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転生・殺人・幻想の現実  作者: 亡霊
第一章 出会い、狩り、駆られない
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第16話 一日の終わりに、転生者は思考を整理する。

  魔光ランプを消した部屋の中、ベットの上で俺は考える。今日もとても疲れた。

  イマジンとの手合せの後、俺達はアフターバトルティーを美味しく頂き、その後は寝癖を付けたブレイブと、その仲間達とが支部内の案内をしてくれた。彼らは、ジンを見てそれぞれ思い思いの感謝を述べ、そして、ジンの紹介で、何故か俺にまで感謝を述べてきた。まあ、恥ずかしくはあったが、素直な青年達の心から感謝は、受けていて悪い気はしなかった。ブレイブの顔も昨日と違ってどこか柔らかくなっていたし、きっと何か心に詰まっていたものが取れたのだろう。

 

  ガーディア軍国スタウント支部、ここで一番驚いたのは、インフラ施設だ。トイレは個室にある石造りのもので、なんと、便器の隣にあるレバーを倒すと水が流れるのだ。まさかの水洗式トイレである。座り心地を除けば、昔の世界でのトイレと大差ない。何で水が流れるのか、とか、下水処理はどうなっているの、とか、聞いてみたのだが、どれもこれも魔法の御蔭らしい。このトイレも、俺達の部屋にあったランプ同様に魔法道具という訳だ。

  他にも、食料を魔法倉庫なるものに保存しており、そこに保存している食べ物は、腐ったりすることがないというし、料理に使う火も、魔法道具によって簡単に付けたり消したり出来るらしい。この辺りの知識はイマジンの夫人である、レイナさんから聞いた。

  また、レイナさんの本名は、レイナ・クリエイト・リーディングと言い、王族なのだそうだ。あまりにも軽く言われたから、あまり驚けなかったのだが、冷静に考えれば、イマジン・クリエイトはかつて、ガーディア軍国の将軍だったらしいし、今もここの統領なのだから、別におかしい事ではない。

  ちなみに、ワイスは喋る白蛇として、イマジンには紹介しておいた。当然驚かれはしたが、ただの喋る白蛇なのを理解すると、感慨深げにしばらく俺の首に巻かれているワイスを観察した後、「召喚獣はとても高価だから、あまりワイス君の事を口外しない方がいい」と助言してくれた。

 

  そして、二番目に驚いた事は、魔法道具を作り、販売しているのが教会だという事だ。どうやら現代の教会とは、神の教えを伝える宗教的な役割より、魔法道具を専制販売する商業的な役割が多いらしい。それでも、基本的に皆、神を信じているし、魔法道具も教会にいる魔法使い達が、神に力を借りることで創り出しているという事になっているらしいので、魔法が神によってもたらされたものだ、という認識はあるらしい。

  しかも教会は、魔法道具で稼いだ資金を用いて、子供に対して教会内で計算や簡単な文字書きといった教育を施したり、人々の怪我や病気の治療を魔法等を用いて格安の料金(少額の寄付)で受けられるようにしていて、どうやら現代では神というより、教会自体が信仰されている感がある。ちなみに、ガーディア軍国にも数人の神官が滞在していて、魔法を使って怪我や病気を治している。ジンの口内の傷も治してくれていた。

  だから、教会は俺のような神に許しを請うこと無く魔法を扱える者を、神の理から外れた者――ヘレティック――として、一応は人間だとしても、人々の教会への威信は揺らがないのかも知れない。

  ジンは、ヘレティック自体を知らなかったし、ブレイブ達も、魔法を無詠唱で使う俺に対し、普通の接し方をしてくれていた。つまりは、俺がグリモアールから聞いていたほど、完成形術式による魔法は恐怖の対象になっていないことになる。

  それでも、この世界にも様々な国が独自の法の下に存在しており、個人でも十人十色の価値観があるわけで、そして、変わった人間は爪弾きにあうのが世の常だと、人生経験上そう思っているので、あまり、この完成形術式を他人に明かすのは良くないだろう。

  今後、鞄の中の薬等について、この世界での価値や効力を調べたかったのだが、しばらくは止めておいた方がいいかも知れない。


  驚いた事を上げればきりがないことに今更気付いたので、睡眠時間を削らないためにも、考えるべきことを考えたいと思う。


  それは、俺はこれからどうするべきか、という事だ。

  一、イマジン達を信用し、もうしばらく此処に滞在して、この世界の情報を得る。

  二、イマジン達を信用せず、隙をついて逃げて、別の場所でやり直す。

  三、あまり深く考えず、その場の空気を読んで、楽しい人生を過ごす。

 

  四、グリモアールの情報を集め、あの人が過去に犯した罪の内容を知る。

 

  ………三だな。情報なんて、人と話していれば自然と得られるだろうし、イマジン達を信用しないとしても、この世界に本当に信頼できる人間はいない。まあ、昔の世界にも本当に信頼できる人間などいなかったが。そして、四は論外だ。俺の好奇心の為に、グリモアールの知られたくないであろう過去を知ることに意味はない。

 

  止めた。早く寝よう。考えすぎても動けなくなるだけだ。ある程度は当たって砕けなくてはならないし、俺一人の考えなど、どうせ間違いだらけなのだから。






  神の間にて―――



  「神の理から外れた者(ヘレティック)か。教会は何故そんな例外者を人間として認めたのだろうな」


  「あれ?怒っていないのかい。君を化け物だと言っていた教会が、掌を返していたんだよ?」


  「レイスが生きやすい世界になっておるのであれば、別に良いのじゃよ。わしはもう死んでおるのじゃし、終わった事じゃ」


  「じゃあ、質問を変えよう。何で神の理から外れた者(ヘレティック)などという言葉を、教会が創り出さねばならなかったと思う?」


  「そんな事、分かりきっておるじゃろう。今、魔法の研究は教会が最も進んでおるはずじゃ。その教会の研究が、わしが行っていた研究に追いついたのじゃろう。そして、魔法は詠唱無しに唱える事が出来ると判明したから、神の教えと食い違う事実をどうにか説明する為に、神の理から外れた者(ヘレティック)という、神を加護を完全否定せずに、無詠唱の魔法を唱えられる存在を示すような言葉を創ったのじゃろう」


  「残念。全くもって違う」

 

  「ならば、なんなのじゃ」


  「君、悪魔狩りって知っているかい?」


  「知らんな。何じゃ急に」


  「君が封印される前からあった、人間の子供の姿をし人里に侵入していた悪魔を見つけ出し、狩っていた事を言うんだけれどね。その程度なら当時はよくあることなんだけれど、面白いのはさ、その悪魔の両親を名乗る男女が、必死になってこの子は悪魔じゃないなんて言うんだ。まあ、悪魔を庇ったから、その人達も殺されるんだけれどね」


  「……その両親とやらは、悪魔に洗脳でもされておったのではないか」


  「気付いているクセに。君が考えるべきはそこじゃないだろう」


  「何故、人の子供の姿に見える悪魔を、悪魔だと断定できたか……」


  「そう、その通り。君が考えるべきはそこだ。そして、もう答えは分かるよね。その子供は魔法を使ったんだ。しかも無詠唱で」


  「しかし、有り得んじゃろう。そんな……」


  「別に不思議な事じゃない。魔法とは、意志で発動させ、イメージでコントロールするものだって言ったじゃないか。魔法の力を迷いなく信じ、欲すれば、おのずと魔力は魔法へと昇華される」


  「つまり、その子供は完成形術式を使えたというのか。わしが百年かけて考え抜き、導き出した魔法の形を」


  「君は固定概念を理詰めで一つずつ崩していったけれど、彼ら彼女らは、そんな固定概念なんて無いからね。まあ、魔法という超常現象を知識無しで、心の底から信じ抜き、欲するっていうのは、それはそれで難しいんだけれどね」


  「無理じゃろう。知らないことはイメージ出来ん」


  「それはどうかな。炎が燃えているのは燃料に火をつけたから、水が凍るのは、温度が零度を下回ったから。僕や君はそれを知っているけれど、彼ら彼女らはそれを知らないからね。どう考えるかは子供達次第だ。お父さんが念じているから炎が燃えている、とか、お母さんが震えているから川の水が凍っている、とか、考えても不思議じゃない」


  「そんなことが起こるはずがない」


  「そんなこと言っても、僕も子供の思考はよく分からないからね。理屈なんてあってないようなものだし、法則性も皆無に限りなく等しい。純粋無知な故に何を起こすか分からない。だから、自分に出来ないことなんて無い、なんて思って想像し、創造してしまう。一度出来れば、後はその感覚を思い出すだけでいいからね」


  「馬鹿な……」


  「ま、過程はどうあれ、教会はそんな悪魔のような人間が、君の活躍の御蔭で悪魔の数が激減したにも関わらず、人里に現れる事を疑問に思い、それを殺した後に解剖し、そして、気付いたんだ。この生物は、間違いなく人間だと。だから、教会はそんな者を神の理から外れた者(ヘレティック)とすることで、人々を悪魔の恐怖から解放し、神の理から外れた者(ヘレティック)達を拷問の末の殺害という運命から解放した」


  「そして、教会はその神の理から外れた者(ヘレティック)を懐柔して、魔法の研究と発展のために役立てる、といったところか」


  「そうそう。だから、教会は神の理から外れた者(ヘレティック)という言葉を創った」


  「だが、教会は未だに無詠唱の魔法を習得していないようじゃが……」


  「固定概念というのは、それだけ崩れにくいものなんだよ。だから神の理から外れた者(ヘレティック)は基本的に一つの属性しか無詠唱で魔法を使えない。レイス君だって、氷の魔法以外使えなかっただろう。それに、神の理から外れた者は、君みたいに理屈で魔法を使っているわけでは無いからね。迷わず、ただ純粋に強く信じて欲した結果を受け取っているだけだから、教会にいる魔法使いには扱えない。彼らにとって魔法とは詠唱と共に発動しするものだからね」


  「昔から頭の固い連中じゃったからな」


  「君に言われたくは無いだろうけれどね」


  「そりゃ、そうじゃろうな」


  「あれ、反論しないのかい?」


  「わしは学んだのじゃ。他人をとやかく言えるほど、わし自身が出来た人間では無かったとな」


  「なんだ、つまんないの」


  ―――何で、それを生前に気付けなかったんだろうね。


 



 

 

 

 

 

 

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