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転生・殺人・幻想の現実  作者: 亡霊
第一章 出会い、狩り、駆られない
15/36

第15話 統率者との手合せで、転生者は失態を犯す。

  目は口ほどに物を言う、とは言っても、実際は目よりも顔全体の表情の方が、口ほどに物を言っている気がする。

  俺の今の顔は、クリエイトから見てどう映っているのだろうか。老人に手合せしようと言われて、驚いてはいるのだが……自分でもよく分からない気分だ。

  ブレイブが手合せの相手だとは思っておらず、名前を知っている此処の住人だったから名前を挙げたにすぎなかったのだが、まさか目の前の老紳士だとは思わなかった。

  まあ、偉い人が強いのはファンタジーではよくある話だし、俺の知る最恐の人間も、とてつもなく老いていたいたのだから、偏見は良くない。


  「君達二人と手合せをして、君達の実力を測らせてもらう」


  マジですか。俺達は二人がかりで老人一人と戦うのか。


  「分かった。で、どこでやるんだ?」


  俺が悩んでいる間に、ジンが、そう言って席を立つ。どうやらジンはクリエイトの提案に納得したらしい。優しい彼ならば、クリエイトの提案を却下するのではないかと思ったが、そんなことは無かった。

  まあ、俺は別に構わない。クリエイトが手合せという言葉を用いた以上、死んだり、重症を負ったりという事にはならないはずだ。


  「よし。では、ついてきたまえ」


  そう言ってクリエイトは、テーブルに立てかけてあったらしい剣を持ち、椅子から立ち上がって歩き出した。ジンと俺は、それに続く。


  「あなた。あんまり若くないんだから、気をつけて下さいね」


  白髪の婦人が、俺達の食べ終わった食器類を片付けながら、クリエイトに向かって言った。あなた、という代名詞を用いたという事は、もしかして、婦人はクリエイトの夫人だったのか。


  「ああ、分かっている。すぐに終わるよ」


  クリエイトは、振り返らずに軽く手を上げて夫人の声に答え、歩き続ける。

  俺は、一瞬、自分の食器ぐらいは運ぼうかと思ったが、周りで食事をしていた人達が、俺達の食器を片づけてくれたし、あの夫人が持ってきたティーポットも、ごつい顔をした人が持って行ったので、俺の出る幕は無かった。

  婦人の感謝の言葉と、食器を運ぶ人々の謙遜した応答を背で聞きながら、俺達はクリエイトの後に続いて、正面の受付カウンターらしき場所の後ろにある扉を通り抜ける。

 

  足元が木材から土に変わり、見上げれば青空のキャンバスに雲が絵を描いている。四方は壁に囲まれ、所々に武器が立てかけてある。

  植物などは無いが、言うなれば箱庭である。見た感じ、ここで訓練などをするのだろう。なるほど、ここならば手合せするのに適切だ。

  俺が辺りを見渡している間に、クリエイトは箱庭の中央に剣を杖にして仁王立ちしている。

 

  「これから、君達の強さを測るべく、私と全力で手合せをしてもらう。殺す気で来てもらって構わない。私も君達が死なない程度に反撃するので、覚悟してくれ」


  クリエイトの発言にデジャブを感じずにはいられない。この世界の老人は、殺す気で来られるのが好きなのだろうか。そして、この台詞から察するに、重症ぐらいは負わされてしまうかも知れない。

  入って早々殺されかけるのは嫌だし、かといって老人に殺意を抱けるほど人間的に壊れてもいないので、まあ、ぼちぼちと戦って、戦力外だと思われない程度の強さを発揮できるよう頑張らなくてはいけないな。

 

  なんて、思っている俺を余所に、ジンは刀を抜いてクリエイトの前に立ち、無言のまま剣を交えようとしていた。



 ----------------------―

 

 

 


  俺はクリエイトの言葉を聞いて、俺は即座に行動を決定する。

  考えたことは一つ、紙一重で止められる斬撃で、相手を攻撃すること。


  俺は刀を抜き、相手を見据える。相手の武器は湾曲していないサーベルで、今は下ろされた右手が握っている。左手には鞘が握られており、目線は、油断なく俺とレイスを交互に見ている。

 

  息を吐き、吸い、また吐いて、刀をしっかりと両手で握り直し、一歩目を踏み込む。前傾姿勢で相手まで一直線に進み、刀を振り上げ、相手の首元まで切り下ろそうとし―――乾いた金属音が鳴る。

  一瞬の膠着(こうちゃく)の後、俺は飛び退き、体勢を立て直す。相手はサーベルを持った右手を下ろし、再び前と同じ姿勢に戻る。


  初撃は防がれた。寸止めする気だったとはいえ、かなりの力で刀を振るい、防がれた後にも押し込もうとしたにも関わらず、相手はビクともしなかった。

  変な遠慮はいらなかった。きっとこの人も、俺よりずっと強い。ならば、次からは……


  ―――全身全霊を持って、斬る。

 



 ――----------------


 

  素晴らしい速度の攻撃だった。剣速が弱かったのはわざとだとしても、よくこれ程までの力をその若さで得たものだ。

 

  「全力で来たまえ。君達のような未来ある若者が、こんな老いぼれに遠慮することは無いぞ」


  さて、どう来る。



 ――-----------------


  俺は、目の前で起きた出来事に息を呑んだ。ジンの一撃の凄まじさと、それを防ぎ切ったクリエイトの強さを見たためだ。

  そして、安心した。これならば、俺が魔法を当てようとも、死んでしまうようなことは無いだろう。

  俺は鞘から銀杖を抜き放ち、魔法を唱える。と言っても、頭の中で思い描ければ、魔法は勝手に発動するのだが、偉大なる魔導師に言われたことは守らなくてはならない。

  イメージするのは巨大な雹。

 

  「降り注げ――氷塊雨(アイスレイン)――」


  俺の頭上高くにソフトボール並みの大きさの雹をいくつも創り出す。


  「ほう、氷の魔法か。凄いな」

 

  そして、口だけを動かしたクリエイトに向けて、雹が横殴りの雨の如く降り注ぐ。ここで氷槍をイメージしなかったのは、殺傷能力が高そうに見えたからなのだろうか。俺にもよく分からない。


  「だが――」

 

  クリエイトの言葉が最後まで発せられる前に、雹がぶつかるおぞましい音が、箱庭に響いた。

 

  「まだ、遠慮が見えるな」


  立ち上る土煙の中で、平然とクリエイトは立っていた。彼の周りには、真っ二つになった雹が、いくつか転がっていた。つまりは、当たりそうだった雹だけを斬ったのだろう。

  俺は思わず笑ってしまう。これ程までの強さを見て、懐かしさを覚えたからだ。

  次からは本気を出そう、いや、今から本気を出そう。殺す気とまではいけないなれど、イメージをより深く、鮮明に、詳細にし、相手を攻撃する意思を持って、魔法を創り出す。



  ―---------------------

 

  凄い魔法だ。魔法なんて数回しか見たことがないが、やはりレイスは凄い魔法使いなんだと思った。


  俺は刀を両手でしかと握り、相手の全体を見る。

  魔法を無傷で防ぎきっており、先ほどまでとほぼ同じ体勢で、こちらを油断なく観察している。地面は先ほどの魔法で穴だらあけになっている。だが、氷の塊は既に無くなっている。

  俺は、相手を中心に反時計回りに回り、相手との間に穴があまり開いていない場所で止まる。

  相手は目線のみを動かし、不動のまま、こちらの出方をうかがっている。


  俺は神経を研ぎ澄ませる。息を吸い込み、吐き出し、吸い込み、止める。


  一歩目を踏み込み、最高速で間合いまで詰め寄り、刀を振り上げ、振り下ろす。交錯した刃が金属音を鳴らし、一瞬の硬直の後、俺は刀を引き戻して、胴体を横薙ぎにしようと振り切る。相手は刀の間合いだけ下がり、俺はそれに反応して踏み込み、斬り上げ、右足を引いて斬撃を避けた相手に、再び刀を降り下ろ―――


  右頬に強い衝撃を受け、俺は大きくバランスを崩し、咄嗟に立て直すために相手から距離を取る。

 

  左手に握られた鞘による攻撃か。

  俺は切れた口内の血を吐き捨てながら、冷静に相手を観察し直す。


  「良い斬撃だったぞ」


  相手の言葉がはっきりと聞こえるが、俺の目線は思わず横を向いてしまう。



 ――――――――――――――――――---


 

 イメージするのは、氷の弾丸。先端を尖らせた小さく鋭い氷を回転させ、貫通力と数量を持って相手を攻撃する。

 

  「粉砕せよ――氷弾(アイスバレット)――」


  ジンが飛び退いたのを確認し、杖を振り上げ、俺の頭上に無数の氷の弾丸を創り出す。そして、それら全てに回転を加える。

  遠慮はしない。きっとあの人は死なないだろうから。

 

  俺は杖を振り下ろす。



  ---------------



  面白い。まさかこれ程までの魔法を、あんな短い詠唱で創り出せるとは……思わず笑みがこぼれる。若者の可能性というのは、何時でもこの老いぼれを楽しませてくれる。

  さて、すさまじい量の氷の粒だ。もはや、私を狙ってすらいない。周囲の空間全部が攻撃範囲、全てを避け切るのは難しい。ならば―――



 ----------------


  俺の目に映ったのは、こちらに突っ込んでくるクリエイトの姿だった。氷弾を避けつつ、時にはサーベルで斬り、鞘ではじきつつ、真っ直ぐに俺に向かってきた。

  相手が突っ込んでくるのは予想外で、対処を思いつく前に、鞘が振りかぶられ―――


  俺は咄嗟に相手との間に氷の壁を創り出す。


  「何だと」

 

  鞘が氷の壁とぶつかり、クリエイトの困惑の声と氷が砕ける音が聞こえる。氷壁は砕け散ったが、俺が鞘で殴打されることは無かったが、思いっきり無詠唱で魔法を使ってしまった。

  「馬鹿者が」という首元からの声が聞こえる。仕方がないじゃないか、殴られたくは無かったんだ。


  「ほう、無詠唱での魔法……君は――神の理から外れた者(ヘレティック)なのか」


  ヘレティックってなんだ。というか、偉大なる魔導師いわく、魔法を無詠唱で唱えると、悪魔に魂を売った化け物だとか、魔人だとか言われるんじゃないのか。


  「君は知らないのかい?一つの属性に限り無詠唱で強力な魔法を放てる、神の理から外れた人間の通称だよ」


  俺の顔は素直らしく、クリエイトはそう言って神の理から外れた者(ヘレティック)の説明をしてくれた。確かに、俺は氷を使う魔法を無詠唱で発動できる。だが、そんな通称は聞いたことがない。小声で詠唱したとでも言って誤魔化した方がいいのではないか、なんて苦し紛れの言い訳も浮かぶが、ここまで沈黙してしまった以上、もはや退路はない。


  「はい。実は、そうなんです」


  俺はそう言って頷いた。幸い、魔法の鞄は肩に掛かっているので、最悪の場合は魔法を使って逃げ出して、どこか遠くでもう一度やり直そう。

  とはいえ、クリエイトの発言曰く、ヘレティックというのは神の理から外れた人間の総称と言っていた。つまり、俺は少なくとも人間だと思われているらしい。もしかしたら、グリモアールが言っていた数千年の間に、常識も変化しているのかも知れない。


  「そんな怖い顔しなくても、別に取って食ったりはしないよ。国によっては神の理から外れた者(ヘレティック)を差別している所もあるが、この国では、そんなことはしていない」


  どうやら、俺の知るグリモアール経由の異世界常識とは異なり、偉大なる魔導師が生み出した完成形術式は、化け物呼ばわりでは無く、人類の中での差別対象になっているらしい。

  これは、かなり扱いが進歩していることになるだろう。魔人や悪魔呼ばわりから、同じ人間内での差別になっているのだから。ソースは魔女狩り。

 

  ならば、聞いておきたいことを聞いておこう。


  「私は、無詠唱で魔法が使える者は、悪魔や魔人だと思われてしまうと聞いたのですが……」


  言葉を濁したが、疑問形でクリエイトに向けて投げかける。

  かなり真剣な口調で話したつもりなのだが、クリエイトは不思議な顔をして答える。


  「そんな歴史上の存在が、この世にいるわけが無かろう。悪魔や魔人等の高位魔族は、もう数千年も前に滅びたと、教会から公表されている」


  クリエイトのいう事が事実であれば、確かに俺が化け物呼ばわりされる事は有り得ない……いや、この世界にも、少なからず化け物はいる。


  「それに、魔法を使えるような魔獣はとても珍しく、使えたとしても君のように流暢に言葉を使うことは出来んよ」


  なるほどな。高位魔族というのは知性の高い魔獣的な意味なのだろう。





  突然、俺達が箱庭に入ってきた時の扉が開かれ、俺達全員の視線が、白髪を揺らしながら入ってきた人物に向けられる。


  「うるさいですよ。あーあ、こんなに訓練場を穴だらけにして。ちゃんと埋めてくださいね」


  穏やかな声音で微笑みを携えながら、クリエイトの夫人はそう言った。目線の先にいるクリエイトは、参ったな、といった表情で夫人の言葉を聞いている。


  「書類仕事ばかりで体を動かしたくなるのは分かりますが、あなたももう歳なんだから、自制しなさい」


  クリエイトを見つめながら、たしなめるような口調で夫人は言った。そして、俺達を見ながら明るく言った。


「はい、これでもう終わり。その穴を埋めてさっき食事したところに来なさい。何か飲み物を出しましょう」


  そう言うと、夫人は臙脂色のロングスカートを軽く浮かせながら身を翻し、箱庭から出て行った。


  「全く、妻には敵わないな。君達も結婚するときはよく考えたまえ」


  そう言ったクリエイトの笑顔を見ると、俺の疑心も疑問も消えてしまいそうになる。


  「さて、この穴だが……レイス君、魔法でどうにかならないかね」


  なんだか俺だけが相手を敵かも知れないと考えているみたいで、馬鹿らしくなってくる。

  まあ、いいか。一度裏切られるまでは信じよう。虎穴に入らずんば虎児を得ずと、俺自身思っていたのだし。


  「ええ、私がやった事ですし、私がどうにかしますよ」


  うじうじと考えることはいったん止めて、俺は魔法をイメージする。今回は唱える呪文的なやつを考えなくていいので、イメージしやすくていい。あれ、考えるのは楽しいのだが、唱えるのは結構恥ずかしかったのだ。とはいえ、差別を受ける事もあるらしいから、普段は呪文を唱えなくてはならないだろう。

 

  切り替えてイメージしよう。イメージするのは地面をならす大きなトンボ。トンボと言っても空飛ぶ昆虫の方では無く、地面を整地する方のトンボだ。

  創り出したトンボを地面で動かし、穴だらけの地面を整地していく……シュールだ。

  トンボを動かしながら、ふと、我ながらこんな事が出来るなら、空を飛んだり、物を浮かせたり出来そうなのにな、なんて思うのだが、そんな事は出来なかった。全く、魔法というのは不思議なものだ。


  俺がトンボを動かしている間に、クリエイトとジンが何やら話している。そう言えば、ジンはクリエイトに殴られていたから、大方そこら辺の事を話しているのだろう。


 

  「さて、それではアフターバトルティーとでも洒落込むかね」


  俺が整地を終え、クリエイトとジンも話を終えたところで、クリエイトがそう言って歩き出す。


  「ああ」


  ジンがその後に、良い笑顔で笑いながら続く。どうやら殴られたことは気にしていないらしい。

  俺は、わざわざ返事をする必要を感じなかったため、ただ黙して後に続く。


  「レイス、お前の魔法、凄いな」

 

  ジンが歩みを少し緩めて俺の隣に来てそう言った。


  「お前の剣術も凄かったぞ」


  褒められたら褒め返す、謙遜するよりも、こうすれば両方が幸せになれるだろう。


  「俺の剣に剣術なんてものは無いんだけどな」


  なんだと、それは不味いことを言った。

 

  「それに、速かった」


  一度出した言葉は取り消せないので、せめてもの上書きをする。ふと、これもデジャブっていると気付く。


  「まあな」


  いい答え方だ。下手に謙遜されるより、よほど話しやすい。


  俺達は、そんな雑談をしながらクリエイトの後に続いた。

 

  アフターバトルティーが楽しみだ。ネーミングセンスは残念だが。

 

 

 


 


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