込んでしまい咳き込んでしまう。


 行く宛も無い俺としては有難い限りで、何ならばこんな豪邸だ。いつまでも過ごしていたいくらいだ。


「お、俺はいいけど……」


 刺すような視線の弾丸が、俺に容赦なく撃ち込まれている。射手は隣にいる黒い服のメイドだ。


「安心しろ、レイス。彼は信頼出来る人間だ」


 レイスと呼ばれた彼女は、その言葉に目を細めた。


「……お嬢様がそう言うのでしたら」


 彼女はもう話す事は無い、といったふうに目を瞑った。

 フッと視線が消えた、肩が軽くなった気がする


「レイスは心配性なんだよ〜。それはそうと、カガヤさ〜ん!さっきの話なんですけど〜」


 カーラは嬉しそうに駆け寄って来ると俺の肩に手を乗せる。また違った意味で再び肩が重くなった。


「おい、カーラ!何をして……」


「後でならお話してもいいって言ってたじゃ無いですか〜!久しぶりのお客様だし、私だってカガヤさんと仲良くしたいです〜」


「カガヤは今日は疲れているんだ、また今度にしろ」


「なんですかそれ〜!あ、もしかしてお嬢様……ヤキモチ焼いてるんですか〜?」


「なっ?!ち、違うわ!この馬鹿!」


「あ〜!?馬鹿って言った方が馬鹿なんですよ〜!!」


 何やらとても面倒臭そうな言い争いが始まった。

 売り言葉に買い言葉、何とも不毛な舌戦が繰り広げられる。


 ちなみにカーラが言葉を発する度、後頭部に何か柔らかい物が当たるのだけれど、今はあまり触れないでおこう。


「はぁ、はぁ、カーラ……」


「ふぅ、ふぅ、お嬢様……」


 じっと二人は見つめ合ったかと思うと、ツカツカとお互いに近付いて行く。


「「ここは魔法で!」」


「勝負だ!」

「勝負です!」


 彼女達は息を揃えて、食堂から出ていった。

 暫くの沈黙の後、ゆっくりとセバスが口を開いた。


「カガヤ様、湯浴みの準備が出来ています。お入りになりますか」


「……そうします」


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