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鍋の錬金術師

 遊びに行こうとはしゃいでるときに、家の玄関でコケて擦り傷ができた私を、お父さんは我が家で一番大きな部屋である研究室に連れて行った。


「いいかい、アティ。こうやってポーションは作るんだよ」


 お父さんは私を膝に乗せ、特製のポーションを作ろうとしてくれた。


 そんなお父さんの優しい声で、私の前世の記憶は蘇った。

 この世界は私がやっていたゲームによく似てる。というかこの世界は、ファンタジーの世界ってこんなだよねー、って例え話に使われる世界そっくりなのだ。


 お父さんは水がたくさん入った瓶に、薬草を入れる。そして蓋を締め、何か呪文を唱えた。呪文に反応するように瓶の中身が光ったあと、コップに中身を移した。


「さあ、飲んでご覧? そんな傷、すぐに治るよ」


 私はポーションってどんな味なんだろうと恐る恐る飲んでみた。


「……おいしい」


 声がポツリとこぼれてしまうぐらい、おいしかった。うーん、この味はスポーツ飲料水に似ている。

 怪我をしたところを見ると、元々、擦り傷なんてなかったように、怪我は治っていた。


「お父さんがアティのために思いを込めて作ったんだ。美味しいに決まっているだろう」


 そしてお父さんは私を抱っこで持ち上げた。6歳の体はもう重たいだろうけど、お父さんはよく私を抱っこしてくれるのだ。


「さあ、アティ、遊んでおいで」


 そして私はお父さんに玄関まで送ってもらった。


「ありがとう、お父さん。行ってきます」


 お父さんに挨拶をしたあと、私はママゴトセットが置いてある庭に向かった。


 これがファンタジーの世界なら、私にも魔法が使えるんじゃない!?




「魔法が! 使えない!」


 私は自分の無力さにがっくりと膝をついた。

 思いつく限りの呪文を唱えてみたが、魔法は一つも発動しなかった。


 町に出たときにときどき見かける、ローブを(まと)っている杖を持った人は、恐らく魔法使いだと考えた私は、自分も魔法を使えないかと試してみた。

 しかし残念なことに、私に魔法の才能はなかったみたいだ。


 もしくはこの世界は、ゲームのようなファンタジー世界だけど、どのゲームでもない世界なのかも知れない。だから、どの呪文も該当しなかったという線もある。


「なら、お父さんみたいに錬金術……錬金術であってるのかな? まあ、ポーション作ってみよ」


 私はママゴトセットの鍋をとり、井戸に向かった。そして鍋に水をつぎ、薬草畑に生えてある薬草を1本ちょうだいする。

 普段から机として使っている切り株に鍋を置き、お玉で混ぜる。


 ……何も反応が起こらない。


「あ、呪文だ」


 お父さんは何か呪文を言っていたことを思い出す。その言葉は、私が知っている外国語ではなかったことは確かだ。

 というか、ファンタジー世界らしく私が今しゃべっている言語は日本語ではないかも知れない。勝手に脳が処理してくれているのだろう、と考えることにする。


 まずはポーションを作ろう!


「とりあえず、適当になんか言ってみよ!」


 そしてまたお玉でグルグルと鍋を混ぜながら、思いつく呪文を言おうとした。


「美味しくて、効果がすごいポーションができますように!」


 すると、鍋の中身が蒼い光を放った。


「私、まだ呪文、言ってないのにぃぃぃ!」


 すごい勿体無いことをしている気分だった。ファンタジーの世界なら呪文は必須事項でしょ!?


「アティ、この光はなんだい!?」


 お父さんが私のもとに駆け寄ってきてくれた。


 そのお父さんの胸に飛び込み、私は勝手に溢れる涙をボロボロと流した。これは身体に引きずられているのかも知れない。

 前世があるということ、ゲームをやっていたことは思い出せたのに、それ以外は思い出せないし、子供みたいな行動を勝手に取ってしまうのだ。


「鍋が光ったの! お父さんみたいにポーションを作りたかっただけなのに!」


 お父さんを見上げると、お父さんはにっこりと仕方ないなと笑ってくれた。


「お父さんみたいにやりたかったのか。じゃあ、アティが作ったポーションを見せてもらおうかな」


 私の目線と合わせるためにしゃがんでくれたお父さんと一緒に鍋を見る。


「鑑定」


 お父さんがそう言うと、RPGのステータス画面のようなポップが鍋の隣に現れる。


『ポーション

  等級:SS

  属性:水、土

  効果:HP大回復、MP大回復、状態異常回復

  付与:美味しい、ほのかな甘み、士気向上』


 なんだかすごそうなものができてしまった! やったー!


「すごいじゃないか、アティ! お前はお父さんの誇りだよ!」


 そしてお父さんは私を高い高いしてくれた。

 それが嬉しくて笑顔があふれ、歓喜の悲鳴を上げた。




 これが鍋の錬金術師と呼ばれるようになった私の初めての錬金術だ。

 お父さんに天才だと褒められ、天にも昇る気持ちになった私は、翌年、お父さんに勧められるがまま王都にある魔法学校の門を叩いたのだった。


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