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転生・殺人・幻想の現実  作者: 亡霊
序章 始まり、終わらせ、物語は始まる
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第3話 魔導師の質問に、転生者は水を差す。

  「さて、お前さ……最後の弟子なのじゃし名で呼ぶか。レイス・リライトよ、神は存在すると思うか?」


  グリモアール先生の講義は、そんな言葉から始まった。

  教える側なのに初っ端から質問なのか…とか、そもそも何だその質問は?とか、思うことはいろいろあるが、俺は一番気になったことを口にする。


  「なあ、俺の名前って中村正哉なんだけど」


  そう、俺の名前はレイス・リライトなんていう、かっこい……変な名前ではない。そんな厨ニ病が脳内で使っているような名前で呼ばれたら、自分の痛さに悶絶してしまう。

  確か、転生してすぐにも俺の名前を間違えていたが、あの時は名前なんて気にしている余裕はなかった。

   

  「なんじゃと、確かにこの書にはレイス・リライトと書いてあるのじゃが」


  俺の指摘に、グリモアール先生はそう言って、手帳のようなもの空中から取り出した。

  普通なら手帳を取り出した魔法に驚くところだが、俺が驚いたのは手帳のほうだった。


  「おい、その手帳どこで手に入れたんだ……」


  表紙に茨で包まれたリアルな心臓が描かれている、その手帳は……


  「これか、これはお前さんの世界にわしが落とした魔導書じゃよ。これにお前さんが名を刻んだから、わしはお前さんを召喚できたんじゃ。ほれ、ここに書いてあろう、レイス・リライトと」


  ああ、確かに俺はこの魔導書に名を書いた……書いてしまっていた。

   

  いつの間にか部屋にあったあの魔導書(昔は手帳として使っていた)に俺は、日記のようなものを書いていた。

  そう、日記のようなものだ。思春期真っ只中だったあの時の俺は、あのかっこいいデザインの手帳に、日常の出来事をかなり痛ーい感じに書いていた。例えば……いや、止めよう。名前を✝レイス・リライト✝としている時点で察してほしい。


  「この魔導書は所有者――名を刻んだ者――の魂を記憶するんじゃ。そして、記憶を終えたらわしの元に帰ってくるようになっておる。」


  通りで探しても見つからなかったわけだ。無くしたと気付いたときは、三日三晩探し回り、誰かに拾われて中身を見られたらどうしよう、と思っていたものである。

  ……偽名で書いていたことを四日後に思いだしたので、その後は一切探さなかった。

  そのせいか、今の今まで書いていた黒歴史とともに、手帳のこともすっかり忘れていた。


  「その魔導書に名を刻んだから、俺はこの世界に転生できたのか……」


  それなら、思春期の黒歴史を人に見られても、十分お釣りがくる。


  「正確には、お前さんの魂がこの世界に来たんじゃ。普通、肉体から解き放たれた――死んだ――魂は、天へと昇っていくのじゃが、この書に記憶された魂は、天へは行かず、この魔導書に宿るのじゃ。あとは、魂の記憶をもとに、わしが予め創っておいた肉体に、本の中の魂を移し替えれば、転生者であり、わしの最高傑作であるレイス・リライトの完成じゃ」


  そんな、「ね、簡単でしょう?」なんて感じで言われても困る。というか、この体って魔法で創られたのか……道理で体が軽いわけだ。いや、三十代からいきなり若返ったら、そりゃ体も軽くなるか。

  魔法の力ってすげー、と思っている俺に対し、グリモアール先生の説明はまだ続く。


  「肉体は、ただ血と、肉と、骨を組み合わせるだけじゃから、難しくともできんことはない。じゃが、吹き込む魂だけは分析が困難で、創り出すことができんかった。じゃから、この魔導書で魂をゲットしたんじゃ。そもそも、この魔導書を創る際にも……」


  俺は、自分の世界に突入したグリモアール先生を完全に無視して、体の感触を再確認した……うん、わからん。

  まあ、少なくとも違和感はない。いや、肩こりや倦怠感が無くなって、とても快適に感じる。若さって素晴らしい。

   

  「というわけでじゃな、この魔法は奇跡的に成功した、いや奇跡そのものなのじゃよ!……わかったかのう?」


  「ん?ああ、よくわかったよ(話が終わったのが)」


   

  「さて、話が逸れたな……そうじゃ、結局お前さんの本当の名は、何というんじゃ」


  良く覚えていたな。

  そうだ、もともと俺の名前が間違っていたのが原因で、こんな長話をしていたのだ(していたのは大体グリモアール先生だが)。

  どうしよう、俺の名前……


  「なあ、グリモアール先生、もしかしてレイス・リライトって言う名前、この世界だと普通なのか?」


  「そうじゃな、別に普通だと思うぞ」


  そうか、それならいいか。


  「じゃあ、俺はレイス・リライトっていうことで、よろしく」


  せっかく異世界転生したのだ、名前も変えて異世界ライフを満喫してもいいじゃないか。






  「わかった。ではレイス、もう一度尋ねる。神は存在すると思うか?」

 

  「なんでそんなことを聞くかは知らないけど、俺はいないと思っている」

 

  無宗教の俺からすれば、神様というのは、漫画やアニメに出てくるキャラクターと同じで、空想上の存在にすぎない。



  「そうか……まあ、そうじゃろうな。神の存在を信じる者は転生など望まぬじゃろうからの」


  「ふーん、そうなのか」


  前の世界には、来世のために前世を生きる、といった教えを信仰している人もいたはずだから、神を信じる者が転生を望まないということはないと思うのだが……

  まあ、この世界の神様なんだから、前の世界と比べてもしょうがないか。


  「でも、なんでそんなこと聞くんだ?」


  俺は魔法の講義を受けているはずなのに、何故いきなり神とやらの話をされているのか。

  グリモアール先生はその言葉に、一瞬の躊躇の後、説明を始めた。


  「魔法とは、神が人間に信仰の対価として与えた力、そう考えられているからじゃ」


  「え?もしかして魔法を使うには神を信仰しなきゃいけなかったりするのか!」


  グリモアール先生の重々しい発言に、俺はショックを受け――


  「違うぞ。ただ考えられているでけであって、実際は違う」


  力のこもった声で、はっきりと否定された。


  「魔法は、人類が、獣や魔物との生存競争に生き残るために生み出し――身に着けた力じゃ。神などという存在に与えられたものではない。神を信じようのない魔物にも、魔法が使える種族があるのじゃからな」


  その言葉には、少し棘があった。人類が自分自身で獲得した力を、神によって与えられたと考えられているのが、不愉快なのだろうか。


  「しかし、この世界のほとんどの人間や亜人種は、魔法は神によって与えられた力だと思い込んでおる。じゃから、レイスが神の存在を信じておるか聞いておきたかったのじゃよ」


  そこまで言ったグリモアール先生は、一度大きく息を吐き、ゆっくりと続きの言葉を言い放った。


  「これから教える魔法は、わしが編み出し、過去の弟子達にも伝えられなかった、完成形術式というものじゃ。この術式を用いて魔法を使えば、神に許しを請うことなく魔法を行使できる。つまり、人間が自らの力のみで魔法を使えるという考えの証明となる術式なのじゃ!」


  言いたいことを語ってご満悦のグリモアール先生だが、俺は困っていた。この幽霊爺の言っていることが、ほとんど理解できないのだ。そもそも、普通の魔法自体を知らない人間に革新的な魔法の素晴らしさなんて説明されても、わかる筈がないのだ。

  しかもその説明だと、俺に神の存在を信じるか、と質問した意味も分からない。神から力を借りずに魔法を行使できるのが、神に対する冒涜だとでもいうのか。

  それに、だ。

 

  「なあ、グリモアール先生が持っていた弟子に伝えられなかったんなら、俺にその完成形術式とやらが使えるようになるとは到底思えないんだが」


  俺の言葉にグリモアール先生は、一気に顔を暗くした。先ほどまでのご満悦そうな様子はどこにも無くなり、興奮して見開いていた目は悲しげに細められた。


  「そうじゃ……確かにこの術式は弟子達に伝えられなかった。じゃが、それは技術的にできなかったわけでは無い」


  「じゃあ、なんで――」


  「弟子らは完成形術式を、効率の良い魔法ではなく、悪魔の黒魔術だと思ったのじゃよ。神に許しを請わずに魔法を使うのは、悪魔や優れた知性を持つ魔物だけじゃったからな。完成形術式の魔法が悪魔の魔法と似ているのは、悪魔たちが正しく魔法を使っているから……なんてことを言っても誰も信じてくれなかったのじゃ。手塩にかけて育てた弟子たちでさえも、な。それどころか、悪魔に魂を売ったからそんな魔法が使えるんだ、なんてことまで言わてのう。築き上げた地位も一気に崩れ去り、弟子達も次々去って行ったんじゃよ………そんなわけで、別にこの魔法が難しいわけでは無い。神に許しを請う振りさえすれば、普通に使っても問題ないじゃろうしのう」


  そう言ってグリモアール先生は静かに笑った。その笑顔には、嬉しさや楽しさなんて気色は一切なく、哀しさや虚しさ、そして怒りが込められていた。

  俺が、何を言っていいか分からずに戸惑っていると、


  「さて、それじゃ早速、魔法を使えるようになってもらうかのう」


  これでこの話は終わり、というように半透明の手を叩いて、先生は話を変えた。

  これ以上はこちらから聞いても話してくれなさそうだし、俺もその考えに異論はない。あまり人の暗い過去は聞きたくないし。


  「じゃ、ちょっとこっちへ来い」


  そう言って先生は手招きをしてきた。

  そういえば椅子に座っていたので、俺は立ち上がり、手招きに従う。


  「それで、どうやって魔法を教えてくれるんだ?」


  「それはな、こうじゃよ」


  そういうと先生は、手招きをした手を此方に向けてきた。

  その手を見ると、何かがうごめいていた。パッと見は不思議な色の水みたいだが、良く見ると違う。液体のようにも、気体のようにも見える得体のしれない、「何か」と表現するしかないような物体だ。

  そんな「何か」を持ったままの先生の手が、どんどん此方に近づいてくる。そして……

 

  ズドンッという鈍い音を立てて、俺の腹に先生の手がめり込む。


  「えっ」


  驚きで声が出る。あのか細い腕からは考えられない、グリモアール先生の張り手に。そして、痛みのない自分の体に驚いたのだ。


  「何をしたんだ……」


  「魔法を教えてやったんじゃよ。授けてと言った方が正しいか」


  なんだと。そんな簡単に使えるようになっちゃうのか。でも……


  「別に、何も変わってないんだけど」


  力を得たらもっとこうみなぎるものがあるのではないだろうか。俺はそんなものを全く感じない。


  「そりゃそうじゃ、まだレイスに魔法を使うことを許しておらんからのう」


  「なんじゃそりゃ!それじゃあ、俺の力じゃないじゃないか」


  「そう文句言うでない。わしが許せばすぐに力を使えるようになるのじゃし。それにじゃ、わしが死ねば自由に使えるようになる。じゃから、問題なくお前の力となるぞ」


  そう言ってカカッと笑う先生。それに対して俺はあまり笑えない。

  俺はこの人を殺す代わりに、この人は俺に力を与えてくれている。こんな理不尽な交渉の上で、俺は力を与えられているんだ。忘れたわけでは無いが、思い起こすとあまり強いことは言えなくなってしまう。

  先生は、そんな沈黙を了承と受け取ったらしい。

 

  「じゃあ、始めるかのう。すぐに力を感じられるじゃろうが、まあ、頑張るのじゃよ」


  そう言って、先生はさっき俺を突っ張った手で俺の頭を掴み、力を込めた。


  「おお!」


  力がみなぎってくるのが感じられる。血が沸き立つような感覚だ。

 

  ……この沸き立つ、という表現が正しかったことを、俺はすぐに知ってしまう。


 


 


 



 

 

 


 

 


 


 


 

 


 



 




 


 

   

   





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