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転生・殺人・幻想の現実  作者: 亡霊
第一章 出会い、狩り、駆られない
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第18話 魔獣を狩る者達と、転生者達は森へと向かう。

  考え事をしていたため、昨日はあまり眠れなかった。

  脳は寝ている間も無意識に活動し、情報を整理したりしているらしいから、昨日の夜のような大事な睡眠時間を意識的な思考のせいで使い潰してしまったのは愚行としか言えない、が、途中から寝よう寝ようと必死に思ったのにも関わらず、眠れなかったのだから仕方がない。

  そんな後悔と共に飲み込んでも、朝早く食べた朝食は美味しかった。


  「それじゃあ、出発しましょうか」


  リア・ノウルック掛け声で、俺達は出発する。

 

  ドラ〇エ式の一列縦隊とはならず、二列になって歩く。数日かかる任務をするにも関わらず、皆の荷物は武器と防具を除けば身軽だ。俺達は無論、魔法の鞄のおかげなのだが、彼女達もそれと似たようなものを持っているのだろう。

  まだ白み始めたばかりの空の下、うっすらとした霧に包まれている町を、俺達は歩いている。大通りに出ても人はほとんどおらず、靴が石畳を鳴らす音と、どこからともなく聞こえてくる鳥の鳴き声を耳でとらえながら進んだ先には、俺達が入ったものとは別の門がそびえていた。

  リア・ノウルックが、門の近くにいる門番に話をして門を開けてもらい、俺達は外へと出る。


  「気を付けてな」


  という、門番の声を背中で聞きながら、俺達は道なりに進む。

  短い草花が茂り、木々が散在している風景が、日が昇るにつれて鮮やかな色彩を取り戻していく様子を見ながらも、時間も足も前へと進み続ける。

  日差しが鬱陶しく自己主張してきたことを除けば、あまり変わらない風景と、前を進む二人の先輩と、隣を歩く浴衣姿の長い髪の青年を視界に収めながら、皆は暑そうだな~なんて感想を抱く。

  俺は帽子を被っている上に、魔法で冷気を創り出して体温調節しているから暑くないが、他の、特に全身鎧でフルフェイスの兜まで被ったハーモニー・デザイアはとても暑そうだ。しかも、今の今まで水分補給をしている様子が無い。熱中症にでもなってしまいそうだが、彼女の足取りに危なげな様子は一切なく、歩くペースも変わっていない。まあ、若いのだし大丈夫だろう。

  思考回路を空回りさせている間にも、時計の針は回っていく。この世界に来てから時計らしきものを見たことは無く、当然俺も腕時計とかスマホとかを持っているわけでもないため、今の正確な時間は分からないが、太陽が俺達を真上から見下しているので、おそらく昼ごろだろう。

  俺の予想は大方当たっていたらしく、前を進んでいたリア・ノウルックが立ち止まる。


  「少し休憩して、食事を取りましょう」


  振り返ってそう言った彼女は、道からそれて散在している木陰の一つに座り込み、腰に二つぶら下げている巾着袋の一つから、どう見ても巾着袋よりも大きいサイズの水筒を二つ取り出し、一つをハーモニー・デザイアに手渡してる。どうやら、あの巾着袋は魔法道具らしい。

  俺とジンも、彼女達に習い、木陰に入って腰を下ろす。昔なら、明日か明後日あたりに筋肉痛になってしまいそうな距離を歩いたにも関わらず、俺の足は疲労感を訴えてこない。やはり、若いって素晴らしいな。

  俺は魔法の鞄から水筒と黒パンを取りだし、黒パンをジンの方へ投げる。


  「おう、ありがとさん」


  平然と片手でパンをキャッチしたジンは、軽くお礼を言った口でパンに噛り付く。

  俺は、片手で軽く魔法を使う。イメージは氷のコップ。

  そして、創り出した氷のコップに水筒の水を注ぎ、流石にこれは投げられないので、ジンに手渡す。


  「無詠唱で魔法を………あなた、神の理から外れた者(ヘレティック)なの」


  リア・ノウルックが驚いたような声音で聞いてくる。ハーモニー・デザイアも気になったらしく、兜をこちらに向けてきた。そう言えば、彼女達にはこのことを言っていなかったか。


  「はい。そうですよ」

 

  どうせ、イマジンには知られているのだ。ガーディア軍国の人々には知られても仕方がないと思っている。神の理から外れた者(ヘレティック)に対して差別意識がある国も人も存在しているのだろうが、今回の魔獣討伐の際に、一々詠唱の真似事をする気も無かったので、俺はリア・ノウルックの言葉を肯定する。


  「……そう」


  リア・ノウルックは腑に落ちない感じの返事をした後、何やらサンドイッチ的な食べ物を巾着袋から取り出して、ハーモニー・デザイアと共に食べ始めた。

  何か思うところがあるのかも知れないが、言ってこないなら此方(こちら)から聞く気はない。差別だろうが何だろうが、物理的に何かされない限りは関係ない。心の中でどう思われようが、行動に出してこない限り、どうせ俺には知りようがない。まあ、悪意っていうのは案外簡単に感じ取れるのだが。

 

  「この器、水が冷たくなるから良いな」


  俺の暗い思考を遮るように、ジンが、氷のコップで水を飲んだ感想を言ってくる。


  「そりゃ、氷で出来た器だからな」


  俺も、自分用の氷のコップを創り出し、水を魔法の水筒から注いで、取り出した黒パンを食べながら、冷たい水を飲む。持っている手も冷たいのが難点ではあるが、この気温でなら許容範囲内だ。堅いパンも、そういうものだと割り切って食べれば味自体は悪くない。固焼き煎餅のプレーン味みたいな感じだ。

  ガリガリと黒パンを二つほど腹に入れ、ジンの方に三つほどパンを投げた後、同じく食事を終えたリア・ノウルック達が立ち上がる。


  「さて、十分に休んだし、出発しましょう」


  そう言って木陰から道へと戻り、俺達は再び歩く。天頂を過ぎた太陽が、それでもジリジリと照っている中、風景に変化が出てきた。

  乱雑ながらも自然に茂っていた草木が、不自然に整えられている個所が見えてきたのだ。

  さらに近付くと、数人の人間が作業をしている様子が見え、それが畑だと分かった。生えている植物も同じような物ばかりで、それらは柵に囲まれていた。地面に一定間隔で挿した木の棒に、糸をつないだだけの簡素なものではあるが、所々に鳴子らしきものが付いている。柵に触れると音が鳴るようになっているのだ。畑を守るための柵では無く、畑に魔獣が来たことを人に知らせるための策なのだろう。

  森の付近には開拓村があると言っていたので、多分その村の畑なのだろうな、なんて考えて、それならその村に滞在させて貰えば野宿せずに済むのではないか、とまで考えたところで、村が見えてくる。

  先ほどの畑よりも丈夫そうで、簡素さはそのままの木製の柵に囲まれた、十数件の木製の家が見えるが、先頭を進むリア・ノウルックは村からそれるように進路を取り、まるで村を避けるように、無言で、道なき草むらを移動し続ける。

  今回の任務で、先輩の行動に口出しする気が無い俺は、それに無言で続く。ジンも同じく無言で続く。ジンは何か言うかも知れないな、なんて思っていたのだが、そんな事は無かった。

 

  寄らないらしい村から目線を上げ、見飽きた太陽を見る。見上げる必要はもはやなく、地平線の上で夕焼けている。

  目線を進行方向へ向ければ、木々が密集しているのが見える。あれが暗陰の森だろう。

  後ろを振り返れば、先ほどの村が小さいながらも視認できる。この森から魔獣が出てくれば、まず間違いなく、あの村は被害に遭うだろう。それなのに何故、あんなところに住んでいるのだろうか、なんて、事情も知らない俺が考えても仕方がない事を考えていた所に、リア・ノウルックの言葉が浴びせられる。


  「今日は、ここで朝まで待ちます。暗くなる前に早く準備をしましょう」


  その言葉を聞き、俺達は行動を開始する。とは言っても、やることが分からずに聞いたところ、基本的には場所を決めて、後は薪を集めればいいそうだ。薪はそこらへんにある丁度いい大きさの木をジンが千斬りにすればいいので、すぐに準備は終わった。太陽自体はもう見えないが、その身から出る光は未だ顕在しており、ボンヤリと明るい。

  ジンが斬った薪に、リア・ノウルックは巾着袋から取り出した瓶を投げ入れ、薪に火を点火した。彼女が投げ入れた透明なガラス瓶の中身には、炎のような揺らぎが見えたのだが、あれも魔法道具の一種なのだろう。

 

  「それじゃあ、二人ずつに分かれて睡眠を取ります。分け方は……ジンと私、レイスとモニーでいい?」


  準備を終えたリア・ノウルックが提案をする。モニーって誰だ、という疑問を消去法で解決した後、俺は提案に同意する。


  「リーダーの指示に従うよ」


  ジンも、納得したようだ。

  まあ、要するに俺達は信用ならないのだろう。寝ている間に魔獣に襲われるのは非常に危険だから、俺達みたいな新人に寝ている時の番を一人でさせていては安心して眠れない。良く分かる心理である。


  「どちらが先に寝るかだけど、どうする?」

 

  初めてリア・ノウルックが、俺達に質問を投げかける。

  俺とジンは目を見合わせ、目線だけの会話を試みるが、分かったのは「どうする、どっちでもいいけど」というものだけだったので、せっかく質問されたのだし、俺の意見を言わせてもらう。


  「私は後の方がいいですね」


  正直、運動した直後には眠れないし、目が覚めても夜というのは気分が良くない。気分の問題だから、否決されても構わない。


  「そう。じゃあ、私達は先に寝かせてもらうわね」


  なんだかその言葉だけだと、違う意味に聞こえてしまうな、なんて思春期みたいな事を考えてしまった。


  「いつもの時間に交代で。よろしくね」


  リア・ノウルックは、ハーモニー・デザイアにそう言った後、巾着袋の中から食料と、大きな砂時計のような物を渡し、彼女の近くに横になって、タオルケットみたいな布と大地に生えた草のマットレスに挟み込まれ、寝る体制に入る。

  ジンは、薪の一つを枕代わりにして、俺のそばで横になる。一応、上からかけられるような布は持ってきたのだが、聞いてみたところ要らないらしい。「寒いならもっと着込んでいるよ」という説得力しかない言葉を聞いてしまったので、何も言う気はない。

 

 

  さてと、だ。夜は寝るには短いが、何もせずに起きているにはあまりにも長い。とは言っても、俺は暇つぶしには事欠かない。昨日からの宿題でもあり、悩みの種である「俺は何をしたいのか」というものだ。

  昔はラノベ作家だったが、この世界で物書きで食べていける気はしないし、そもそも、せっかくの二度目の人生で一度目と同じ道を辿る気はない。このまま狩人(かりびと)という、いかにも幻想的(ファンタジック)な職に従事するのも悪くはないのかも知れないが……分からないな。自分の事なのに分からない。ご飯は食べたいし、寝不足は嫌だし、痛いのは嫌だし、って、やりたくないことはすぐに見つかるのにな。


  「ねえ、一つ聞いていい?」


  黒パンをチビチビかじりながら思考に暮れていた俺が、小さな声で現実に引き戻される。

 

  「は、はい。なんでしょう」


  まさか話しかけられるとは思っておらず、素っ頓狂な声が出てしまったが、ハーモニー・デザイアは気にする様子なく質問してくる。


  「あなた、私達に知られて良かったの?」


  主語が抜けていて理解に少し手間取ったが、神の理から外れた者(ヘレティック)のことだろう。


  「ええ。でも、あまり他言しないで下さいね」


  別にあれは口が滑ったとかでは無く、考えた上での選択だったので、今でも後悔はしていない。初めての魔獣討伐で、無駄な詠唱を魔法を使うたびに唱えていられるとは思えないのだし。何故、彼女は今更そんなことを聞くのだろうか。


  「あなたは怖くないの?普通の人とは違う自分が。そんな自分に浴びせられる他人(ひと)の目が」


  真剣な声音で、ハーモニー・デザイアが続けて質問をする。

  何でそんな事聞くのだろうか。聞いてみたくはあったのだが、質問に質問で返すのは良いことではないし、兜の中からこちらを覗く彼女の瞳が真っ直ぐだったのもあり、俺は真面目に質問に答える。


  「別に怖くはないですね」


  「何故」


  俺の回答に、ハーモニー・デザイアが即座に反応する。研ぎ澄まされた刃のような声だった。別にキレ気味だったのでは無く、静かだが耳に届く真っ直ぐで歪みの無い声音だ。

  何故、と言われても、俺は未だにこの神の理から外れた者(ヘレティック)だという事が原因で差別を受けたことが無いため、怖さと言われてもよく分からない、と言うのが事実なのだが……彼女が欲しているのは回答であり、俺が言おうとしている事は答えにはなっていない。

  ここで、事実だけを述べて話を終わらせても良いのだが、どうせ暇なのだし、一つ自論でも展開してみよう。それが答えになるのかは分からないが、解答用紙を白紙で提出するよりはましだろう。


  「自分を怖がる事に意味は無いですし、他人の目線を気にするのは時間の無駄です。自分は簡単には変えられないし、他人はもっと変わらないのですから、諦めて気にしない方が楽です」

 

  本音ではある。昔からそう思っていた。暴力などの物理的な恐怖は別だが、それ以外は基本的に無視でいい。陰口も、異物を見るような目も、ストレスが溜まる事だけが実害なのだから。

  何故怖くないのか、という質問に対して、怖いと思うだけ無駄だからと答えるのも、少しおかしいかも知れないが、まあ、間違いを言ったつもりはない。


  「そう………かも知れない」


  ハーモニー・デザイアは、言葉を濁しながらも俺の意見を肯定する。

  それを最後に、俺達の会話は終わる。こちらから質問する気は皆無なのだし、彼女もこれ以上の質問をする気はないようだ。

 

  会話に使っていた頭を、ふと夜空に向ける。プラネタリウムのような星空が広がっている、という、自然を人工物で直喩してしまう自分の語彙力の無さに落胆してしまう。

  上を見上げた際に、ワイスが首に巻き付いていたことを思い出し、こいつは紹介した方がいいのかな、と一瞬思ったが、機会があったら紹介すればいいし、無かったらしなければいいという結論を出す。

 

  さて、それじゃあ思考を再開しよう。

 

  俺は何をしたいのか。


  まあ、結論が出るとは思えないが。


  ―――夜はまだ続く。

 

 

 

 


 

 




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