第3話 帰り道
放課後の教室で、桜木翔太は帰り支度を済ませ、詩織の様子をうかがっていた。
彼女はあれ以来口をきいてくれない。
きっと自分がまた喧嘩をしたことに怒っているんだろう……
彼はそう考えていた。
翔太は意を決して詩織に声をかける。
「今日は園芸部の活動はないんだろ? 帰ろうぜ」
「…………」
詩織からの返答はなかった。
無言の圧力に屈した翔太は、
「ごめん、もう暴力を振るわないから!」
と言い、深く頭を下げた。
詩織はその姿を見て、自分の態度の至らなさに気付く。
自分を守ろうとしてくれた翔太に頭を下げさせている……
しかしここですぐに許したらまた同じことの繰り返しになるだろう。
そうなると困るのは彼自身だ。
「翔太が思っているほど弱くないから私……」
「でもお前すぐ泣くだろ?」
「うっ…… も、もう泣かないから。悪口言われたって我慢するから」
「悪口言われて我慢する必要があるか? 力でねじ伏せてやればいい!」
桜木翔太という男は、身体は小さいくせに力は強い。すばしっこさもある。同学年で喧嘩で彼に敵う者はいなかった。
「でも暴力はだめだから、もう喧嘩はしないと約束して!」
「……わかった」
「ほ、本当に?」
「うん…… わかった!」
あっさりと彼との約束を取り付けることに成功した。
詩織は思わず感動の涙を流しそうになるが堪えた。
いそいそとバッグのチャックを閉め、
「じゃ、帰ろう!」
笑顔でそう言った。
学校の門を出ると、幅6メートルの片側一車線の県道が走っている。
右へ行くと比較的開けている旧川野新町、つまり山ノ神新町の中心部がある。
反対の左側は旧山ノ神村地区に通じている。
詩織と翔太は共に旧山ノ神村の住人である。
県道を30分も下ると辺りは田んぼ一色の風景に変わる。
2人は県道から農道に入る。
山ノ神村地区はコメ栽培が盛んで、住民の多くは農業で生計を立てている。
今の時期は田植え前の水を引いたり、苗の準備をしたりで大忙しである。
あちらこちらで農作業や休憩中の農民に出会う。
彼らは皆、詩織の姿を見るなり深々と頭を下げた。
それに合わせて詩織も丁寧に頭を下げる。
農道を抜けて、雑木林の入口にさしかかる。
右へ曲がり、10分程歩くと翔太の家に着くのだが……
「今日も勉強会する? 英語の単語プリントの宿題出ているし……」
詩織が上目遣いで誘った。
翔太は少し迷ったふりをしてから、
「俺1人じゃ絶対やる気にならないからな…… 行く!」
と、恥ずかしそうに答えた。
小学生の頃は当たり前のように一緒に遊んでいたのだが…… 最近は少し互いを異性として意識し始めている、思春期真っ只中の二人である。