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転生・殺人・幻想の現実  作者: 亡霊
第一章 出会い、狩り、駆られない
18/36

第17話 戦い終えた戦士達と、転生者達は再会をする。

  「思ったより手間取ったわね」


  眼前に見えてきた大きな門から、目線を隣にいる全身鎧の彼女に向けながら、私は今回の任務の感想を述べる。

 

  「ええ。でも、誰も死ななくて良かった」


  彼女は、静かにそう言った。顔を覆う兜のせいで表情はうかがえないが、きっと安堵の表情をしていることだろう。

 

  武装したゴブリン達は思ったよりも手強く、負傷者が何人も出てしまった。それでも、その負傷者を庇いながら戦闘し、死者や重症者を出すことなく、大半のゴブリンを殲滅することが出来たのだから、及第点だろう。

  そんな事を考えながら、すっかり昇った日の光に照らされつつ、私達は門前まで歩く。


  「お疲れさん」


  門前にて、門番の一人に声をかけられる。

  皆が口々に、門番に言葉を返す。国は違えど、民を魔獣や犯罪者の手から守るという点において、一致している門番の彼らとは仲がいい。

  だが、彼らも私達も職務中なので、一言二言の会話に留め、私達は門の中へと入っていく。

 

  数日しか経っていないこの都市は、相変わらず賑わっており、威勢のいい商人の宣伝文句が飛び交い、通行人の足が石畳を鳴らし、喉から雑音を放ち、それらが不協和音となって聞こえてくる。

  私達は、そんな雑踏の中を足早に進む。

  大通りから小道に入っていくにつれ、それまでの喧騒が嘘のように静かになっていく。そして、たどり着く、私達の国へと。

  巨大な扉をノックして、私達は帰国を果たす。


  「お帰りなさい。皆、無事かね」


  仕事があるだろうに、仁王立ちしている統領が、私達の帰宅を出迎えてくれる。全く、貴方のせいで大変な任務になってしまった。


  「ただいまイマ爺。負傷者は出たけれど、皆、生きて帰ってきました」


  このチームを率いていた私は、イマ爺の質問に返答する。


  「そうか。では、負傷者は早く神官のところに行きなさい。リア君とハーモニー君は報告を頼むよ」

 

  指示を聞いて、皆が行動を始める。負傷者は付き添われながら神官のいる治療室へ、それ以外は自分の部屋へ、それぞれ移動していく。

  私と、モニーは、イマ爺に今回の任務報告をするため、イマ爺の執務室に移動する。

  この人の執務室は、二階の一番奥にある部屋で、ベットの代わりに机と本棚があることを除けば、私達が使っている部屋と大差ない。


  「さて、では聞かせてもらおうか」


  私は、執務机の前に立つイマ爺に、今回の任務を報告する。


  「今回の、武装したゴブリンの集団の討伐は、無事完了しました。ゴブリン達の総数は五十三体。そして、彼らの多くが、片手剣やハンドアックスを装備していました。数は多かったですが、連携は稚拙で、知能は並のゴブリンと同程度だったと思います」


  イマ爺は、腕を組んで少し考えた後、腕を解いて口を開く。


  「そうか。ハーモニー君は、その武装ゴブリンと戦って何か感じたかね?」


  私の隣にいる全身鎧のモニーは、しばしの沈黙の後、発言する。


  「武器を普通に扱っていた。あいつ等はしっかりと柄を握って、刃を当ててこようとしてきた。それは、少し不思議だと思う」


  考えてみれば確かにそうだ。ゴブリンは、魔獣の中でも知能が低いことで知られている。それなのに、使うのにそれなり錬度が必要な剣や斧を、奴らは拙いながらも扱えていた。


  「ゴブリン達が戦闘訓練でもしているのかね」


  イマ爺がとんでもないことを言い出した。魔獣が訓練など考えただけでゾッとするが、それはありえない。


  「訓練が出来るほどの知性があるのなら、戦闘中に連携攻撃の一つでもしてくるはずです。だけど、奴らはそんな事はしなかった」


  訓練が出来るほどの知識を持っているのにも関わらず、奴らの攻撃には知性を感じられなかった。野蛮で、荒々しく、何も考えていない、そんな攻撃しか行ってこなかった。


  「ふむ。考えても仕方がないな。リア君、ゴブリン達が使っていた武器は回収したかね」


  「はい。ゴブリン達の首と一緒に、いくつか回収しています」


  武器は骨や石を用いた物が多かったが、金属製の武器もいくつか見られた。おそらく、骨や石を用いた武器は自作で、金属製の武器は人間から奪ったのだろう。


  「そうか。では、袋はこちらで預かろう。討伐手続きなどは、こちらでやっておく」


  「分かりました。よろしくお願いします」


  私は、借りていた魔法の巾着袋を腰から取り外し、イマ爺に手渡す。この小さな袋に、五十三体のゴブリンの頭と、数十本の武器を入れることが出来て、重量も無くなるのだから、魔法道具は本当に便利だ。とてつもない金額なのを除けば、だが。


  「さて、それでは解散―――と言いたいところなのだかね。君達に会ってほしい人達がいるんだ。これから訓練場に来てくれないかね」


  会ってほしい人とは、おそらく次の仕事仲間だろう。良くあることだ。魔獣の被害など、規則性があるわけでもないため、休みが続くこともあれば、息つく暇も無く討伐に行き続けることもある。そして、最近は後者の方が多い。

  魔獣の被害を未然に、または、早急に防ぐのが狩人の仕事であり、私達にはその力があるのだから、忙しいのは至極当然だ。


  「分かりました」


  「すまんな。では、ついてきてくれ」


  私の返事を聞きいた後、イマ爺は執務室から出ていく。

  私達以上に働いてきて、六十五歳となった今でも仕事をし続けている貴方が、まだ若い私達に仕事を押し付けることを謝る必要などないでしょうに、と、言おうと思った事は何度かあったが、未だに口にしたことは無い。どうせ、イマ爺も心から謝っているいるわけでもないのだろうし。

 

  私達は、イマ爺の後に続く。

  上がった階段を下がり、訓練場の方へと向かう。


  そこで見たのは、模擬剣を振るうブレイブ達のチームと、それを模擬剣一本でさばききっている黒浴衣の長髪青年、そして、透明感のある大きな傘の中で座っている、とんがり帽子を被った青ローブの青髪青年。

  全員に見覚えがある。だが、あの青い青年と黒浴衣の青年――確かレイス・リライトとジン・スピリットだったか――が、何故ここにいるのかが分からない。


  「おーい。レイス君、ジン君、ちょっと来てくれ」


  どうやら、この間会った人達で間違いないらしい。もしかしたら、依頼人なのかもしれない。と、思っていたのだが、イマ爺は笑顔で―――


  「彼らは、昨日入ったばかりの狩人(かりびと)だ」


  と言った。そして、


  「今日から、彼らと君達でチームを組んでもらいたい」


  などと、言った。

  どうやら、青いのは貴族じゃなかったらしい。(この間の私の気遣いを返せ)

  つまりは、私達にまた新人研修をしろと言っているのか。さっきパッと見た感じだと、黒浴衣の方は相当な使い手に見えたのだが、青い方はどうにも強そうに見えない。

 

  「ここで話すのもなんだ。丁度、昼食どきなのだから、昼を食べながら話し合おう」

 

 



 ーーーーーーーーーーーーー




  俺は今日、今の今まで暇を持て余していた。

  朝起きて、朝食を取り、そしてやることが無くなったのだ。仕事が見つかり、美味しい食事も食べられるようになったのだから、別に今すぐ手持ちの金塊を換金する必要も無いし、そもそも金が必要ない。むしろ、変に財産を持っていると知られるのは良いことではないだろう。


  と、いう訳で、俺はやることが無かったので、ジンとブレイブ達の戦闘訓練を見物していた。

  朝食の席でブレイブ達が、ジンに稽古をつけてほしいと頼んだのがきっかけで、実戦形式の稽古が行われることになっていたため、まだ、銀蛇の鋭杖をレイピアとして扱い、剣と魔法の両方で戦う魔法剣士を目指そうと思っていた俺は、割と真面目に見学しようと思っていたのだが、見ている内に無理だと悟った。

  なんせめちゃくちゃ怖いのだ。模擬剣とはいえ、重そうな棒切れを振り回し、それを避けながら相手に当てようとしているのだから、怖くないわけが無かった。やっぱり魔法でパチパチ遠くから攻撃するのが俺みたいなチキン野郎には合っている。

  ただまあ、の娯楽として見物する分には、サーカスとか雑技団とかのショーを見ているようで面白かった。

  四対一にも関わらず、ジンがブレイブ達の攻撃をヒョイヒョイ避けたり、模擬剣で受け流したりで、全く当たらなかったから、こんな気楽な感想を持てたのだろう。


  つまり、俺はつい先ほどまで訓練場の隅で氷のパラソルを創って、訓練している若者達を見ていただけなのだが、何もしなくても腹は減る。だから、昼食もしっかりと食べて、今はコーヒーを飲みながら、これから始まるであろう会話に下準備無しで備えている。

 

  丸いテーブルに椅子が五つ、俺とイマジンがコーヒーを、ジンと、赤髪ポニテ(確か、名前はリア・ノウルックだったか)と、全身鎧の金髪ショートがフラワーティーなる飲み物を飲んでいる。というか、あの鎧の中身は女だったのか。完全に男だと思っていた。


  「さて、君達にチームを組んで欲しいのだが、その点に何か質問はあるかね。無ければ、今回の任務の説明をさせてもらうが」


  イマジンが口火を切る。

  俺は右も左もわからない新人なのだから、そんなもの無いが、俺から見て右に座っている赤髪ポニテ――リア・ノウルックは質問を投げかける。


  「何故、私達なのですか。新人研修をするならば、ブレイブ達でもいいんじゃないですか」


  仰る通りである。俺達に仕事を教えるのが目的ならば、ブレイブ達に教わった方がなにかと都合がいいだろう。


  「ブレイブ君達には少し休養を与えたいんだ。理由は分かるだろう。それに、今回の任務は難易度が高い。だから、君達に頼んだんだ」


  いきなり難易度が高い任務を与えられるとか、ここは案外ブラックな感じなのだろうか。

 

  「この人はそんなに強いんですか」


  俺を指差しながら、リア・ノウルックはそう口にする。

  良い質問だ。俺はこの世界でどれほど強いのだろう。グリモアール曰く、魔法使いの端くれにぐらいにはなっているはずだが、そもそも神官以外に魔法使いを見かけないため、俺がどれほどの強さなのかよく分からないのだ。


  「強いな。本気を出されたら私も敵わないかも知れない」


  口元に楽しげな笑みを浮かべながら、イマジンはそう言い切る。どうやら、真面目に答える気は無いらしい。どう考えても、この老人の方が俺よりも遥かに強い。先日の手合せで、それははっきりしている。


  「とてもそうは思えませんけど」

 

  まあ、俺もそう思う。


  「レイス君は魔法使いだからね。見た目だけで判断は出来ないだろう」


  一理はある、一理しかないが。

 

  「分かりました」


  しばらくの沈黙の後、何をどう分かったのかが俺にはよく分からないのだが、リア・ノウルックはそう言って口を閉ざした。

 

  「そうか。それでは、任務の内容を説明しよう」

 

  普通、他に何か質問があるか聞きそうなものだが、イマジンは任務内容へと話を進める。

 

  「今回、君達に行ってほしいのは、暗陰の森の探索だ」


  もう既に場所が分からない。この間ゴブリン達がいた森の事なのだろうか。


  「暗陰の森周辺の開拓村で、魔獣被害が出たとは聞いていませんが」


  リア・ノウルックが、イマジンの言う任務内容に疑問を提示する。


  「そう。一年ほど前から、暗陰の森周辺の村で魔獣被害はほとんどなくなった。だが、最近は森周辺の魔獣の目撃数が多くなっている」


  どうやら、俺の知っている森ではないらしい。

 

  「なるほど。分かりました」


  リア・ノウルックとイマジンの会話だけで、大体の任務は理解できた。

  つまりは、森に入って魔獣が村を襲わなくなった理由を探せ、という事だろう。


  「危険なのは分かっていると思うが、よろしく頼むぞ」


  イマジンが、リア・ノウルックにそう言って立ち上がる。


  「分かりました」


  リア・ノウルックがそう言うと、イマジンは笑顔で俺達の方を向きながら―――


  「初めての任務だが、あまり気負わずにやってくれたまえ。分からないことがあったら、彼女達に聞けば教えてくれるからね」


  そう言って、振り返り歩き出し―――


  「私は仕事があるのでね。これで失礼させてもらうよ。仲良く任務をこなしてくれたまえ」


  手を軽く上げながら、イマジンは去っていた。

 

  残ったのは、僅かにカップの底にあるブラックコーヒーと、今回の任務を共にする三人。俺は取り敢えず残っているコーヒーを飲み干す……気まずい。

 

  「それじゃあ、軽く自己紹介でもし合いましょうか。私はリア・ノウルック。会うのはこれで二度目になるわね。隣の彼女は、ハーモニー・デザイア」


  「よろしく」


  そんな空気の中、リア・ノウルックのはきはきとした声での自己紹介と、金髪ショートの全身鎧――ハーモニー・デザイアの小さな声が、空気を震わせ俺の耳へと振動を伝える。


  「私は、レイス・リライトと言います」


  空気を読んで、俺も名乗る。これからしばらくの間一緒に行動することになるのだから、嫌な印象を持たれないようにしたいものだ。


  「俺は、ジン・スピリットだ。今日からよろしく頼む」


  「ええ、よろしく」


  ジンも、そう言って名乗り、緊迫した空気の和らぎを若干ながら感じながら、リア・ノウルックは返答の後に、本題に入っていく。


  「君達、暗陰の森って知ってる?」


  今回の任務の行く先だとは知っているが、それ以外は知らない。よって俺は首を横に振る。どうやら、ジンも知らないらしく、小さく知らないと言っている。


  「そう。じゃあ、暗陰の森から説明するわね。暗陰の森は、ここから歩いて一日ぐらいの所にある、日中でも太陽の光が木々によって遮られている薄暗い森よ。暗闇と、森のような隠れるのに丁度いい場所を魔獣は好む傾向があるから、きっと、入れば魔獣と戦うことになるでしょう」


  森で魔獣と戦うとか、いかにもファンタジーらしくて楽しそうだ、なんて思えるような思考回路を持ちたいな、と思っている俺を余所に、リア・ノウルックは話を続ける。


  「それで、今回の任務だけど。イマ爺の話で言っていた通り、暗陰の森の探索を行い、増えた魔獣を討伐します」


  そんな事一言も言っていなかった気がするのだが。

 

  「森周辺の魔獣が村を襲わなくなる理由として考えられるのは、森の食料が充実していて人間を襲う必要が無いっていう理由がほとんどなんだけど、目撃数が増えてきているっていう事は、遅かれ早かれ魔獣は村を襲う。だから、少しでも魔獣の数を減らして、村が襲われる際の被害を少なくするの」


  どうやら、また顔に出ていたらしく、リア・ノウルックが詳しく説明してくれる。

  言っている事はよく分かるが、森という、おそらくは広大な面積を有している場所で、たった四人で害獣駆除をしたところで、山火事をバケツリレーで消火しようとするようなものではないのだろうか。


  「それって意味あるのか?」

 

  ジンが俺の思っていたことを口に出してしまう。そういう事は言わないでおくのが良いと思ったのだが。


  「ある。少なくとも、やらないよりは確実に意味がある」


  確固たる信念のこもった口調で、リア・ノウルックは断言する。

  俺は何とも言えない気分になる。双方が正しく、間違っていない考えだ。

  まあ、あえて言うならば、俺は正義感など持ち合わせているつもりはないので、村の人間とかは正直どうでもいい。与えられた任務をこなし、タダ飯食らいにならない程度に働くことが、取り敢えずの俺の目的なのだから。

  俺がゆっくりと思考を働かせることが出来る程度の静寂の後、リア・ノウルックが口を開く。


  「出発は明日の朝とします。暗陰の森に着くのは丸一日かかるし、森に入るのは朝からにしたいので、一日目に暗陰の森へ移動し、二日目から魔獣の討伐を行います。数日かけて魔獣討伐を行い、ある程度数を減らした後に帰還します。それでは、今日中に各自準備をお願いします。主な必需品とか教えた方がいい?」


  俺は魔法の鞄とその中身以外持っていく気はさらさらないので、俺は問題ないという旨を伝える。左隣のジンも大丈夫だと口にする。


  「そう。それじゃあ解散。しっかり準備して、今日は早く寝るように」


  リア・ノウルックのこの言葉と共に、俺とジン、リア・ノウルックとハーモニー・デザイアは席から立ちあがる。

 

  後半日、何をしようか。

 

  どうせ、俺は暇を持て余す。少年老いやすく学成り難く、成功者はすべからく皆努力者であり、1パーセントのひらめきも99パーセントの努力をしなければ水泡に帰すと知っていながらも、俺はきっと何もしない。なぜなら理由が無いからだ。

  夢はもう叶っている。偉大なる魔導師が見せてくれている正夢の中で生きる俺は、後、何を望めばいいのだろうか。

 

 

 

 


 


 


 

 


 


 


 

 

 

 

 


 






 


 




 


 



 

 


 

 

 


 


 


 

 

 


 


 












 

 

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