第6話 回想
「不幸な出来事が重なったのは、悪い物が憑いていたからでしょう。これで当分の間は大丈夫だと思います」
詩織はニコリと微笑む。
佐々木のお婆さんは何度も頭を下げながら帰って行った。
それを見届けた途端に詩織は力尽き、翔太が体を支えた。
境内は地元の人々によって管理が行き届いている。
参拝者が休めるように所々に切り株を利用したベンチも作られている。
翔太はその簡易ベンチに詩織を座らせ、しばらく休ませることにした。
お払いの儀は激しい動作をするわけではないのだか、精神的に疲れているのだろう。
「ふうーっ」
詩織は息をはき、軽く目を閉じた。
イチョウの芽生えたばかりの葉が風にゆられてざわついている。
空には夕焼け雲が浮かんでいる。
春の空から夏の空へと移り変りつつあった。
翔太はぽっかりと浮かんだ雲を見上げ、ふと小学校時代のことを回想し始めた――――
彼は物心ついた頃から物の怪の姿が視えていた。それが『ふつう』でないことを小学校へ入学してから知ることになる。周りの仲間からは気味悪がられた。自分を特別視されることを怖れた彼は物の怪との関わりを捨てることにした。
腕力が強く身のこなしに自信のある彼は、間もなくガキ大将的な地位に登りつめる。自分の思うように周りの人間を動かせる。それが彼にとっては快感であった。「人間は物の怪よりもチョロいぜ!」 それが当時の口癖だった。
同じ学年に下賀美神社の宮司の娘、神崎詩織がいた。山ノ神村地区において下賀美神社は精神的な支柱である。その神社の一人娘というだけで詩織は特別扱いされていた。
翔太が怖れた『特別視』を彼女は逃げることなく受け入れている。そんな詩織を見るたびに、自分の弱さを見透かされているような気になる。
だから彼は詩織をいじめるようになった。自分の弱さを認めたくなかったのだ。後ろから背中をパンッと叩いたり、ランドセルのフタをがばっと空けたり…… そういった分かりやすい意地悪だったのだが、詩織の困った顔をみると気分が晴れた。
詩織には大空三咲という川野新町地区に住む親友がいた。三咲は身長も高く気が強いため、詩織が1人でいるときを狙って意地悪をした
大空三咲は機転の利く女だ。詩織がいじめを受けていると気付くとすぐに2人で過ごす時間を増やしていく。そして翔太に「ふふっ……」と勝ち誇ったように笑いかける。翔太はそれが悔しくて、今度は三咲に狙いを付けようとも考えたがそれは思いとどまった。
3人の関係に転機が訪れたのはそれから2年後の、小学3年生の夏休みの終わりだった――――