第7話 夏の終わりの出来事
夏休みも終わろうとしていたある日、三咲と詩織は夏休みの宿題の絵を描きに、裏山の展望台へ行く約束をしていた。
学校の裏山にある展望台は山ノ神村地区と川野新町地区を見渡せる絶好の場所だった。
展望台までの山道は山ノ神村側と川野新町側それぞれに入口があるため、2人は展望台を待ち合わせ場所にしていたのだが……
三咲が山道を登ろうとした際に、通りすがりのお爺さんから声をかけられる。
「お嬢ちゃん、これから山道に入るのか? 山の上から白い雲が降りてきているだろう、そんなときは天気が悪くなるからやめておきなさい」
「えっ、でも友達と約束しているから……」
「その友達は先に山を登ったのかい?」
そう言われて、三咲は時計を確かめる。
(待ち合わせ時間までには余裕がある…… 急いで山ノ神村側の入口へ向かえば詩織ちゃんが登り始める前に合流できるかもれいない!)
三咲の決断は早かった。
お絵かきセット一式を近くのバス停のベンチ下に置き、身軽な体で走った。
15分後、山ノ神村側の山道入口に到着。
山の斜面を見る限り、人影は見当たらなかった。
「詩織ちゃんはまだ来ていない。間に合った!」
三咲は途中で合流できることを信じ、下賀美神社方面へ歩いた。
しかし……
2人は出会うことなく、彼女は下賀美神社の境内に到着した。
すぐに社務所に向かい、詩織の父に事の経緯を話す。
詩織は三咲の予想よりも前にここを出ていた。
「じゃあ、詩織ちゃんはもう展望台に……」
三咲は山の方角の空を見上げる。
黒い怪しげな雲が空を覆い、ぽつぽつと大粒の雨が降り出していた。
詩織の父は社務所内を忙しく駆け回り、消防団らしき地元の人達に連絡を取っていた。
「危ないから、君はここで休んでいなさい。何か困ったことがあれば奥に病気の妻が休んでいるから声をかけなさい」と言い残して、雨合羽を着込んで出て行った。
雷を伴う大雨が社務所の屋根を激しく叩く。
この雨の中、詩織はどうしているのだろう。
仮に三咲が一緒にいたところでこの大雨は回避できない。
それは分かっているが……
せめて2人で寄り添って震えることはできたのに……
独りでいる寂しさや不安を三咲は充分に理解していた。
詩織を独りにしてしまった罪悪感。
なんとかしてあげたい。
自分にできることはないのだろうか。
その時、ふと脳裏に浮かんだのは、桜木翔太の意地悪な顔だった。