第15.5話 目が覚めた青年達は、足並みを揃え歩き出す。
俺は眠り過ぎていた。
訓練場の方から聞こえた音で目を覚ました時には、もう、とっくに太陽が昇っており、起き上がって周りを見れば、皆、眠そうな目をしながら、ベットの上で上体を起こしていた。
昨日の話で、皆でジン・スピリットさんにお礼を言いに行こうと言ったのに、呑気なものである。とはいえ、俺も完全に寝坊しているのだから、何も言えまい。誰しもミスをするのだし、それをかばい合うのがチームなのだから。
昨日の夜、俺はチームの皆と話をした。
皆はもう起きていて、疲れた表情をしていた。当たり前だろう。肉体的にも精神的にも、大きく削り取られているはずだ。
俺は皆を見渡した後、俺達を助けてくれたあの剣士――ジン・スピリットさん――が、生きていて、今、ここで滞在していると伝えた。皆とても驚き、喜び、そして感激していた。
その後、俺は皆に伝えた。武装ゴブリン達から逃げた時、俺は皆の事を考えず走り続けてしまった事、その時、皆の命を預かっているにも関わらず、自分の命しか考えていなかった事、 だから、俺はリーダーとして失格だという事。
皆は黙って聞いてくれていた。そして、俺が全てを吐き出した後、口を開いたのはサブリーダーのキーンだった。
あいつはただ一言、「そんな事は当たり前だ」と、俺に向かって言った。そして、何故か謝られた。「お前にばかり頼っていた」と。
俺は始め、何を言われているかよく分からなかった。俺に向かって罵声を浴びせるならともかく、謝られる意味など理解できなかったのだ。
それから、俺達は話し合った。俺は皆に、皆は俺に謝罪した。そして分かったことは、俺は皆と話してこなかったという事だ。俺はリーダーだったから、皆を引っ張っていかなくてはいけないという意識があったけれど、実際は、皆を振り回しているだけだったのだ。皆は、「お前が全て決めてくれていたから、それに甘えてしまっていた」なんて言ってくれたが、俺はそうは思わない。俺は自惚れていただけだった。俺の考えがいつも正しいわけがないのに、皆に問いかける事をしなかったのだから。
俺も、皆も、本音を言い合った。言いたいことなど山ほどあったし、聞きたいことも沢山あった。そして、俺は最後に尋ねた。「こんな俺だけど、まだこのチームのリーダーでいさせてくれるか」と。
皆は、一人ずつ、「ああ」「勿論だ」「よろしく頼む」と言ってくれた。
俺は嬉しかった。こんな純粋にただ嬉しいと思ったのは初めてかも知れない。
頑張ろう。皆もきっと頑張るから、俺はもっと頑張ろう。それでも間違いばかりしてしまうだろうけれど、それは皆に指摘してもらおう。
―――結論は出た。後は実行するだけだ。
その後、門番の兵士達が果物を持って部屋に上り込んできて、皆でそれを食べながら談笑をした。どうやら、彼らは統領の奥さんであるレイナさんが、入国を許可してくれたらしい。
あの人は、何時の間にやら俺達の事を知っているから怖い。スタウント支部の様々な人が彼女に相談をしているが、大抵の場合、回答を既に持っているのだから、本当に怖い。
そして、門番の二人は俺達の事を心配して来てくれたらしかった。
持ってきてくれた果物の値段を聞いて驚いたり、食べた果物のあまりの美味しさにまた驚いたりしたりしている内に、明日も仕事がある彼らは帰ってしまった。
いつか、門番たちには恩返ししなくてはいけないな、という事と、明日はすぐにジン・スピリットさんの所にいってお礼を言おう、というところまで話しあって、昨日は眠りについたのだから、こんなに日が昇るまで目を覚まさないはずがないのだが、きっと、疲れていたのだろう。
「皆、行くぞ。ジンさんにお礼を言わなきゃいけない」
俺は顔を両手で叩き、痛みで目を覚まして起き上がる。
早く歩き出そう。