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第12話 『共同戦線』

 

「この森に紛れ込んだ魔獣について……話をしよう」


 神妙な表情でエリスはそう言った。


「魔獣ねぇ、早速嫌な話だな」


 ハイルマンはマッチで煙草に火をつけ直しながら、忌々しげに呟く。


「伝令鳥で現れたって話は聞いてたけどね……どんな形の魔獣だったんだい?」


「狼の魔獣、ウェアウルフ。しかもかなり好戦的な個体だった」


「ウェアウルフ……ってなると()()か、厄介だねえ。今の所は見張りから知らせは無いけど……、まったく何処から湧いたんだか」


 ダリアはうんざりした様子で頭をガシガシと掻いた。


「王都にも救援の要請をしたんだが、連絡は来たか?」


「うーん、来たには来たけどね……」


 彼女は机の上に置いてある手紙をエリスに手渡した。

 それを見たエリスの表情は徐々に険しい物になっていく。


「王都を巨人の魔獣の大軍が襲撃、すぐに救援は送れない……か……」


「巨人……?」


 あの広場で見た黒い巨人の事だろうか。あんな物が大軍で攻めて来たというのなら、王都という場所は絶対絶命なのではないだろうか。

 切迫した手紙の内容に、俺は息を呑んだ。


「それって、ヤバくないか?」


「いや……まあ、王都は問題無いだろう」


「あ、あれ?そうなの?」


「ん?うむ」


 しかし、エリスは案外平然とした様子だ。

 巨人の大軍が進撃してきたなんて、漫画によっては最終回を迎えそうな内容なんだけれど。


「何方かと言えば、この森にウェアウルフが野放しになっている方が問題だな」


「そうだねぇ。村人達や旅人達の被害が出る前に、どうにか─────」


 その時、不意に扉が開き、慌てた様子で男が部屋に入ってきた。


「村長、た、大変です!!」


 その尋常ではない様子に、皆何事かと困惑する。


「どうしたんだい、そんなに慌てて……」


「も、門番のフィルが、魔獣に襲われた!」


「なんだと?!」


 エリスが声を上げる。

 俺もこの村に来た際に顔を合わせた、しかし門番の彼が襲われたとなると、魔獣は既に村に─────、


「魔獣はどうなった?!」


 ダリアはそう言いながら焦った様子で身支度を始める。


「ひとまずは森に逃げて行きました、でもフィルの怪我が酷くて、すぐに処置しなければ……」


「分かった!ハイルマン、すぐに向かうよ。エリスとカガヤはここで待ってな」


「了解だ。そんじゃあカガヤの坊主、安静にな」


「あ、ああ……はい」


 ハイルマンは満足そうに笑うと、颯爽とダリアと共に部屋から出て行った。


 俺とエリスは二人、部屋の中に取り残された。


 しばしの沈黙の後、俺は椅子に腰掛けて自分の中に渦巻く考えをエリスに向かって投げかける。


「なあ、エリス」


「なんだ?」


「フィルを襲ったっていう魔獣は、森の中で見たのと同じ奴だよな」


「……恐らくな」


「あいつは多分、俺を追ってきたんだ」


「……」


「俺がこの場所に来たから」


「おい」


「この世界に来たから」


「カガヤ」


「俺のせいで……」



 いつもそうだ、俺が余計な事をして、だから()()も─────、




「うるっさいわ!!」




「痛ったぁああああ?!」


 再び、エリスの蹴りが俺のスネに炸裂した。

 いよいよポッキリ骨が折られてしまうのでは無かろうか、俺は突然の暴力行為に抗議の声を上げた。


「な、何すんだよ?!」


「うじうじとうるさい!それにお前は、少し思い違いをしている!」


「お、思い違い?」


「そうだ」


 エリスは、椅子に座る俺の目の高さに合わせる様に屈んだ。


「このマグナではな、魔獣の被害なんて日常茶飯事だ。だから武器も当然の様に売っているし、魔法で戦う事が出来るように訓練している人もいる、私みたいにな」


「それは……どういう」


 いまいち話を飲み込めていない様子の俺に、彼女は少し照れ臭そうに顔を逸らした。


「だから……まあその、つまりだな……私が言いたいのは。お前が変に抱え込む必要はまったくないという事だ!」


「……!」


「この村の人間も、魔獣に襲われる事はコレが初めてでは無い!それを自分のせいなどと……少し自意識過剰だぞ、まったく!」


 微かに頬を膨らませるエリスは、まるで諭すように言った。彼女はわざわざ怒ってくれた、稚拙な考えを持つ俺に叱咤激励をしてくれたのだ。


 それに、何故だか救われた気がして、


「カガヤ?!」


「あ、あれ?」


 慌てふためくエリスの姿がボヤけている。


「す、すまん!思いっきり蹴りすぎたか?!泣くな泣くな!」


 俺は気が付くと涙を流していた。

 でも痛みとか、辛いとか、そういう感情は湧いてこない。


 ただ─────、


「エリス」


「な、なんだ?」


「マジで、ありがとうな」


 目の前の少女に、感謝の言葉を伝えたくなった。


「いやいや、べ、別に私は……そんなつもりじゃ……!」


 顔を真っ赤にして、慌てふためいた様子のエリスに少し笑い。頭を撫でる。


「は、はは……可愛いなお前」


「かわっ?!というか撫で……まあ、いいか……」


 複雑な表情をしながらも、エリスはしばらくされるがままに俺に撫でられていた。



 ◆



「……もう落ち着いたか?」


 気が付くと俺の膝の上に座っていたエリスが、チラリと振り向く。


「ああ、落ち着いた。生まれ変わった気分だ」


「そうか、なら私も撫でられた甲斐があったというものだ」


 そう言って俺の膝から降りた彼女は、置いてある鞄を持ち、荷物をまとめ始めた。


「あれ、どっか行くのか?」


「ああ、ダリアは待っていろと言ったがな。村人に被害が出た以上……椅子に座って大人しくしていられるほど、私は行儀よく無いからな」


「……もしかして」


 嫌な予感。しかもこういう時にこそ、必ず予感は的中するもので─────、



「決まっている。魔獣を倒すぞ、今すぐにな」



 的中も的中、ど真ん中を射抜いていた。


「は、ははは。面白い冗談……」


 金色に輝くエリスの目がギラリと鋭くなり、俺は身震いした


「じゃあ無いみたいですね」


「うむ!真面目も真面目、大真面目だ。それではカガヤ、お前にも手伝ってもらうぞ」


「俺も?!」


「嫌か?」


「嫌っ、つーか……出来ることなら手伝いたいけど俺は魔法も使えないし……」


「魔法は、な?」


 エリスはニヤリと笑みを浮かべた。

 その笑みを見て、俺は自分が得た力の事を思い出した。


「ライアンを押さえ込んだ時、お前は何か……魔法とは違う術を使ったのだろう」


「……見てたのか」


「うむ、しっかりとな」


 自信満々にエリスは胸を張る。どうやら嘘をついて誤魔化す事は出来なさそうだ。

 観念して、自分の能力の浅い知識を披露する。


「確かに、俺は『救済行為』ってのをして手に入れた能力があるみたいなんだ」


「救済行為?まあともかく、その能力があの森の魔獣とライアンにした攻撃の正体か。だが、ある()()()……とは何ともあやふやだな?」


「まあな、っていうのも……この世界に来てから手に入れた能力みたいでさ。俺もよく分かんないんだよな」


「ほう……」


 エリスは腕を組み考える素振りをすると、何かを思い付いた様に指を立てた。


「その能力、救済行為で手に入れた力は……例えば何があるんだ?」


「うーんと、今の所……『反射装甲』と『無力化』を入手ってのは聞いたな」


「……聞いた?」


「ああ、頭の中に声が聞こえてさ……」


「こ、声か……なるほど」


 自分でも、かなり馬鹿馬鹿しい事を言っている様に思える。流石のエリスも何処か困惑した様子で─────、


「うむ、お前の能力については分かった。では、早速魔獣を倒しに行くぞ」


 エリスは力強く頷くと、部屋から出ようとする。


「ち、ちょっと待て待て!」


「どうした?また別の能力があるのか?」


「い、いいのかよ?俺が適当な事言ってたらどうすんだよ、我ながら結構怪しい説明だったぞ?!」


「そうか?私は特に気にならなかったがな、それに─────」


 彼女は言葉を詰まらせた後、少し目を逸らして僅かに顔を赤くした。


「お前は私を、その力を使って森で助けてくれただろう?それだけ十分だ、私はお前を信じるよ」


 真っ直ぐと俺の目を見て告げるエリスに、一際強く心臓が高鳴った。


「はは……マジで惚れそう」


「惚れ?!ま、またお前はそういう事を……」


「いや、割と本気で」


「は?!う、その……い、今はそれどころじゃ無いだろう!」


「あ、そ、それもそうだな。悪い悪い」


「……まったく」


 少し盛り上がり過ぎたみたいだ。

 エリスは少し溜息を吐いて、鞄から紙を一枚取り出すと何かを書き始めた。


「ん、何書いてんだ?」


「セバスに手紙をな。奴にも協力してもらう」


「なるほどな……じゃあ俺と、エリス、セバスさんの三人の共同戦線って訳か」


「いいや、違う。()()()()加えた、四人の共同戦線だ」


 エリスは、少し悪戯な笑みを浮かべた。

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